私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ

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第160話

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 ビクビクオドオドしているルークとは正反対の、毅然としたアルベルト様の弁舌に、傍聴席の空気が変わった。皆、顔を見合わせて、次のようなことを囁き合っている。

「正当防衛か、なるほどな」
「自分から暴行を認めたんだから、後ろめたいことはないんだろうな」
「だいたい、意味もなくいきなり襲い掛かることなんて、普通ないものねえ」
「しっかし、ハーヴィン公爵って、すっごい美形だな……」
「ああ、こんな綺麗な顔、ちょっとお目にかかれるもんじゃないぜ」

 良い流れだった。

 ウィリアムさんが来ない以上、ラグララには証人がいない。正当防衛が簡単に認められるかは分からないが、それでも、まったくの出まかせだと断ずることもできないはずだ。何より、陪審員たちは、高貴な身分であるアルベルト様のお話に、納得しているように見える。

 その時、不意に背筋がゾクッとした。

 理由は、すぐに分かった。
 ラグララがこっちを見て、赤い舌を出し、嗤ったからだ。

 ラグララは、まだぶつぶつと何かを呟いているルークを押しのけ、声を上げる。

「裁判長。被告側は、自ら暴行の事実を認めました。これは、決定的なことです。ハーヴィン公爵は、正当防衛がどうしたこうしたとほざいて……失礼、おしゃっていますが、パティ・ソルルのおこなった暴行が、正当であるか不当であるかは、問題ではないのです」

 そこで一度言葉を切り、ラグララは法廷をぐるりと見渡して、高らかに言う。

「重要なのは、獣人が人間を傷つけたという事実! その一点のみ! いかなる理由があろうと、人間を傷つけた獣人は火あぶりです! 裁判長、違いますか?」

 先程、裁判長から『違いますか?』と言われたことに対する意趣返しをするように、問いかけるラグララ。まるで歌うような、鮮烈で滑らかなスピーチに、裁判長さえも圧倒され、「それはまあ、そうですね」と頷く。

 いつの間にか、傍聴席の人々も、ラグララの演説に魅せられていた。ついさっきまでは、こっちの味方だったのに、口々に好きなことを言い合っている。

「うーん、確かにそうだ」
「たとえ正当防衛でも、人を傷つけた獣人は、ほうっておいちゃ駄目だよな」
「そうそう。もともとの腕力がまるで違うんだから、やばいって」
「そういえばさ、昔、酷い事件があったよな。獣人による、人間の大量殺戮」
「あれ、うちの爺さんの友達も被害にあったんだよ。やっぱ怖いよ、獣人」
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