私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ

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第194話(ヨーレリーの追憶)

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 おっしゃる通りだった。

 でも。

 それでも。

 サイラスなら、私の愛を信じてくれると思ったのに。

 いや、そもそも、私には『愛』なんてものは存在しないのかもしれない。

 それは、私の娘たちも同じ。

 ラグララも、アデットも、キャリーも。
 私と同じく、利己的で、冷酷だ。彼女たちの心には、愛なんてないだろう。

 そして、結局のところ、サイラスの心にも、愛はなかった。

 本当に愛があるのなら、私が何者で、何をしていようとも、私を許してくれたはずだ。私の信じた、完璧なる幸福な家族の正体は、愛などない、上辺だけの関係に過ぎなかったのだ。

 そう悟ったとき。
 私の心の中で、何かが壊れた。

 魔法が使えなくなってから、自衛のために持ち歩いているナイフ。
 それで、サイラスを後ろから刺した。
 これ以上、彼になじられるのは耐えられなかったから。

 サイラスの瞳は驚愕に見開かれていた。

 さあ、反撃して、サイラス。
 あなたの強力な魔法で、私を殺して。

 もう疲れた。
 偽りの人生を続けることに。

 ままごとみたいな偽物の愛情だったけど、それでも、私はあなたを愛した。
 この世界でただ一人、あなただけを愛した。

 その、愛したあなたを、私の手で、殺したい。
 そして、あなたの手で、私を殺してほしい。

 二人だけで、別の世界に行きましょう。
 真実の愛がない、このクソみたいな世界を離れて。

 しかし、サイラスは私に、魔法を使わなかった。
 彼は最後に、私を憐れむような目で見て、息を引き取った。

 ただの一言も、私に対する恨みごとを言わずに。

 ……どうして?

 どうして、私を殺さないの?

 私は、あなたを殺して、あなたに殺されたかったのに。
 他の誰にも殺されたくないけど、あなたに、殺されたかったのに。

 私を愛していないから、殺さなかったの?
 それとも、私を愛しているから、殺さなかったの?

 もしもそうなら、本当に私を愛してくれている人を、私は殺したの?

 もうわからない。自分が何を考えているのか、自分が何をやっているのか、これから何をしたらいいのかもわからない。私にはもう何もない。子供の頃から厳しい訓練をして、本当の自分を偽って手に入れたものが、これ? これが、私の人生なの? わからないわからない。もう、なにもわからない。私の人生に、意味はあったの?
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