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第94話

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「そ、そうなんでしょうか。私、これまでは、どちらかというと勘の鈍い方でしたから、なんだか不思議な感じです」

「今まで眠っていた才能が、強力な魔法を多用した私とアデットの戦いに感化されて、目覚め始めたのかもしれない。まずは初歩の初歩から、少しずつ魔法の勉強をしていくといいわ。あなた、まだ16歳だもの。じっくりやってけば、きっと、私よりずっと凄い魔導師になれるわ」

 こんな私が、アスラさんより凄い魔導師に……?

 にわかには、信じがたい言葉だった。
 しかし、背筋が震えるほど、嬉しかった。

 凄い魔導師になれると言って貰えたから――というより、アスラさんが私の長所を認め、肯定し、まるで姉のように、純粋な優しさと包容力を向けてくれることが、嬉しいのだ。

 私は、公爵様のお屋敷で奉公を始めるまでは、いつも、認められず、否定され、厳しさだけを向けられてきたから……

 特に、母のヨーレリーは、絶対に私の長所を認めようとしなかった。
 長女のラグララは、私に対して、何の関心も持っていなかった。
 アデットやキャリーについては、もう、今さら言うまでもないだろう。

 そんな毎日だったから、私は、一度も家族に甘えたことなどない。

 別に、キャリーのように、泣いて喚いて、なんでも自分の思い通りにしようとは思わない。アデットのように、好き勝手な振る舞いをして、それを許してもらおうとも思わない。

 ただ一度。
 一度でいいから。
『お母さん』『お姉さん』に、甘えてみたかった。

 私は気がつけば、馬に跨りながら、アスラさんを後ろから抱きしめていた。
 そして、背中に額を埋める。……なんて馴れ馴れしい、甘えた仕草だろう。
 まるで、寂しがり屋の猫である。しかし、自分で自分の行動を止められなかった。

 私は、小声で言う。

「アスラさんが、私のお姉さんだったらよかったのに……」

 アスラさんは黙っていた。困惑しているというより、どういう言葉を返すべきなのか、慎重に文言を選んでいる――そんな感じだった。

 そしてアスラさんは、ぽつり、ぽつりと、やや自信なさげに言葉を紡いでいく。

「……そりゃ、まあ、あのアデットよりはいくらかマシだと思うけど、私が姉だったら、あなた、苦労するわよ。私、あなたが思ってるほど、良い人じゃないから」
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