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第6話

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 誰がまとめたのか知らないが、面白い書類だ。ブレアナの表面上の快活さだけではなく、底意地の悪さについても記載してあるのが好印象である。

 ……そうか。よく考えたら、ブレアナの身代わりだからといって、あんまり良い子にしている理由もない。向こうにもブレアナの性格の悪さは知れ渡っているようだし、やりすぎて罰を受けない程度に好きなことを言ってもいいんじゃないだろうか。そう思った私は、視線を窓からジェームスに向け、しれっと言い放った。

「これからのことを思うと、あまりおしゃべりする気分にはなれませんので」

 我ながら、大公家の次男に対してなんという態度だと思う。だが、これくらい言う権利はあるとも思う。私を身代わりにしたのは、私の卑怯な家族たちだが、大公様がブレアナを欲しなければこんなことにはならなかった。

 だから、年若い娘を欲望のまま自分のものにしようとする大公様にも、その手先となって動いているジェームスにも嫌悪感がある。『底意地の悪いおしゃべりなブレアナ』は、それを隠さず表に出した――というわけである。

 だが、意外にもジェームスは不快そうな態度をとらなかった。それどころか、初めて微笑を浮かべ、私の顔を覗き込みながら言う。

「なるほど。ちゃんと『これからのこと』を考えているのですね。話が早くて助かりますよ。時々、自分が何のために呼ばれたのか分かってない初心な娘もいるものですから。それで、こちらの真意を知ると驚いて逃げ出してしまう。で、大公家であったことをあれこれと言いふらし、悪い噂が立つ。困ったものです」

 私もまた、ジェームスの顔を覗き込むようにして言う。

「私は逃げませんが、逃げた子の気持ちはわかります。悪い噂が立って困るというのなら、噂の元になるようなタチの悪いことは控えたほうがよろしいのでは?」

 これだけ言っても、ジェームスの微笑は崩れなかった。

「私もそう思いますが、父上の意向には逆らえません。それに、召集された娘たちにとって悪いことばかりではありませんよ。大公家との繋がりができますし、その気があれば下働きから大きく出世することもできますから。給金だって、普通の仕事ではとても稼げない額を受け取ることができます。……才覚があればの話ですが」

 なるほど。
 それは確かに、悪い話ではない。

 多額の給金さえあれば、みじめにブレアナの身代わりなどしなくても、自分のお金でお爺ちゃんとお婆ちゃんの生活を守ってあげることができるし、大公様と懇意になることで、あの卑劣なブレアナとグロリアに罰を与えることもできるかもしれない。
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