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第8話
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初対面の相手に対してこの言い草。ブレアナとよく似ている。二人が会ったら、たぶん仲良しになれるだろう。いや、そうでもないか。同じタイプの人間は反発しあって上手くいかないことも多いって言うし。
そんなことを思いながら、意趣返しするようにニコニコと愛想笑いを浮かべ、私はアマンダに言う。
「私、雑用が好きだから嬉しいわ。大公様の寝室にも呼ばれたくないし、いいことずくめね。アマンダ。名誉ある『妾』の役目はあなたにお任せするわ。せいぜい頑張ってちょうだい。なれるものならね」
その言い方が癇に障ったのか、アマンダは私を射貫くように睨んだ。強い視線だ。気の小さい子ならこの視線だけで怯んでしまうだろうが、底意地の悪い義母義妹とずっと暮らしてきた私にとっては大したことじゃない。私もまたアマンダの瞳をじっと見つめ、二人の間に緊迫した空気が張り詰めた。
そんな堅い空気の中、これまで無言だった赤い髪の娘――ローラがおずおずと口を開く。
「あ……あの……喧嘩は……その……よくないと思います……。私たち、同じような境遇なんですから、きっと仲良くなれます……だから……えっと……喧嘩は……やめましょう……」
こっちの気が抜けるような、ふんわりとした声色だった。それでも言葉の最後の方は震えており、どうやら彼女は、相当な勇気を振り絞って喧嘩の仲裁をしてくれたようだ。そこから察するに、大人しいけど、とても気持ちの優しい子なのだろう。
……意外である。先程私が推測した通りに、大公様の好みが気の強い意地悪な娘なら、このローラは真逆だ。まあ、同じような娘を三人そろえるより、一人は違うタイプの娘がいた方がいいと思っただけなのかもしれないが。
ローラの言う通り、同じ境遇の私たち三人は仲良くすべきだと思うが、ブレアナと同じタイプのアマンダとはたぶん友達にはなれないだろう。しかし、ここはローラの顔を立てて矛を収めよう。私はローラの方を見て、小さく頭を下げた。
「あなたの言うとおりね。空気を悪くしてごめんなさい、ローラ。喧嘩を止めてくれてありがとう。この先不安だらけだけど、あなたみたいに優しい人が一緒で良かったわ」
嘘偽りのない、心からの言葉だった。私から謝罪とお礼を言われるとは予想してなかったのか、ローラは一瞬ビックリしたように目を丸くし、『お礼を言われるようなことはしていません』と主張するように、ふるふると首を左右に振って縮こまってしまった。
本当に謙虚で大人しい子だ。ブレアナやアマンダのようなふてぶてしいタイプならともかく、こんな気立ての良い子までも無理やり自分のものにしてしまう大公様に、さらなる嫌悪感が沸いてくる。
先程、大公様と懇意になればブレアナとグロリアに復讐できるかもしれないと思ったが、実際に大公様と顔を合わせた時、心の中にある嫌悪感を隠しておくことができるか、私には自信がなかった。
そんなことを思いながら、意趣返しするようにニコニコと愛想笑いを浮かべ、私はアマンダに言う。
「私、雑用が好きだから嬉しいわ。大公様の寝室にも呼ばれたくないし、いいことずくめね。アマンダ。名誉ある『妾』の役目はあなたにお任せするわ。せいぜい頑張ってちょうだい。なれるものならね」
その言い方が癇に障ったのか、アマンダは私を射貫くように睨んだ。強い視線だ。気の小さい子ならこの視線だけで怯んでしまうだろうが、底意地の悪い義母義妹とずっと暮らしてきた私にとっては大したことじゃない。私もまたアマンダの瞳をじっと見つめ、二人の間に緊迫した空気が張り詰めた。
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……意外である。先程私が推測した通りに、大公様の好みが気の強い意地悪な娘なら、このローラは真逆だ。まあ、同じような娘を三人そろえるより、一人は違うタイプの娘がいた方がいいと思っただけなのかもしれないが。
ローラの言う通り、同じ境遇の私たち三人は仲良くすべきだと思うが、ブレアナと同じタイプのアマンダとはたぶん友達にはなれないだろう。しかし、ここはローラの顔を立てて矛を収めよう。私はローラの方を見て、小さく頭を下げた。
「あなたの言うとおりね。空気を悪くしてごめんなさい、ローラ。喧嘩を止めてくれてありがとう。この先不安だらけだけど、あなたみたいに優しい人が一緒で良かったわ」
嘘偽りのない、心からの言葉だった。私から謝罪とお礼を言われるとは予想してなかったのか、ローラは一瞬ビックリしたように目を丸くし、『お礼を言われるようなことはしていません』と主張するように、ふるふると首を左右に振って縮こまってしまった。
本当に謙虚で大人しい子だ。ブレアナやアマンダのようなふてぶてしいタイプならともかく、こんな気立ての良い子までも無理やり自分のものにしてしまう大公様に、さらなる嫌悪感が沸いてくる。
先程、大公様と懇意になればブレアナとグロリアに復讐できるかもしれないと思ったが、実際に大公様と顔を合わせた時、心の中にある嫌悪感を隠しておくことができるか、私には自信がなかった。
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