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第10話

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 さすがは大公様の居所と言うべきか、並の貴族の屋敷とは規模がまるで違う。どちらかというと『屋敷』より『城』と呼んだ方がしっくりくるほど、立派な建物だった

 その正門前で、私たちは一度馬車から降ろされた。

『何のために降ろされたのだろう?』と互いの顔を見合わせる私たちを出迎えたのは、きらびやかな鎧に身を包んだ青年だった。門番だろうか? 彼は鎧と同じように、眩しいほどに輝くプラチナシルバーの髪を風に揺らし、呆れたようにジェームスに語りかける。

「ジェームス、また父上の命令で女の子たちを攫ってきたのか。まったく、罪深いことだな」

 その言葉に、ジェームスは露骨に顔をしかめた。

「フレッド。たとえ冗談でも『攫ってきた』などと言うのはやめていただきたい。大公家の品位を落とすことになる。彼女たちには労働の対価として十分な報酬が支払われる。これは正当な雇用契約だ。何も知らないくせに、口出ししないでもらおう」

 冷たい印象はあるものの、物腰は常に柔らかかったジェームスにしては珍しく強い言葉だった。鎧の青年――フレッドの言葉に対して熱くなっているのが、傍目にもわかる。フレッドはそんなジェームスに対して臆した様子もなく、さらに言葉を畳みかけた。

「そりゃ、何も知らないさ。父上もお前も、俺には何も話してくれないからな。だが、彼女たちを連れてくるのが『正当な雇用契約』とはお笑いぐさだ。世間が父上のことをなんて噂しているか知っているか? 若い娘に狂った好色大公だとさ。『大公家の品位を落とすことになる』だと? そんなもの、とっくに地に落ちてるよ」

「黙れ! 大公家の品位を落とす一因となったお前が、分かったようなことをほざくな! お前のような男が実の兄だと思うと吐き気がする! 門番なら門番らしく、無駄口を叩かず己の役目だけを全うしろ!」

 これまでに出た情報を整理すると、フレッドはジェームスの兄――つまり、大公家の長男で、何故か門番をやっているということになる。……貴族の長男が、鎧を着こんで自分の屋敷の門番をするなんてこと、あり得るのだろうか? そう思ってフレッドを見ていると、彼もまた私を見て、諭すように言った。

「お嬢ちゃん、悪いことは言わない。こんなところで働くのはやめておくんだな。今すぐ逃げ出してパパとママに泣きつけば、いくら好色な父上でも、追手を出してまで無理に自分のものにしようとはしないだろう」

 本心から同情して言っているのか、ジェームスとの売り言葉に買い言葉の口喧嘩の果てに言っているのかは分からないが、フレッドの言葉に私は少しだけムッとした。

 こっちだって好きこのんで来たわけじゃない。自分で自分の運命を選べるなら、とっくにそうしている。でも、卑劣な連中の言いなりになるしかないとしても、私は祖父母の人生を守りたい。だから覚悟してここに来た。こっちの事情も知らずに、親切ぶった助言はやめて。
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