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第157話

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 これまで余裕たっぷりだったラグララが、初めて眉を顰め、抗議する。

「裁判長。こんな勝手、許されるのですか? 彼は、事件の一部始終を目撃しています。無理やりにでも引っ張って来て、証言を……」

 ラグララの発言を、裁判長は手を上げて遮った。

「まあ、お待ちなさい。手続きを踏み、強引に召喚することは可能ですが、これほど明白に『事実とは違う証言をしてしまうかもしれない』と述べている証人を呼びつけても、真実の究明はできないでしょう。違いますか?」

「ぐっ……」

 裁判長の正論に、ラグララは黙らざるを得なかった。

 アルベルト様が、少々呆気にとられたように、私に言う。

「驚いたな。まさか、自分が罰せられてもいいという覚悟で、出廷を拒むとは。レベッカ、いったいどんな手紙を送って、彼を説得したんだ?」

「説得なんて、大それたことはしていません。私は、ほんの短い言葉を送っただけです。『あなたの良心に従って行動してください』って」

「それだけ? 本当に、たったそれだけの言葉で、ウィリアムは中央裁判所の権威に抗うことを決断したというのか?」

 私は、頷いた。

「昨日、言葉を交わしたことで、私はウィリアムさんが善良な人であることを悟りました。小さな嘘や、ごまかしの言葉すら言えないほど、正直で、真っすぐな人。だからウィリアムさんは、わかっているんです。悪いのはラグララで、パティに罪なんかないって」

「ふーむ……」

「だから、あれこれ言わなくても、彼自身の良心に従ってもらえば、絶対にパティを苦しめるようなことはしないって、確信があったんです。それに……」

「それに?」

「ラグララは昨日、ウィリアムさんに対して、まるで下男を叱りつけるような、苛烈な言葉を浴びせました。ラグララは人をたぶらかす達人ですが、あんなことを言われては、ウィリアムさんの恋心も、多少は揺らいだでしょう。それで、何が何でもラグララのために尽くそうという気が減退したんだと思います」

「なるほどな。『恋は盲目』という。いかにウィリアムが善良であったとしても、心からラグララに惚れこんでいては、愛する彼女のために、嘘八百を並べ立てたかもしれない。しかしラグララは、自分の態度で、ウィリアムの恋の夢を壊し、結果、ウィリアムの心は自由になったというわけか。自業自得というやつだな」
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