私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ

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第158話

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 そこで私とアルベルト様は話を終え、再びラグララを見た。

 ラグララは、余裕の笑みを浮かべていた。

 ……どういうこと? 重要な証人であるウィリアムさんが来ない以上、パティの罪を立証するのは難しくなったはずなのに。

 そう思っていると、ラグララは意気揚々と語りだした。

「裁判長。ウィリアム・フェリックスの召喚は、あくまで私の主張を補強するための要素にすぎず、被告の罪の立証において、それほど影響のあることではありません。被告が私に暴行を働いたことは、別の方法で立証できるのです。……ねえ、ルーク、そうでしょ?」

 ラグララはそう言って、隣にいる白衣の青年の二の腕にそっと触れた。

 さっきから、ずっと気になっていた。白衣の青年――ルークは、ラグララに付き添って、開廷時から彼女のそばにいたが、これまで一言も発するそぶりすらなく、ぼおっと法廷の壁を見ているだけだった。

 ルークは、しばらく経って、やっと自分が話しかけられていることに気が付いたらしく、慌てて言葉を紡いでいく。

「あっ、はい。はい、そうです。ぼぼぼ、僕の開発した試薬を……」

 たどたどしいルークの言葉を、裁判長は一旦遮る。

「失礼ですが、主張を述べる前に、自己紹介をしてもらってもかまいませんかな?」

「あっ、はい。そうですね。ぼ、ぼ、僕は、ルーク・ビークといいます。ロッセント大学の薬学科の一年生で、ラグララさんの同級生です。こ、こ、今回、彼女の力になりたくて、こうして、やってきました」

「わかりました。主張を続けてください」

「あっ、はい。えっとですね、僕は常々思っているのですが、衛兵隊の捜査にも、より緻密で科学的な要素が必要だと思うんですよ。そのためには、新しい試薬をどんどんテストしていくべきだと思うんですね。僕は中等部の時からずっとそう主張しているんですが、誰もわかってくれなくて、でもラグララさんはそんな僕の話を」

 裁判長がトントンと木槌を叩く。

「ルークさん。本法廷は、あなた自身の思想や信条を述べる場ではありません。いかにして被告が原告に暴行を働いたことを立証するのかを述べてください。なるべく簡潔に」

「あ、はい。わかりました。簡単に言うと、僕の開発した試薬を使えば、一日経った後でも、血の痕跡を見つけることができるんです。ラグララさんの腕を引っ掻いたという被告の指に、少し薬を振りかければ、今すぐに結果が出ます」
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