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第156話
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「承知しました。私は、本件の証人として、ウィリアム・フェリックス氏の出廷を要請しています。彼が昨日、私の身に何が起こったかを、すべて証言してくれるでしょう」
アルベルト様が、私に耳打ちする。
「まずいな。お前の話では、ウィリアムはラグララに心酔しているそうじゃないか。彼が証人として出廷し、ラグララに有利な証言をすれば、こちらは一気に不利になる」
私は、小声で答える。
「そうですね。でも、きっと大丈夫です。ウィリアムさんは、来ないと思いますから。私、昨日のうちにウィリアムさんに手紙を書いて、速達で出したんです。だから、今日の朝には……」
まだ話の途中だったが、私の声は、裁判所事務官の声でかき消えた。
「裁判長! ウィリアム・フェリックス氏は、本法廷への出廷を拒否するそうです! ただいま、ウィリアム氏からの手紙が届きました!」
法廷全体が、ざわざわとどよめいた。
裁判長は、事務官に説明を求める。
「どういうことですか?」
「はい。なんでも、この手紙によると……あっ、いえ、私が説明するより、手紙を直接読み上げた方が分かりやすいかと思いますので、このまま、朗読させていただきます」
そして事務官は、すぅっと息を吸い、明瞭な声で手紙を読み上げた。
「私、ウィリアム・フェリックスは、裁判への出廷を拒否します。率直に申し上げます。私は、原告であるラグララ・スレイン嬢に、強い恋心を抱いております。それ故に、裁判所で彼女と会い、自分に有利な証言をするよう求められたら、恐らく、拒否できないと思うのです。それがたとえ、事実とは違う証言であっても」
一息にそう言うと、一度息継ぎし、また朗読を続ける。
「もちろん、正当な理由なく出廷を拒めば、罰が下ることは承知しております。私は、それを受け入れます。私自身に対する罰については、また後日、ご連絡ください。それでは、裁判長殿と陪審員たちの良心で、正当なる判決が導かれることを、祈っております」
裁判長は、両手の指を組み、「ふぅっ」とため息を漏らした。
「ふむ……恋慕する原告の言いなりになって、被告に不利な証言をしないために出廷しないとは、前代未聞ですな。それも、自分が罰を受けることも覚悟のうえとは」
アルベルト様が、私に耳打ちする。
「まずいな。お前の話では、ウィリアムはラグララに心酔しているそうじゃないか。彼が証人として出廷し、ラグララに有利な証言をすれば、こちらは一気に不利になる」
私は、小声で答える。
「そうですね。でも、きっと大丈夫です。ウィリアムさんは、来ないと思いますから。私、昨日のうちにウィリアムさんに手紙を書いて、速達で出したんです。だから、今日の朝には……」
まだ話の途中だったが、私の声は、裁判所事務官の声でかき消えた。
「裁判長! ウィリアム・フェリックス氏は、本法廷への出廷を拒否するそうです! ただいま、ウィリアム氏からの手紙が届きました!」
法廷全体が、ざわざわとどよめいた。
裁判長は、事務官に説明を求める。
「どういうことですか?」
「はい。なんでも、この手紙によると……あっ、いえ、私が説明するより、手紙を直接読み上げた方が分かりやすいかと思いますので、このまま、朗読させていただきます」
そして事務官は、すぅっと息を吸い、明瞭な声で手紙を読み上げた。
「私、ウィリアム・フェリックスは、裁判への出廷を拒否します。率直に申し上げます。私は、原告であるラグララ・スレイン嬢に、強い恋心を抱いております。それ故に、裁判所で彼女と会い、自分に有利な証言をするよう求められたら、恐らく、拒否できないと思うのです。それがたとえ、事実とは違う証言であっても」
一息にそう言うと、一度息継ぎし、また朗読を続ける。
「もちろん、正当な理由なく出廷を拒めば、罰が下ることは承知しております。私は、それを受け入れます。私自身に対する罰については、また後日、ご連絡ください。それでは、裁判長殿と陪審員たちの良心で、正当なる判決が導かれることを、祈っております」
裁判長は、両手の指を組み、「ふぅっ」とため息を漏らした。
「ふむ……恋慕する原告の言いなりになって、被告に不利な証言をしないために出廷しないとは、前代未聞ですな。それも、自分が罰を受けることも覚悟のうえとは」
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