私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

第１０６話

　自分がこの世に生まれたことそのものを、自分自身で否定する悲しみと寂しさは、言葉では、そう簡単に言い表すことはできない。本当に、心が冷たくて、痛くて、立っていることすらできなくなる。

　孤独。
　生きている意味と価値を感じられない、孤独。
　自分自身ですら、自分を愛することのできない、本当の孤独。

　そんな孤独に包み込まれた時。
　人は、ふとした衝動で、自分の命を捨ててしまうのかもしれない。

　私も、何度かそういう衝動に襲われた。そんな時、私はいつも、自分で自分の体を抱きしめるようにして、耐えていた。……だって、誰も、私を抱きしめてなんかくれないから、自分で自分を抱きしめてあげるしかない。

　でも、本当は、誰かに抱きしめてほしかった。
　そして、言ってほしかった。

『生まれてこなければよかった命なんて、あるはずがないよ』って。

　だから私は、公爵様を強く抱きしめて、言った。
　私の出すことのできる、一番優しい声色で。

「公爵様。生まれてこなければよかった命なんて、あるはずがありません。どうかこれ以上、ご自分の言葉で、ご自分を傷つけないでください……」

　公爵様はもう、何も言わなかった。

　私の言葉を受け入れてくれたのか、それとも、単に私の行動に困惑し、黙ってしまっただけなのかは分からない。しかし、ひとまず公爵様の自虐を止めることができて、私は安堵した。

　……私は今、とてつもなく無礼なことをしている。

　たかが一使用人にすぎない下級メイドの小娘が、高貴なる公爵様のお体に触れ、親か何かのように、出過ぎた慰めの言葉をかけてしまったのだから。お優しい公爵様だから、私を振りほどいたりしないが、普通の主従関係なら、『馬鹿にするな』と平手打ちを食らってもおかしくない。

　しかし私は、公爵様を抱きしめ続けた。その結果、公爵様のご機嫌を損ね、役目を解かれるとしても、それならそれで構わないと覚悟していた。……今は、他の何をおいても、公爵様の寂しいお心を慰めなければならないと思ったからだ。

　不思議な気分だった。

　大人の男性――それも、私が仕えている主人である公爵様に対し、こんな感情を抱くなんて。この感情は、私と同じく、家族の愛を受けられなかった公爵様に対する『共感』なのだろうか？　それとも、もっと単純な『同情心』なのだろうか？　いや、あるいは、より純粋な、人が人を想う気持ち……