私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ

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第140話

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「あなた、頭悪そうだから、賢い私が親切に教えてあげる。この国の傷害罪はね、現行犯逮捕でない限り、担当官が被害者の怪我の程度を目視し、後は聞き取り調査を経て、罪の大小を決定するの。つまり、体に目立つ傷や痣がなければ、傷害罪は成立しないのよ。よその国は知らないけど、少なくとも、この国ではそう決まってるの」

「…………」

「ウィリアムも、そっちのメイドさんも、まあかなり苦しいでしょうけど、体に痣が残らない程度に、私は上手に加減してるわ。だから、これだけやっても、傷害罪にはならない。事実がどうあれ、法律上は、私は何もしていないのと同じなのよ。ご理解いただけたかしら?」

 そんなふざけた理屈、まかり通るわけがない。
 嫌な顔で嗤うラグララに、私は抗議する。

「でも、魔法を使った傷害行為は、そう簡単に無罪放免とはいかないはずだわ。魔法を使用した痕跡は、独特の匂いとして被害者の体に残るものだから。そして、魔法絡みの傷害事件は、普通の喧嘩よりも大きな罪になる。たとえ外傷が残らなかったとしても、厳しく調査されるはずよ」

 私の反論に、ラグララは目を丸くした。
 驚いたというより、ちょっと感心したといった様子だった。

「へえ、びっくり。あなた、けっこう博識なのね。ご主人様に媚びるしか能のない、慰み者同然の使用人のくせに。『魔法の匂い』についても知ってるなんて、なかなか感心だわ。褒めてあげる」

 ずっと昔は、『お姉様に褒めてもらいたい』だなんて卑屈なことを考えていたけど、今さらこの女に褒められても、嬉しくもなんともない。私は黙って、ラグララを睨みつけた。パティたちに使っている魔法を、私にも使ったらいい。そうすれば、この女の罪は、もっと重くなるだろう。

 だがラグララは、私との問答が気に入ったのか、魔法を使って黙らせるようなことはせず、嘲笑を浮かべて言葉を続けていく。

「でも、浅はかね、メイドさん。私の使う魔法は特殊でね、被害者の体に匂いなんて残さないのよ。私はね、被害者の体そのものに魔法をかけているんじゃなくて、被害者の周りの空気に魔法をかけ、その性質を変化させ、大量の水みたいに重たくしているの。それを使って、ウィリアムとそっちのメイドさんを押しつぶしてるってわけ」

 そんなこと、できるの?
 空気を重りに変換するなんて、私には、想像することすらできない魔法だ。
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