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第98話(ヨーレリー視点)
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「……ぷっ、何それ」
ラグララは吹き出した。
少し遅れて、盛大に大笑いを始める。
「あはっ、あはっ、あははははははははははははははははっ! ば~っかじゃないの、あの二人! いやあ、前から馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、『強制催眠』なんて、ハイリスク・ローリターンな魔法を使って、挙句の果てにブタ箱行きなんて、あははっ! 間抜けすぎて、最っ高に笑えるっ! あははははははっ!」
血を分けた姉妹が重罪を犯し、破滅したことを、ラグララはむしろ楽しんでいるようですらあった。我が娘ながら、この子には時折圧倒される。
ラグララは、眉目秀麗、文武両道。自信あふれるその言動から、男女問わず、この子の信奉者は多い。……実際、『三人の』私の子供たちの中で、間違いなく、この子が飛びぬけて優秀だ。天才肌で、凡人なら覚えるのに数ヶ月かかることを、わずかな時間で習得してしまう。
……その反面、人間らしい感情が欠落していると感じることが、多々ある。
特に、この子には、『他人に同情する』ということが、まずない。
私だって、別に人格者じゃない。それでも、普通、自分の家族が罪を犯して収監されたとなったら、激しく動揺するのが当然だ。しかしラグララは、喜色満面で言葉を紡いでいく。
「やったじゃないの、母さん。気狂いアデットと能無しキャリーが消えてくれて。これでこの家も、もっと過ごしやすくなるわ。父さんの遺産も長持ちするし、いいことずくめじゃない」
「…………」
「アデットが地下室に置いてたキモい魔術具も全部撤去して、ワインセラーにしましょ。キャリーの部屋は、ちょっと手を入れて、私専用のクローゼットルームにしてもいいわよね? この前、ドレスを二着買ったんだけど、収納場所に困ってたのよ」
ラグララは、『今日はいい日だ』とでも言いたげに、はしゃぎまわっている。
それを窘めるような気力は、今の私にはなかった。
私はかすかにため息を漏らし、「好きになさい」と言った。
そんな私の様子を見て、さすがのラグララも、声のトーンを落とした。
「母さん、落ち込んでるのね。まあ、あんな二人でも、母さんにとっては娘だもんね。そりゃ、落ち込むわよね」
アデットとキャリーは、あなたにとっても妹でしょ?
そう言おうとして、やめた。きっとラグララは、あの二人のことを、姉妹だなんて思っていないだろうから。ラグララは私の隣に腰かけると、そっと抱きしめてくる。
「かわいそうな母さん。でも、心配いらないわ。娘なら、私がいる。完璧な私がね。他の、出来損ないなんてどうでもいいじゃない。完璧な娘が一人残っていれば、それで」
傲慢にして不遜。
それでいて、完璧なる自信に満ち溢れた言葉だった。
私も若い頃は自信家だったが、この子ほどじゃない。
ラグララは吹き出した。
少し遅れて、盛大に大笑いを始める。
「あはっ、あはっ、あははははははははははははははははっ! ば~っかじゃないの、あの二人! いやあ、前から馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、『強制催眠』なんて、ハイリスク・ローリターンな魔法を使って、挙句の果てにブタ箱行きなんて、あははっ! 間抜けすぎて、最っ高に笑えるっ! あははははははっ!」
血を分けた姉妹が重罪を犯し、破滅したことを、ラグララはむしろ楽しんでいるようですらあった。我が娘ながら、この子には時折圧倒される。
ラグララは、眉目秀麗、文武両道。自信あふれるその言動から、男女問わず、この子の信奉者は多い。……実際、『三人の』私の子供たちの中で、間違いなく、この子が飛びぬけて優秀だ。天才肌で、凡人なら覚えるのに数ヶ月かかることを、わずかな時間で習得してしまう。
……その反面、人間らしい感情が欠落していると感じることが、多々ある。
特に、この子には、『他人に同情する』ということが、まずない。
私だって、別に人格者じゃない。それでも、普通、自分の家族が罪を犯して収監されたとなったら、激しく動揺するのが当然だ。しかしラグララは、喜色満面で言葉を紡いでいく。
「やったじゃないの、母さん。気狂いアデットと能無しキャリーが消えてくれて。これでこの家も、もっと過ごしやすくなるわ。父さんの遺産も長持ちするし、いいことずくめじゃない」
「…………」
「アデットが地下室に置いてたキモい魔術具も全部撤去して、ワインセラーにしましょ。キャリーの部屋は、ちょっと手を入れて、私専用のクローゼットルームにしてもいいわよね? この前、ドレスを二着買ったんだけど、収納場所に困ってたのよ」
ラグララは、『今日はいい日だ』とでも言いたげに、はしゃぎまわっている。
それを窘めるような気力は、今の私にはなかった。
私はかすかにため息を漏らし、「好きになさい」と言った。
そんな私の様子を見て、さすがのラグララも、声のトーンを落とした。
「母さん、落ち込んでるのね。まあ、あんな二人でも、母さんにとっては娘だもんね。そりゃ、落ち込むわよね」
アデットとキャリーは、あなたにとっても妹でしょ?
そう言おうとして、やめた。きっとラグララは、あの二人のことを、姉妹だなんて思っていないだろうから。ラグララは私の隣に腰かけると、そっと抱きしめてくる。
「かわいそうな母さん。でも、心配いらないわ。娘なら、私がいる。完璧な私がね。他の、出来損ないなんてどうでもいいじゃない。完璧な娘が一人残っていれば、それで」
傲慢にして不遜。
それでいて、完璧なる自信に満ち溢れた言葉だった。
私も若い頃は自信家だったが、この子ほどじゃない。
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