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第1話
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「シンシア。お前は明日からブレアナの身代わりになり、大公様のお屋敷で働くのだ。わかったな。学校には退学届けを出しておいたから、もう行かなくていいぞ」
お父様は、簡単なお使いでも言いつけるかのようにそう言うと、私の返事も待たずに、大きなあくびをして部屋を出て行った。室内に残されたのは、茫然とする私とお母様、そして私の義妹であるブレアナの三人。
私は、たった今お父様が言ったことの意味がわからず、お母様とブレアナを交互に見た。ブレアナはそんな私を鼻で笑い、お母様は冷淡な瞳でこちらを見て、面倒くさそうに説明を始めた。
「今あの人が言った通りよ。明日からあなたは大公様のお屋敷に行くの。体ひとつで行けばいいから、特に用意する物はないけど、まあ、身ぎれいにはしておきなさい」
「あ、あの、待ってください、お母様。どうしてそういうことになるのか、まったくわかりません。理由を……」
そんな私の言葉を遮るかのように、ブレアナが口を開いた。
「馬鹿ね、シンシア。理由ならお父様がさっき言ったじゃない。あんたは私の"身代わり"になるのよ。くすくすくす」
いったい何がそんなに面白いのか、ブレアナはニヤニヤと顔をゆがめている。その表情には、倒錯した優越感のようなものが感じられた。ブレアナのこういう態度はいつものことだが、『身代わり』の一言だけでこれまで通っていた学校を退学となることに納得なんてできるはずがない。私はなおも食い下がった。
「ブレアナ、あなたの言う『身代わり』ってどういうこと? ちゃんと説明してもらわなきゃわからないわ」
「しょうがないわね。面倒だけど教えてあげる。私は親切で優しいからね。……シンシア、あんた、大公様の"おかしな趣味"については知ってるわよね?」
私は頷いた。
「噂程度だけど……」
ブレアナも頷き、ニヤニヤ顔で話を続ける。
「大公様は毎年、年頃になった良家の子女を何人か集めて、自分の屋敷でメイドとして働かせる。実家には十分な報酬を払うし、大公様との繋がりができるということで、誰も文句は言わない。ま、普通に考えたら大公家で働くってことは、なかなか名誉なことだものね」
「…………」
「でもその"働く"内容には、大公様の夜伽も含まれてるらしいのよ。というより、それが本来の目的で、建前としてメイドにしてるんでしょうね。夜伽の意味、わかる? もっと分かりやすく言うなら、大公様は孫みたいな年齢の娘たちを集めてメイドにして、娼婦の代わりをさせてるってことよ。まったく、おぞましいわよね」
本当におぞましい話である。こんな話には相槌すら打ちたくない。なので私は、ただ黙っていた。ブレアナは、私からの反応など特に期待してはいなかったらしく、そのまま語り続ける。
「あぁ、気色悪い。あんな変態ジジイが大公だなんて、世の中間違ってるわ。で、困ったことに、この私が今回、大公様の目に留まり、お屋敷に招かれたってわけ。でも私、嫌なのよね。年寄りが近くにいるだけでも加齢臭がしてストレスなのに、夜伽の相手をさせられるなんて冗談きついわ。おぇっ。想像しただけで吐きそう」
本当に"吐きそう"といった感じで、ブレアナは何度か大げさなジェスチャーをすると、私に向かって指をさした。
「で、お父様やお母様と相談した結果、あんたに代わりに行ってもらうことにしたってわけ。私とあんたって、腹違いのわりにかなり似てるじゃない? 髪型を同じにしたら、よく知ってる人じゃないと見分けなんかつかないわ」
お父様は、簡単なお使いでも言いつけるかのようにそう言うと、私の返事も待たずに、大きなあくびをして部屋を出て行った。室内に残されたのは、茫然とする私とお母様、そして私の義妹であるブレアナの三人。
私は、たった今お父様が言ったことの意味がわからず、お母様とブレアナを交互に見た。ブレアナはそんな私を鼻で笑い、お母様は冷淡な瞳でこちらを見て、面倒くさそうに説明を始めた。
「今あの人が言った通りよ。明日からあなたは大公様のお屋敷に行くの。体ひとつで行けばいいから、特に用意する物はないけど、まあ、身ぎれいにはしておきなさい」
「あ、あの、待ってください、お母様。どうしてそういうことになるのか、まったくわかりません。理由を……」
そんな私の言葉を遮るかのように、ブレアナが口を開いた。
「馬鹿ね、シンシア。理由ならお父様がさっき言ったじゃない。あんたは私の"身代わり"になるのよ。くすくすくす」
いったい何がそんなに面白いのか、ブレアナはニヤニヤと顔をゆがめている。その表情には、倒錯した優越感のようなものが感じられた。ブレアナのこういう態度はいつものことだが、『身代わり』の一言だけでこれまで通っていた学校を退学となることに納得なんてできるはずがない。私はなおも食い下がった。
「ブレアナ、あなたの言う『身代わり』ってどういうこと? ちゃんと説明してもらわなきゃわからないわ」
「しょうがないわね。面倒だけど教えてあげる。私は親切で優しいからね。……シンシア、あんた、大公様の"おかしな趣味"については知ってるわよね?」
私は頷いた。
「噂程度だけど……」
ブレアナも頷き、ニヤニヤ顔で話を続ける。
「大公様は毎年、年頃になった良家の子女を何人か集めて、自分の屋敷でメイドとして働かせる。実家には十分な報酬を払うし、大公様との繋がりができるということで、誰も文句は言わない。ま、普通に考えたら大公家で働くってことは、なかなか名誉なことだものね」
「…………」
「でもその"働く"内容には、大公様の夜伽も含まれてるらしいのよ。というより、それが本来の目的で、建前としてメイドにしてるんでしょうね。夜伽の意味、わかる? もっと分かりやすく言うなら、大公様は孫みたいな年齢の娘たちを集めてメイドにして、娼婦の代わりをさせてるってことよ。まったく、おぞましいわよね」
本当におぞましい話である。こんな話には相槌すら打ちたくない。なので私は、ただ黙っていた。ブレアナは、私からの反応など特に期待してはいなかったらしく、そのまま語り続ける。
「あぁ、気色悪い。あんな変態ジジイが大公だなんて、世の中間違ってるわ。で、困ったことに、この私が今回、大公様の目に留まり、お屋敷に招かれたってわけ。でも私、嫌なのよね。年寄りが近くにいるだけでも加齢臭がしてストレスなのに、夜伽の相手をさせられるなんて冗談きついわ。おぇっ。想像しただけで吐きそう」
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「で、お父様やお母様と相談した結果、あんたに代わりに行ってもらうことにしたってわけ。私とあんたって、腹違いのわりにかなり似てるじゃない? 髪型を同じにしたら、よく知ってる人じゃないと見分けなんかつかないわ」
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