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第2話
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今彼女が述べた通り、私とブレアナは異母姉妹だ。
私の本当のお母様は体が弱く、もうずっと昔に天に召されてしまった。それから、亡くなったお母様と入れ替わるようにお父様と再婚したのが、今のお母様だった。
そして、お父様と今のお母様の間に生まれたのが、ブレアナである。……ブレアナの年齢は私とほとんど変わらない。つまり、お父様は私のお母様と結婚生活を営んでいながら、影でブレアナのお母様を愛人にし、二重生活をしていたのである。
それだけでもショックなことだったが、さらにつらかったのは、お父様が私や元のお母様よりも、ブレアナと今のお母様の方を愛していることだった。
いつだったか、お父様が私に対し、こんなことを言った。
『シンシア。お前、年々"あれ"に似てくるな。あれは真面目で気立ては良かったが、つまらん女だった。女は多少ワガママでも、刺激的な方がいい。少しはブレアナを見習え。あの子は面白い娘だ』
お父様は、もう私のお母様を名前で呼びもせず、興味のないものを嘲るように"あれ"と呼んだ。もともと私は、お父様とぎこちない関係だったが、その日以来さらに疎遠になり、お父様の方も、多少は残っていた親子の情がどんどん薄まっていったのか、今では他人よりもよそよそしい間柄となっていた。
この家に、私を愛してくれる家族は一人もいない――
分かってはいたが、それでもブレアナの代わりに、良くない噂のある大公様の元へ送られるという事実は私を打ちのめした。それと同時に、小さな種火のような怒りが心に灯り、私はブレアナに反論する。
「ブレアナ。大公様に呼ばれたのは私じゃなくてあなたでしょ? たとえ正体がバレなくても、身代わりに違う人間を送るということは、大公様を欺くのと同じじゃない。そんなこと許されるはずがないわ」
その言葉に異を唱えたのは、ブレアナではなくお母様だった。
「許されるわよ。年頃の娘を手籠めにしようとするような変態老人から、穢れのない我が子を守るためだもの。神様も当然認めてくださるわ。ええ。ブレアナは一点の穢れもない美しい娘。いくら高貴な身分とはいえ、汚らしい年寄りになんて触れさせてたまるものですか。汚いものは汚いもの同士でくっついていればいいのよ」
今の言葉は、私を『汚いもの』と蔑むのと同義だった。私はそれほど気が強い方でもないが、これにはさすがに憤慨し、怒りのこもった瞳でお母様を見る。その目つきが気に入らなかったのか、お母様はブレアナそっくりに鼻で笑い、嘲りの言葉を発した。
「あら? なあに、その目は? 本当の事でしょう? あなたの母親は貧しい家の娘で、たまたま良家の長男の目に留まり、良い暮らしができていただけ。身なりを整えても、貧しく卑しい血は変えられないわ。シンシア。あなたにもあの女の卑しい血が流れている。言うなれば、生まれつきの穢れた女であり、汚いものなのよ?」
私の本当のお母様は体が弱く、もうずっと昔に天に召されてしまった。それから、亡くなったお母様と入れ替わるようにお父様と再婚したのが、今のお母様だった。
そして、お父様と今のお母様の間に生まれたのが、ブレアナである。……ブレアナの年齢は私とほとんど変わらない。つまり、お父様は私のお母様と結婚生活を営んでいながら、影でブレアナのお母様を愛人にし、二重生活をしていたのである。
それだけでもショックなことだったが、さらにつらかったのは、お父様が私や元のお母様よりも、ブレアナと今のお母様の方を愛していることだった。
いつだったか、お父様が私に対し、こんなことを言った。
『シンシア。お前、年々"あれ"に似てくるな。あれは真面目で気立ては良かったが、つまらん女だった。女は多少ワガママでも、刺激的な方がいい。少しはブレアナを見習え。あの子は面白い娘だ』
お父様は、もう私のお母様を名前で呼びもせず、興味のないものを嘲るように"あれ"と呼んだ。もともと私は、お父様とぎこちない関係だったが、その日以来さらに疎遠になり、お父様の方も、多少は残っていた親子の情がどんどん薄まっていったのか、今では他人よりもよそよそしい間柄となっていた。
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分かってはいたが、それでもブレアナの代わりに、良くない噂のある大公様の元へ送られるという事実は私を打ちのめした。それと同時に、小さな種火のような怒りが心に灯り、私はブレアナに反論する。
「ブレアナ。大公様に呼ばれたのは私じゃなくてあなたでしょ? たとえ正体がバレなくても、身代わりに違う人間を送るということは、大公様を欺くのと同じじゃない。そんなこと許されるはずがないわ」
その言葉に異を唱えたのは、ブレアナではなくお母様だった。
「許されるわよ。年頃の娘を手籠めにしようとするような変態老人から、穢れのない我が子を守るためだもの。神様も当然認めてくださるわ。ええ。ブレアナは一点の穢れもない美しい娘。いくら高貴な身分とはいえ、汚らしい年寄りになんて触れさせてたまるものですか。汚いものは汚いもの同士でくっついていればいいのよ」
今の言葉は、私を『汚いもの』と蔑むのと同義だった。私はそれほど気が強い方でもないが、これにはさすがに憤慨し、怒りのこもった瞳でお母様を見る。その目つきが気に入らなかったのか、お母様はブレアナそっくりに鼻で笑い、嘲りの言葉を発した。
「あら? なあに、その目は? 本当の事でしょう? あなたの母親は貧しい家の娘で、たまたま良家の長男の目に留まり、良い暮らしができていただけ。身なりを整えても、貧しく卑しい血は変えられないわ。シンシア。あなたにもあの女の卑しい血が流れている。言うなれば、生まれつきの穢れた女であり、汚いものなのよ?」
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