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第137話
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あるいは、あの狂人アデットも、魔法の天才であるラグララの姿をお手本に成長したから、あれだけ人格が歪んでしまったのかもしれない。少なくとも昔のアデットは、奔放ではあったものの、まだ、人間らしい感情があったように思える。
ラグララの、私を人間扱いしていない態度が、幼かったキャリーにも大きな影響を与え、幼少期の人格形成に多大な影響を与えたのは、間違いないだろう。
ラグララ自身は、私に対して嫌がらせらしい嫌がらせはしなかったが、ある意味では、彼女の存在が、アデットとキャリーを悪い方向に導いてしまったとも言える。
ラグララ・スレイン。
心のない人間。
その、心のないラグララが、今、私を見つめている。
私は、『何か御用かしら?』という彼女の問いに、短く答える。
「いえ、何も」
本心からの、言葉だった。
ラグララが私のことに気がついていないなら、別にそれでいい。
彼女と話すことなど何ひとつないのだから。
ラグララは、私の回答などそもそも待っていなかったかのように、ウィリアムさんに視線を戻す。そして、先程からの要求を、もう一度繰り返した。
「ねえ、何度も言わせないでよ。さっさとパーティー会場に案内してってば」
ウィリアムさんは頭をかき、気まずそうに言う。
「いや、それが、言いにくいんだけど、パーティー、もう終わっちゃったんだ。公爵様が、歓待はありがたいが、なるべく多くの農夫たちと交流の時間を作りたいからとおっしゃって……」
ラグララは、小さく口を開けたまま、しばらく黙っていた。
そして、晴天が一瞬で雷雲に包まれたかのように、ラグララの表情が激変する。
「はぁ?」
その短い言葉の中には、隠すつもりもない怒気が溢れていた。
ラグララは、凄い顔をしていた。整った鼻梁が潰れるがごとく歪み、目と眉が信じられない角度につり上がっている。黙っていればたおやかな唇は、うっすらと開かれ、常人よりもやや鋭い八重歯が、獣の牙のようにギラリと光った。
まるで、鬼の顔。
憤怒と侮蔑が混ざった、狂気の顔。
ラグララの本性を、そのまま表に出した顔。
先程までの澄ました顔など、ただの仮面にすぎない。
ラグララは威圧的な声で、言葉を続けていく。
「ねえ、私はね、あんたが来いっつったから、わざわざこんなクソつまんない農園なんかに来たのよ。それなのに、『パーティー、もう終わっちゃったんだ~』ですって? あんた、私を舐めてるの?」
ラグララの、私を人間扱いしていない態度が、幼かったキャリーにも大きな影響を与え、幼少期の人格形成に多大な影響を与えたのは、間違いないだろう。
ラグララ自身は、私に対して嫌がらせらしい嫌がらせはしなかったが、ある意味では、彼女の存在が、アデットとキャリーを悪い方向に導いてしまったとも言える。
ラグララ・スレイン。
心のない人間。
その、心のないラグララが、今、私を見つめている。
私は、『何か御用かしら?』という彼女の問いに、短く答える。
「いえ、何も」
本心からの、言葉だった。
ラグララが私のことに気がついていないなら、別にそれでいい。
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ラグララは、私の回答などそもそも待っていなかったかのように、ウィリアムさんに視線を戻す。そして、先程からの要求を、もう一度繰り返した。
「ねえ、何度も言わせないでよ。さっさとパーティー会場に案内してってば」
ウィリアムさんは頭をかき、気まずそうに言う。
「いや、それが、言いにくいんだけど、パーティー、もう終わっちゃったんだ。公爵様が、歓待はありがたいが、なるべく多くの農夫たちと交流の時間を作りたいからとおっしゃって……」
ラグララは、小さく口を開けたまま、しばらく黙っていた。
そして、晴天が一瞬で雷雲に包まれたかのように、ラグララの表情が激変する。
「はぁ?」
その短い言葉の中には、隠すつもりもない怒気が溢れていた。
ラグララは、凄い顔をしていた。整った鼻梁が潰れるがごとく歪み、目と眉が信じられない角度につり上がっている。黙っていればたおやかな唇は、うっすらと開かれ、常人よりもやや鋭い八重歯が、獣の牙のようにギラリと光った。
まるで、鬼の顔。
憤怒と侮蔑が混ざった、狂気の顔。
ラグララの本性を、そのまま表に出した顔。
先程までの澄ました顔など、ただの仮面にすぎない。
ラグララは威圧的な声で、言葉を続けていく。
「ねえ、私はね、あんたが来いっつったから、わざわざこんなクソつまんない農園なんかに来たのよ。それなのに、『パーティー、もう終わっちゃったんだ~』ですって? あんた、私を舐めてるの?」
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