上 下
13 / 35

第13話

しおりを挟む
 他人に文句をつけるだけあって、アマンダは物覚えが早く、仕事をこなすのも早かった(その代わり、不遜な態度で先輩と大喧嘩になったり、露骨にサボることも多かったけど)が、だからといってこの言い方はない。ただでさえいきなり大公様に呼ばれて怯えているローラは、この恫喝でますます縮みあがってしまった。

 その竦んだ態度が、アマンダの優越感と嗜虐心を増加させたのか、あるいは一番に呼ばれなかった敗北感をかき消すためなのか、今日はいつも以上にしつこくローラをいじめる。

「ああ、そうか。あんたはメイドとして無能だから、大公様はさっそく寝室に呼んで、別の方法で役に立ってもらおうと思ったってわけね。そっかそっか、納得だわ。あ~あ、こんなことなら、私もあんたみたいに無能のフリでもしておくんだったわ。でも私って有能だから、役立たずのフリなんてできないのよねぇ」

「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……」

「何が『ごめんなさい』なわけ? なんで私に謝るの? 『私の方が可愛いから、先に呼ばれちゃってごめんなさい~』てこと? あんた、私を馬鹿にしてるわけ?」

「そ、そんな……私、そんなつもりじゃ……」

 無茶苦茶だ。恫喝して、相手が謝ったらそれをネタにしてさらにねちねちと責め立てる。アマンダの言うことにそもそも正当性などなく、大人しいローラをストレス解消の道具にしているだけだ。ローラが謝ろうが、何をしようが、アマンダの気が済むまでこの陰湿ないびりは続くのだろう。

 聞くに堪えない。
 私は頬杖を突きながら、呆れたようにアマンダに言う。

「ふぅん。『私の方が可愛いから、先に呼ばれちゃってごめんなさい~』って言葉が自然と出てくるってことは、内心、ローラの方が自分より可愛いって認めてるわけね」

「なんですって……。あんた、喧嘩売ってんの?」

 今ので、アマンダの攻撃対象がローラから私に変わったようである。結構なことだ。これ以上ローラがいじめられるのを見なくて済む。

「そんなもの、売りたくないけどね。いつもいつも、何かにつけてローラをいびって、うんざりなのよ。さっき、ローラは時間をかけなきゃ仕事ができないって言ってたけど、先輩に指示されたことは期限内にきちんとやり遂げてるわ。少なくとも、責められるほどの失敗はしてないし、そもそもそんな権限、あなたにないでしょ?」

「権限ならあるわ。優秀なメイドが無能なメイドを指導するのは当然じゃない。そこのノロマがグズだから、優秀な私が色々教えてやってるのよ。感謝してほしいくらいだわ」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,363pt お気に入り:1,133

アンバー・カレッジ奇譚

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:142pt お気に入り:0

川と海をまたにかけて

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:99pt お気に入り:0

1人の男と魔女3人

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:369pt お気に入り:1

祭囃子と森の動物たち

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:312pt お気に入り:1

俺の妹になってください

恋愛 / 完結 24h.ポイント:994pt お気に入り:9

ラグナロク・ノア

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:248pt お気に入り:3

恋と鍵とFLAYVOR

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:269pt お気に入り:7

憂鬱喫茶

ホラー / 完結 24h.ポイント:255pt お気に入り:0

処理中です...