私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ

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第83話

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 ……死んでしまったのだろうか?

 アスラさんがゆっくりとアデットに近づき、警戒しながらも脈をとる。
 それから「ふぅっ」と小さく息を吐き、私の方に顔を向けて、言う。

「こいつ、とんでもない生命力ね。本当に人間かしら。全身を魔弾で穴だらけにされたのに、まだ生きてるわ。もっとも、この様子じゃもう、再起不能でしょうけどね」

 そしてアスラさんは、アデットを拘束し始めた。ちょうど地下室にあったロープで、ガッチリと手足を縛ると、物言わぬ置物のように動かないアデットに、何かの魔法をかける。その魔法は、今の今まで激しい閃光と爆音を発していた攻撃魔法とは違い、優しい光だった。

「あの、アスラさん、その魔法は?」

「初歩の治癒魔法よ。こいつ、化け物みたいな奴だけど、それでもこのままにしておいたら、たぶん死ぬわ。だから応急手当をしているの。……あなたにとっては、こんな奴、このまま死んだ方がいいでしょうけど、私は公爵様の命を受けて『調査』に来たわけだから、こいつを生きたまま拘束する義務があるの。わかってちょうだいね」

 私は、深く頷いた。

「私も、アデットは正式に裁判を受けて、裁かれるべきだと思います。……あっ、そうだ。私たちだけで、この大きな体を運んでいくのは難しいですし、衛兵の人たちに連絡して、アデットを引き取りに来てもらった方がいいんじゃないでしょうか?」

「そうね。面倒だけど、いったん外に出て、衛兵たちの詰所に行くしかないか」

「あ、それなら大丈夫です。この家には『魔法の通信機』があるので、それを使って連絡しましょう」

「へえ、そうなの。一般家庭に『魔法の通信機』があるなんて、めずらしいわね」

 ……『魔法の通信機』とは、その名の通り、魔法の力で遠隔地との通信を可能にする機械である。高級な機械なので、どこの家にもあるものではないが、うちにはそれがあった。亡き父の仕事の関係で設置されたものらしいが、詳しいことは知らない。

 私は「ちょっと待っててください」と言い、一階に上がると、『魔法の通信機』を持って、再び地下室に戻って来た。アスラさんは『魔法の通信機』を受け取ると、手馴れた手つきでそれを作動させ、衛兵隊と連絡を取った。
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