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第15話

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 実のところ、ローラの準備自体は既に完了していた。いつもの制服とは違う白い衣装に身を包んだローラは、どこかのお姫様を思わせる可憐さがある。だがその表情は、着飾った華やかな雰囲気とは正反対に、悲観に満ちていた。いよいよもって逃げられない自分の運命を、心から悟ったのだろう。

 そんな彼女の気持ちを少しでも軽くしてあげたかったが、どう考えても励ましになる言葉などあるはずもなく、私はただ小さくローラの名を呼ぶしかなかった。

「ローラ……」

 だが、意外にもローラはもう怯えていなかった。沈みゆく気持ちと自分の運命を完全に受け入れたのか、どこか吹っ切れたようにすら見える。ローラは私を見て微笑を浮かべると、左右に軽く首を振って言う。

「もう大丈夫。行ってきます。私がウジウジしていたせいで、喧嘩に巻き込んでしまってごめんなさい。……でも、かばってくれてありがとう。とても嬉しかった」

 思っていたよりも芯が強いのか、追い詰められたことで逆に成長したのか、今のローラはいつもよりずっと大人びて見えた。そして、しばらく黙っていたジェームスが口を開く。

「では行きますよ。……そうそう、後で問題にならないように最初に言っておきますが、ローラ、大公様の寝室で起こったことは誰にも話してはいけませんよ。外部の者はもちろん、大公家の者に対してもです」

「はい」

「この約束は、すべてのことに優先されます。だから、あなたの直属の上司である上級メイドたちに問いただされても『語ることを許可されていないのでお答えできません』と言えばそれで終わりです。まあ、あの二人はそんなことを尋ねたりはしないでしょうが」

 最後にジェームスは、私とアマンダの顔を順番に見て、一際厳しい声で言う。

「二人とも、今の話を聞いていましたね。好奇心もあるでしょうが、大公様の寝室から戻ってきたローラに対し、何があったか聞くことは禁止します。特にアマンダ。寝室でのことは、今後話題にすら出してはいけません。この約束を破った場合、厳罰を言い渡します。分かりましたね」

 アマンダは返事をしない。約束など無視して、戻ってきたローラから徹底的に情報を引き出し、ついでにいじめ倒してやろうと思っているに違いない。ジェームスはそれを見越して、先に釘を刺しておくことにしたわけか。ほんの少しだけ、私は彼のことを見直した。

 今だに返事のないアマンダに対し、ジェームスはもう一度、ハッキリ言った。

「あなたたちにはある程度の自由が認められていますし、こちらも下男下女のように扱う気はありません。しかしそれは、あくまでこちらの定めたルールにあなたたちが従っている場合です。ルールを破る者は決して許しません。最悪の場合、命すら取られることもあると理解してください。いいですね」
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