義妹の身代わりに売られた私は大公家で幸せを掴む【完結】

小平ニコ

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第9話

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 そんな私の心中を知ってか知らずか、ジェームスは事も無げに言う。

「皆さん、早速打ち解けたようで何よりです。では、これからのことを説明しましょう。あなたたちの身分は、今日から大公家のメイドということになります。普段は直属の上司に指示を仰ぎ、メイドとしての仕事をこなしてください。そして、大公様からお呼びがかかったときは……」

 ジェームスはそこで一度言葉を切り、私たち三人の瞳を順番に見てから続きを語る。

「身なりを特に綺麗にして寝室に参上するのですよ。そこで、いかなる要求をされても決して拒んだり逃げ出したりしてはいけません。わかりましたね?」

 丁寧だが、有無を言わさぬ迫力のある説明だった。すぐ近くで「ぐすっ」と涙ぐむ音が聞こえる。どうやら、ローラが泣き出してしまったらしい。かわいそうに。私だって、泣いて何とかなるなら泣きたいが、泣いてもどうしようもないので唇を噛んで堪える。

 重苦しい空気の中、アマンダだけは意気揚々としていた。そして、先程のジェームスのように私たちの瞳を順番に見回してから、ふんすと鼻息荒く言う。

「見てなさい、あんたたち。一番に寝室にお呼ばれするのはこの私よ。きっと大公様のお気に入りになって、成り上がってやるんだから。私は特別な人間になって、特別な人生を過ごすのよ」

 意欲的なことだ。性格的には仲良くできそうにないが、この前向きさは見習うべきかもしれない。私は呆れ半分、感心半分といった感じで語りかけた。

「あなた、野心家なのね」

 野心家というフレーズが気に入ったのか、アマンダは少しだけ上機嫌になった。

「そうよ。……いえ、もともとはそうでもなかったけどね。大公様の妾になれるチャンスが舞い込んできたんだから、野心が芽生えるのも当然でしょ? こんな好機を目の前にして、めそめそ泣いてる情けない子と私は違うわ。大公様が年寄りだろうが何だろうが関係ない。絶対に私の虜にしてみせるんだから」

 ローラに侮蔑の視線をやりながら、吐き捨てるように言うアマンダ。意気込むのは結構だけど、この子は他人を見下さずには喋れないのだろうか。今の言葉で、ローラはますます委縮してしまった。

 その姿がかわいそうで、何かアマンダに言い返してやろうかと思ったが、それで喧嘩になれば、もっとローラを困らせることになるだろう。少し悩んだ結果、私は特に何も言わず、馬車の外の流れゆく景色を見て、大公家までの時間を潰すことに決めた。

 そして、それぞれの思いを乗せて、馬車は静かに走り行くのだった……





 大した時間もかからず、馬車は大公家に到着した。今まであまり意識したことがなかったが、大公様のお屋敷は私の実家からそう遠くないところにあったらしい。
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