私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ

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第154話

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 ラグララもこちらに気が付いたようだ。
 私を見て、陰湿な笑みを浮かべた。

 そして、パティを指さし、何かを呟いている。

 距離があるので、ラグララの言葉は届かない。
 しかし、私にはラグララが何と言ったのか、ハッキリ分かった。

『そいつを、地獄に落としてやる』

 そう言ったのだ。

 させない。
 絶対に、あなたの思い通りになんてさせない。

 そして、裁判が始まった。





「それでは、ただいまより開廷いたします」

 威厳ある装束に身を包んだ裁判長が、低いのによく通る声で言った。

 傍聴席にいる人々まで含め、この法廷にいるすべての人間が、まずは一礼する。それから裁判長が、原告側――ラグララに向かって、質問をした。

「ラグララ・スレインさん。あなたは、被告であるパティ・ソルルさんによって大怪我を負わされたとのことですが、それは事実ですか?」

 裁判に出廷するのは初めてだろうに、まったく緊張する様子もなく、ラグララは落ち着き払った声で答える。

「はい、裁判長。私が、友人であるウィリアム・フェリックスと話していると、被告人は何を思ったのか、突然唸りを上げて噛みついて来たのです。これが、その証拠です」

 ラグララはドレスの右袖をまくり、前腕部を露出させる。
 そこには、深い噛み傷と、いくつかのひっかき傷が生々しく残されていた。

 傍聴席が、軽くざわついた。

 その反応をちらりと確認してから、ラグララは言葉を続ける。

「見てください。この噛み傷と、鋭い爪の痕を。この傷、少女の力で噛みついたにしては、深すぎると思いませんか? それも、当然のこと。被告人パティ・ソルルは、普通の人間ではありません。彼女は、本当の姿を隠して人間社会に紛れ込んでいる、狂暴な獣人なのです」

 傍聴席からどよめきが上がる。

「狂暴な獣人……嘘だろ……?」
「あの温厚そうな女の子が?」
「いや、見た目では判断できないだろう」
「だが、もうこの国には、一匹の獣人もいないはずだ」
「隅から隅まで調べたわけじゃないんだから、実態はわからないさ」

 皆、ああでもないこうでもないと、そんなことを言いあっている。

 裁判長が、トントンと木槌を叩いた。

「皆さん、静粛に。ラグララ・スレインさん。主張を続けてください」
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