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第186話

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「一時は私もそう思ったが、ラグララの発言には、一切の迷いがなかったからな。少し気になって、詳しく調査してみたのだ。すると、彼女の言っていたことが真実であることが分かった。お前にも折を見て伝えるつもりだったが、その前に、まさか、こんなことになってしまうとは……」

 アルベルト様はそこで一度言葉を切り、ヨーレリーに向き直る。
 その視線は、ヨーレリーの脇腹に刺さったナイフに注がれていた。

「私には、不思議でならない。錯乱し、実の娘を殺そうとしたこともそうだが、魔法のエキスパートである元宮廷魔導師のあなたが、こんなちっぽけなナイフに頼るとは。あなたなら、いくらでも強力な攻撃魔法を使えるだろうに」

 そこでやっと、今まで黙りっぱなしだったヨーレリーが、口を開いた。

「ふふ、ふふふ、公爵様。私が宮廷魔導師だったのは、もうずいぶん昔のことです。今ではね、簡易的な魔法すら使えないんですよ。……そこにいる、ディアンヌのせいでね」

 ヨーレリーは、私を一瞥して言う。
 アルベルト様が、呆れたような、不可解そうな顔で、言い返す。

「いい加減にしろ。あなたは、自分の娘の名前すら忘れてしまったのか。彼女の名前はレベッカだ。ディアンヌなどという名前ではない」

 ヨーレリーは、おかしくて仕方ないというように、笑った。

「ふふ、あは、あははっ、まあ、確かにそうなんですけどね。その子は、レベッカであって、レベッカじゃないんです。本当の名前は、ディアンヌ・リスティっていうんですよ」

「何を言っているんだ? 分かるように説明してくれ」

「……わかりました。私も、いつか、誰かにすべてを打ち明けたいと思っていました。秘密を抱えたまま生き続けるのは、けっこうつらいものですからね。この際です、全部、吐き出させてもらうとしましょうか」

 そして、ヨーレリーは静かに語り始めた。
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