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第187話(ヨーレリーの追憶)
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国家間のパワーバランスを決定づける要素は何か?
まず、第一には、軍事力だろう。
どんなに経済の発展した国でも、強大な軍事力によって攻められれば、ひとたまりもないからだ。だからどんな国にも、軍隊というものがある。
お互いの軍事力が拮抗し、おいそれと戦争をすることができなくなってから、今度は経済による戦いが始まる。このヴァレンス王国と、私の生まれ故郷であるドリアルト帝国は、軍事力も経済力もほぼ互角で、常に近隣地帯の覇権を争っていた。
軍事力と経済力が等しい二国。
優劣をつけがたい二国。
その均衡を大きく変える、第三の要素とは、何だろうか?
それは『情報』である。
情報収集能力に優れている国が、結局のところ、軍事戦争でも、経済戦争でも、最終的には勝利を手にするのだ。ドリアルト帝国の皇帝は、歴史に学び、誰よりもそのことを知っていた。
なので、国土全体から優秀な子供を集め、幼いころから徹底的に英才教育を施して、他国への潜入に特化した諜報員を育てるのだ。
……私も、その諜報員の一人だった。
十代の頃からヴァレンス王国に潜入し、国籍も獲得した私は、二十歳の時に難関試験を突破して、国王直属の宮廷魔導師になった。
そこで、彼に出会ったのだ。
私が、この世界でただ一人愛した男性。
サイラス・スレインに。
最初は、彼を利用するつもりだった。
まだ幼い国王に、親族以上に慕われ、影の宰相とまで呼ばれたサイラスに近づくことで、より重要な情報が手に入る。私はありとあらゆる手段を使って、サイラスを篭絡した。
サイラスは、驚くほど簡単に、私の虜になった。
優秀ではあるものの、これまで勉学一筋で、女慣れしていなかったサイラスは、本当に、拍子抜けするほど容易に、私に夢中になった。
私は、ほくそ笑んだ。
なんてちょろい男。
これからせいぜい、役に立ってもらうわよ。
そんなことを、思っていた。
ほどなくして、私はサイラスと結婚した。
サイラスが私のために建てた新居で、彼と共に暮らすうち。
私の心境に、少しずつ変化が起こっていった。
まず、第一には、軍事力だろう。
どんなに経済の発展した国でも、強大な軍事力によって攻められれば、ひとたまりもないからだ。だからどんな国にも、軍隊というものがある。
お互いの軍事力が拮抗し、おいそれと戦争をすることができなくなってから、今度は経済による戦いが始まる。このヴァレンス王国と、私の生まれ故郷であるドリアルト帝国は、軍事力も経済力もほぼ互角で、常に近隣地帯の覇権を争っていた。
軍事力と経済力が等しい二国。
優劣をつけがたい二国。
その均衡を大きく変える、第三の要素とは、何だろうか?
それは『情報』である。
情報収集能力に優れている国が、結局のところ、軍事戦争でも、経済戦争でも、最終的には勝利を手にするのだ。ドリアルト帝国の皇帝は、歴史に学び、誰よりもそのことを知っていた。
なので、国土全体から優秀な子供を集め、幼いころから徹底的に英才教育を施して、他国への潜入に特化した諜報員を育てるのだ。
……私も、その諜報員の一人だった。
十代の頃からヴァレンス王国に潜入し、国籍も獲得した私は、二十歳の時に難関試験を突破して、国王直属の宮廷魔導師になった。
そこで、彼に出会ったのだ。
私が、この世界でただ一人愛した男性。
サイラス・スレインに。
最初は、彼を利用するつもりだった。
まだ幼い国王に、親族以上に慕われ、影の宰相とまで呼ばれたサイラスに近づくことで、より重要な情報が手に入る。私はありとあらゆる手段を使って、サイラスを篭絡した。
サイラスは、驚くほど簡単に、私の虜になった。
優秀ではあるものの、これまで勉学一筋で、女慣れしていなかったサイラスは、本当に、拍子抜けするほど容易に、私に夢中になった。
私は、ほくそ笑んだ。
なんてちょろい男。
これからせいぜい、役に立ってもらうわよ。
そんなことを、思っていた。
ほどなくして、私はサイラスと結婚した。
サイラスが私のために建てた新居で、彼と共に暮らすうち。
私の心境に、少しずつ変化が起こっていった。
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