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第171話
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ああ。
なんてこと。
ラグララが拘束されても、パティが獣人であることが露見してしまったら、『人を傷つけた獣人は火あぶり』という法にのっとり、パティは死罪になってしまう。結局、ラグララの思う通りになってしまう。
それなのに私は、パティに触れることもできない。
自分の無力さに涙が出てくるが、そこで私は、気がついた。
ラグララがパティに魔法をかけてからもう二分は経っているのに、パティの体には、何の変化もない。パティは歯を食いしばり、鬼気迫る表情で、ひたすら地面を睨んでいた。
信じられない。
パティは、強い意志の力で、自分の本能を抑えているのだ。
体がバラバラになりそうなほどの苦痛を味わっているはずなのに。
それはきっと、自分のためじゃない。
私にはわかる。
パティは、私とアルベルト様のために、耐えているのだ。
ここでパティが獣人であることが分かったら、必死に弁護してきた私とアルベルト様は、偽証罪に問われる。だからパティは、奥歯が折れそうになるほどに食いしばり、耐えて、耐えて、耐え抜いているのだ。
この子が必死になるのは、いつだって、他人のためだ。
ラグララに立ち向かったのも、私のためだった。
なんて清らかで、優しい魂の持ち主だろう。
パティと比べたら、自分のしでかした悪行を突っつかれて、ヒステリックに喚きたてるラグララの姿は、人ですらない、おぞましい怪物そのものだ。
私は、パティの苦痛が少しでも楽になるように、治癒魔法をかけ続けた。パティはとても言葉を発することのできる状態じゃなかったが、それでも私を見て、少しだけ微笑んだように思えた。
そして、ラグララが魔法をかけてから実に6分後。
裁判所から要請を受けた宮廷魔導師が三人やって来て、ラグララを拘束する。さすがのラグララも、国でトップクラスの魔法使いの集まりである宮廷魔導師が三人がかりではどうしようもない。魔法を封じられ、地面に膝をつかされた。
パティは、『三分で全身の骨がバラバラになる』と言われた魔法を、その倍の時間受けていたのに、とうとう最後まで、獣人の本能を表に出すことはなかった。
ラグララが、うわごとのように言う。
「そ、そんな……なんで……? なんでよ……? なんで、獣人の耳が出ないの……? おかしいわ、ねえ、こんなのおかしいわよ……」
なんてこと。
ラグララが拘束されても、パティが獣人であることが露見してしまったら、『人を傷つけた獣人は火あぶり』という法にのっとり、パティは死罪になってしまう。結局、ラグララの思う通りになってしまう。
それなのに私は、パティに触れることもできない。
自分の無力さに涙が出てくるが、そこで私は、気がついた。
ラグララがパティに魔法をかけてからもう二分は経っているのに、パティの体には、何の変化もない。パティは歯を食いしばり、鬼気迫る表情で、ひたすら地面を睨んでいた。
信じられない。
パティは、強い意志の力で、自分の本能を抑えているのだ。
体がバラバラになりそうなほどの苦痛を味わっているはずなのに。
それはきっと、自分のためじゃない。
私にはわかる。
パティは、私とアルベルト様のために、耐えているのだ。
ここでパティが獣人であることが分かったら、必死に弁護してきた私とアルベルト様は、偽証罪に問われる。だからパティは、奥歯が折れそうになるほどに食いしばり、耐えて、耐えて、耐え抜いているのだ。
この子が必死になるのは、いつだって、他人のためだ。
ラグララに立ち向かったのも、私のためだった。
なんて清らかで、優しい魂の持ち主だろう。
パティと比べたら、自分のしでかした悪行を突っつかれて、ヒステリックに喚きたてるラグララの姿は、人ですらない、おぞましい怪物そのものだ。
私は、パティの苦痛が少しでも楽になるように、治癒魔法をかけ続けた。パティはとても言葉を発することのできる状態じゃなかったが、それでも私を見て、少しだけ微笑んだように思えた。
そして、ラグララが魔法をかけてから実に6分後。
裁判所から要請を受けた宮廷魔導師が三人やって来て、ラグララを拘束する。さすがのラグララも、国でトップクラスの魔法使いの集まりである宮廷魔導師が三人がかりではどうしようもない。魔法を封じられ、地面に膝をつかされた。
パティは、『三分で全身の骨がバラバラになる』と言われた魔法を、その倍の時間受けていたのに、とうとう最後まで、獣人の本能を表に出すことはなかった。
ラグララが、うわごとのように言う。
「そ、そんな……なんで……? なんでよ……? なんで、獣人の耳が出ないの……? おかしいわ、ねえ、こんなのおかしいわよ……」
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