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第193話(ヨーレリーの追憶)
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私の、完璧なる幸福な家庭に、呪われた子を送り込み、すべてを破壊する。
それが、ディアンヌの真の狙いだったのだ。
そう気づいても、レベッカを殺すことはできなかった。
お腹を痛めて産んだ我が子だから。
しかし私は、レベッカを愛することもできなかった。
それから一年が経過し、今度は、四女のキャリーが生まれた。
……キャリーには、ディアンヌの面影は一切なかった。
私は、心底ホッとした。
ディアンヌが死んでから、もうずいぶん経つ。
彼女の呪いの効果も、少しずつ薄れているのかもしれない。
レベッカのことはどうしようもないが、ここから軌道修正すれば、また、幸福な生活を取り戻せるはずだ。私は希望を胸に、日々の生活を送った。
だが、物事は私の思い通りにはいかなかった。
ラグララ、アデット、キャリーに対しては、愛情深く、子煩悩な態度をとる私が、レベッカにだけは冷淡な仕打ちをするのを見て、サイラスが首をひねったのだ。
サイラスは私に、こう問いかけた。
「ヨーレリー。きみはどうして、レベッカにつらくあたるんだ?」
真剣な問いだった。
当然だろう。
妻が、一人の子供にだけ、異常な接し方をしているのだ。
心配しない方がおかしい。
はぐらかすことなど、できそうにもなかった。
私は、迷った。
すべてを打ち明けるかどうかを。
そして、結局、喋ってしまった。
私が元はドリアルト帝国の諜報員であることを。
ディアンヌにそれを知られ、彼女を始末したことを。
そのディアンヌの面影をレベッカに感じ、どうしても愛せないことを。
全部、全部、喋ってしまった。
私は、疲れきっていた。
本当の自分を隠し、偽りの仮面をかぶって生き続けることに。
だから、喋った。
それに、サイラスなら、すべてを打ち明けても、変わらずに私を愛してくれるという信頼があった。だって、私たちの間には、本物の愛情があるのだから。
だが、サイラスは、信じられないほど取り乱し、こう言った。
「ヨーレリー! きみは最低だ! 僕はきみを心から愛していたのに、きみはドリアルトの諜報員として、僕を利用していただけだったのか!」
「ま、待って、違う、それは違うわ。確かに、最初はあなたを利用しようとして近づいたけど、私は本当にあなたを……」
「愛していたとでも言うのか!? 人を騙すプロであるスパイの言う『愛』なんて、信じられると思うか!?」
それが、ディアンヌの真の狙いだったのだ。
そう気づいても、レベッカを殺すことはできなかった。
お腹を痛めて産んだ我が子だから。
しかし私は、レベッカを愛することもできなかった。
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……キャリーには、ディアンヌの面影は一切なかった。
私は、心底ホッとした。
ディアンヌが死んでから、もうずいぶん経つ。
彼女の呪いの効果も、少しずつ薄れているのかもしれない。
レベッカのことはどうしようもないが、ここから軌道修正すれば、また、幸福な生活を取り戻せるはずだ。私は希望を胸に、日々の生活を送った。
だが、物事は私の思い通りにはいかなかった。
ラグララ、アデット、キャリーに対しては、愛情深く、子煩悩な態度をとる私が、レベッカにだけは冷淡な仕打ちをするのを見て、サイラスが首をひねったのだ。
サイラスは私に、こう問いかけた。
「ヨーレリー。きみはどうして、レベッカにつらくあたるんだ?」
真剣な問いだった。
当然だろう。
妻が、一人の子供にだけ、異常な接し方をしているのだ。
心配しない方がおかしい。
はぐらかすことなど、できそうにもなかった。
私は、迷った。
すべてを打ち明けるかどうかを。
そして、結局、喋ってしまった。
私が元はドリアルト帝国の諜報員であることを。
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全部、全部、喋ってしまった。
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だから、喋った。
それに、サイラスなら、すべてを打ち明けても、変わらずに私を愛してくれるという信頼があった。だって、私たちの間には、本物の愛情があるのだから。
だが、サイラスは、信じられないほど取り乱し、こう言った。
「ヨーレリー! きみは最低だ! 僕はきみを心から愛していたのに、きみはドリアルトの諜報員として、僕を利用していただけだったのか!」
「ま、待って、違う、それは違うわ。確かに、最初はあなたを利用しようとして近づいたけど、私は本当にあなたを……」
「愛していたとでも言うのか!? 人を騙すプロであるスパイの言う『愛』なんて、信じられると思うか!?」
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