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第115話
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「まだ少女だった私は、大人の使用人たちに侮られないようにと、目いっぱい背伸びをして頑張ったわ。そして、一年間が経った頃、働きぶりを認められて、当時20歳だった公爵様のお世話係に抜擢されたの」
私は、セレーナさんの話を邪魔しないように、小さく頷いた。
「初めて公爵様の御前で挨拶をしたとき、極度の緊張と畏怖心から、私、冗談じゃなく気絶しそうだった。だから、本当の自分を隠して、心に仮面をかぶることにしたの。言うことも、やることも、すべて礼法書通りの『完璧なメイド』という仮面をね」
「…………」
「その甲斐あって、自分で言うのも何だけど、初めて公爵様を前にした少女とは思えないような、完璧な振る舞いができたの。公爵様はそんな私を見て、『見事だなセレーナ。お前の完璧な立ち振る舞い。こちらが気後れしてしまうほどだ。これからもよろしく頼む』と言ってくれたわ。私、それが本当に、誇らしかった……」
大切な思い出を振り返るセレーナさんの瞳は、少女であったころに戻ったかのように、純粋で、夢を見ているみたいだった。
「でも、今にして思えば、あれが間違いの始まりだったのかもしれない。完璧な自分であろうとするあまり、私は本来の自分自身を見失っていったような気がする。私、本当は、公爵様や皆が思ってるほど、ビシッとした女じゃないの。けっこう雑で、ずぼらなとこらもあるんだから」
そう言って、気恥ずかしそうに微笑むセレーナさん。
セレーナさんのずぼらなところなんて、私には想像もできなかった。
「そして、完璧な態度で公爵様にお仕えすればするほど、なんとなくだけど、公爵様との距離が広がっているような気がしていた。……公爵様はきっと、もっと気安くおしゃべりのできる、友人のようなお世話係を求めていたんでしょうね。でも私、今さら自分を変えられなかった。何故だか分かる?」
私は、首を小さく左右に振った。
「だって、公爵様が『見事だ』と言ってくれた、完璧なるメイドとしての仮面。それが、私の中での、最高の誇りなんだもの。今さらその仮面を、脱ぎ捨てられるわけがない。そして、本当の私をさらけ出す度胸もない。もしも本当の私を見せて、それが受け入れられなかったら、つらすぎるから……」
切ない言葉だった。確かに、今まで演じていた自分と違う『本来の自分』を見せて、想い人から拒絶されたら、それは、決定的な人格否定だ。想像するだけで、悲しくなる。
「でも、それっておかしいわよね。本当に公爵様のことを愛しているのなら、何を捨てても、本当の自分をさらけ出すべきなのに。……私、実家に戻っていた間に、公爵様への想いについて、考えていたの。それで、気がついたの。私の公爵様に対する愛情は、いわゆる恋愛感情とは違う、崇拝に近いものなんじゃなかったのかって」
私は、セレーナさんの話を邪魔しないように、小さく頷いた。
「初めて公爵様の御前で挨拶をしたとき、極度の緊張と畏怖心から、私、冗談じゃなく気絶しそうだった。だから、本当の自分を隠して、心に仮面をかぶることにしたの。言うことも、やることも、すべて礼法書通りの『完璧なメイド』という仮面をね」
「…………」
「その甲斐あって、自分で言うのも何だけど、初めて公爵様を前にした少女とは思えないような、完璧な振る舞いができたの。公爵様はそんな私を見て、『見事だなセレーナ。お前の完璧な立ち振る舞い。こちらが気後れしてしまうほどだ。これからもよろしく頼む』と言ってくれたわ。私、それが本当に、誇らしかった……」
大切な思い出を振り返るセレーナさんの瞳は、少女であったころに戻ったかのように、純粋で、夢を見ているみたいだった。
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そう言って、気恥ずかしそうに微笑むセレーナさん。
セレーナさんのずぼらなところなんて、私には想像もできなかった。
「そして、完璧な態度で公爵様にお仕えすればするほど、なんとなくだけど、公爵様との距離が広がっているような気がしていた。……公爵様はきっと、もっと気安くおしゃべりのできる、友人のようなお世話係を求めていたんでしょうね。でも私、今さら自分を変えられなかった。何故だか分かる?」
私は、首を小さく左右に振った。
「だって、公爵様が『見事だ』と言ってくれた、完璧なるメイドとしての仮面。それが、私の中での、最高の誇りなんだもの。今さらその仮面を、脱ぎ捨てられるわけがない。そして、本当の私をさらけ出す度胸もない。もしも本当の私を見せて、それが受け入れられなかったら、つらすぎるから……」
切ない言葉だった。確かに、今まで演じていた自分と違う『本来の自分』を見せて、想い人から拒絶されたら、それは、決定的な人格否定だ。想像するだけで、悲しくなる。
「でも、それっておかしいわよね。本当に公爵様のことを愛しているのなら、何を捨てても、本当の自分をさらけ出すべきなのに。……私、実家に戻っていた間に、公爵様への想いについて、考えていたの。それで、気がついたの。私の公爵様に対する愛情は、いわゆる恋愛感情とは違う、崇拝に近いものなんじゃなかったのかって」
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