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第197話【完結】
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アルベルト様は、ヨーレリーのことなど話したくないとでもいうみたいに、やや憤慨して言う。
「もう気に病むな。あれは、お前が思い悩むほどの相手ではない。散々お前を苦しめ、殺そうとした挙句、謝罪ひとつしなかった。最後の言葉が『もう疲れた』とは、どこまでも自分勝手な女だ」
それは、その通りかもしれない。
しかし今の私には、殊更にヨーレリーを責める気はなかった。
彼女は本当に、心の底から疲れ切っていたのだろう。死が救いというのはあまりにも悲しいが、それでもやっと、ヨーレリーは楽になれたのかもしれない。
「それにしても、今まで起こったことのすべてが、ディアンヌさんがヨーレリーにかけた呪いの結果なのだとしたら、私という人間は、そもそもなんなのでしょうか。私は結局、ヨーレリーを苦しめるために生まれてきた、呪いの産物でしかないのでしょうか……」
私は、不安だった。
これまでの私の行動は、すべて、私自身の意思で決定してきたつもりだが、それがすべて、ヨーレリーを苦しめることにつながったのは事実だった。
無念にもこの世を去ったディアンヌさんの憎悪が、私という人間に宿っているのだとしたら、私は、いったいなんなのだろう? ヨーレリーの話を聞いてから、なんだか、自分が自分でなくなってしまったかのような、落ち着かない気持ちである。
そんな私を、アルベルト様はそっと抱きしめた。
「あっ……アルベルト様……?」
「いつだったか、お前はこうして私を抱きしめ、私の心を縛っていた鎖を解き放ってくれたな。今度は私の番だ。……呪いの産物でしかない人間など、いるはずがないだろう。お前はお前だ、レベッカ。何も、案ずる必要はない」
それは、力強い言葉だった。
お前はお前。
そう。
私は私。
きっと、思い悩む必要なんて、ない。
今の自分を受け入れて、そのまま生きて行けばいいのね。
私は瞳を閉じ、アルベルト様の腕に手で触れ、短く言う。
「はい……」
「そしてお前は、私にとっての光だ。これからも、誰よりも近くで、私と共にあってほしい。……これは、使用人として、という意味じゃない。一人の女性として、そばにいてほしいのだ」
私は頷いた。
そんな私の額に、アルベルト様は口づけをする。
きっと、今日から、私とアルベルト様の関係は、これまでとは違ったものになっていくだろう。私はアルベルト様の腕の中、そのぬくもりを感じ、これからの新しい人生に思いを馳せるのだった。
終わり。
――――――――――――――――――――――――――――――――
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
本日から新作『黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~』を投稿しております! よろしければ、見てもらえると嬉しいです!
「もう気に病むな。あれは、お前が思い悩むほどの相手ではない。散々お前を苦しめ、殺そうとした挙句、謝罪ひとつしなかった。最後の言葉が『もう疲れた』とは、どこまでも自分勝手な女だ」
それは、その通りかもしれない。
しかし今の私には、殊更にヨーレリーを責める気はなかった。
彼女は本当に、心の底から疲れ切っていたのだろう。死が救いというのはあまりにも悲しいが、それでもやっと、ヨーレリーは楽になれたのかもしれない。
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私は、不安だった。
これまでの私の行動は、すべて、私自身の意思で決定してきたつもりだが、それがすべて、ヨーレリーを苦しめることにつながったのは事実だった。
無念にもこの世を去ったディアンヌさんの憎悪が、私という人間に宿っているのだとしたら、私は、いったいなんなのだろう? ヨーレリーの話を聞いてから、なんだか、自分が自分でなくなってしまったかのような、落ち着かない気持ちである。
そんな私を、アルベルト様はそっと抱きしめた。
「あっ……アルベルト様……?」
「いつだったか、お前はこうして私を抱きしめ、私の心を縛っていた鎖を解き放ってくれたな。今度は私の番だ。……呪いの産物でしかない人間など、いるはずがないだろう。お前はお前だ、レベッカ。何も、案ずる必要はない」
それは、力強い言葉だった。
お前はお前。
そう。
私は私。
きっと、思い悩む必要なんて、ない。
今の自分を受け入れて、そのまま生きて行けばいいのね。
私は瞳を閉じ、アルベルト様の腕に手で触れ、短く言う。
「はい……」
「そしてお前は、私にとっての光だ。これからも、誰よりも近くで、私と共にあってほしい。……これは、使用人として、という意味じゃない。一人の女性として、そばにいてほしいのだ」
私は頷いた。
そんな私の額に、アルベルト様は口づけをする。
きっと、今日から、私とアルベルト様の関係は、これまでとは違ったものになっていくだろう。私はアルベルト様の腕の中、そのぬくもりを感じ、これからの新しい人生に思いを馳せるのだった。
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