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第7話

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 そう思うと、少しだけ希望が湧いてきた。その希望が表情にも表れたのか、ジェームスが意外なものでも見たかのように言う。

「やっと表情が柔らかくなりましたね。……気づいてましたか? ブレアナ。あなた、今にも噛みつきそうな顔をしていたんですよ。これまで色々な娘を迎えに行きましたが、だいたいは皆、不安そうな怯えた顔をしている。あなたのように、隠す気もない怒りを前面に出している娘は初めてです」

 そこで私は、ニッコリ微笑んで言った。

「じゃあ、その書類に書き加えておいてください。『ブレアナは底意地が悪いだけじゃなく気が短い』って」





 それから馬車は二つの家をまわり、ジェームスは新たに二人の娘を馬車内に連れ込んだ。一人は赤い髪の娘で、見るからにおどおどした態度でずっと目を伏せており、もう一人のブロンドの娘は、物怖じした様子もなく、まるで自分の家のソファに座るように、ゆったりと腰を下ろしていた。

 この二人も私と同じく(私はブレアナの身代わりだが……)、大公様の命令で招集された哀れな娘たちなのだろう。そう思うと多少の親近感がわき、彼女たちのことが知りたくなった。そんな私の気持ちを悟ったみたいに、ジェームスがこちらを見て、二人のことを紹介する。

「ブレアナ。こちらはローラとアマンダ。きみと同じく、父上のご意思により、これから大公家で働くことになる娘たちです。仲良くするといいでしょう」

 そんなジェームスの言葉を、ブロンドの娘――アマンダは鼻で笑った。

「仲良くする意味なんてあるの? 『これから大公家で働く』なんて、持って回った言い方してるけど、私たち三人って、つまりは大公様の妾候補ってことよね? ならライバルじゃない」

 先程の私の態度もかなり生意気だったが、アマンダの態度はそれ以上だった。仮にも大公様の次男であるジェームスにとんでもない口の利き方である。彼女もブレアナと同じく大公様の趣味で集められたのだから、大公様は意地が悪く、気の強い娘が好みなのかもしれない。

 それにしても『妾候補』とは……

 こう言っては何だけど、私たちはそんな上等なものではないだろう。せいぜいが愛玩動物。悪く言えば玩具に近いのではないだろうか。このアマンダはその事実を受け入れられないのか、それとも、自分には大公様の妾となるほどの価値があると本気で思い込んでいる自信家なのか。

 そんな私の冷めた視線を感じ取ったのか、アマンダはこちらを見て、品定めでもするかのように私をじっくりと観察し、攻撃的な言葉を発した。

「あんた、名前何だったっけ? ……えっと、そうそう。ブレアナだったわね。ふぅん、大公様のお眼鏡にかなっただけあって、見てくれはまあまあってとこね。でも、可愛げがなさすぎるわ。愛想笑いもできない鉄仮面みたいなそのお顔じゃ、大公様の寝室に呼ばれることはないわよ。きっと、雑用ばかり押し付けられておしまいね」
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