私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ

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第111話

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 私はセレーナさんに『二人で話がしたい』と言われ、頷いた。
 お昼の休み時間。肩を並べて、使われていない客間に入る。

 そして、二人きりになった途端。
 セレーナさんは、私に頭を下げた。

「レベッカ……ごめんなさい……悪質な魔法に操られて、私、とんでもないことをしてしまうところだった……許してもらえるとは思えないけど、謝らせて……本当に、本当にごめんなさい……」

 そのまま、体がぽっきりと折れてしまいそうな、深い深い謝罪だった。

 許すも許さないもない。私は『強制催眠』をかけたアデットは許せないが、セレーナさんのことは、最初から少しも憎んでなどいない。私は、今にも倒れそうなセレーナさんの体を抱き留めるようにして、起こした。

「セレーナさん、頭を上げてください。謝らなきゃいけないのは、むしろ私の方です。私と姉妹の対立に、セレーナさんは巻き込まれたんですから。でも、記憶を失っていたはずなのに、どうして……」

 セレーナさんは、静かに事情を語り始めた。余計な相槌など挟まず、黙って聞いていた私だったが、話が進むうち、驚きと憤りで、「ええっ!?」と声を上げてしまった。

 なんと、お役人が、アデットとキャリーの罪を精査する過程で、『強制催眠』をかけられたセレーナさんにも、あれこれと聴取をしたらしい。それで、記憶こそ戻っていないものの、セレーナさんは、自分のしたことを知ってしまったというのだ。

 私は、首をひねった。
 お役人に対しては、アルベルト様が根回しをしていたはずだ。

『セレーナも今回の事件の被害者なのだから、聴取をして、これ以上彼女の心を傷つけたくない。犯人は二人とも捕まっている。一人は、我が屋敷の上級メイド、アスラに攻撃を仕掛けた現行犯。そして、もう一人は大人しく罪を認めている。今さら、記憶を失ったセレーナから聞き取らなければならないことなどないはずだ』

 アルベルト様はこのようにおっしゃって、セレーナさんをそっとしておくように指示した。まさか、お役人ともあろう人が、領主であるアルベルト様の指示を忘れたとは思えない。どうしてこんなことに……

 訝しむ私に、セレーナさんは言う。

「私の家に聴取に来たのは、公爵領の役人じゃなくて、王都にある司法省の役人だったわ。……なんでも、『強制催眠』を用いた犯罪は、各領内の領主の裁量ではなく、司法省が直々に調査し、裁くことになったそうなの」
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