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第31話

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 確かに私は、ミッチェルさんから見れば、孫娘くらいの年齢だと思うが、それでも、単に『年恰好が自分の孫に近いから』という理由だけで、ここまで親身にはなってくれない気がする。

 そんなことを考える私の内心を知ってか知らずか、ミッチェルさんは自分の腕時計を見て、朗らかに微笑んだ。

「さて、もう日が沈みます。レベッカさん、お互い、仕事に戻りましょう」

 ミッチェルさんの言う通り、赤く輝く夕日が、頭のてっぺんだけを残して、ほとんど山間に沈みつつあった。……そうだ、今から、食糧庫の整理をしなきゃいけないんだった。これ以上話しているわけにはいかない。私は「わかりました」と頷き、心の中の疑問はひとまずそのままにしておいて、仕事に戻ることにした。





 そして、夜。

 いつも通りに公爵様のお部屋に呼ばれた私は、『何故ミッチェルさんがあれほど私に優しいのか』という疑問を、公爵様に投げかけることにした。

 ……若干不遜ではあるが、毎夜、公爵様のお話し相手を務めることで、私も随分と公爵様に接することに慣れ、今では、その日に起こったことや疑問を、自然に口に出すことができるようになったのである。

 公爵様は、私の淹れたお茶を一口飲み、「美味い」と呟いてから、言う。

「ミッチェルは優秀な執事だが、家族とはうまくいっていなくてな。数年前に、息子夫婦が家を出て行ってしまったらしい。……ちょうど、お前と同じくらいの年齢の、孫娘も一緒に」

「えっ……」

「今でこそ、上品な好々爺が板についているが、昔のミッチェルは、優秀な分、完璧主義で、自分にも他人にも非常に厳しかった。息子夫婦は、そんなミッチェルとの堅苦しい生活が嫌になったのだろう。捜されないように、本当に、何の手掛かりも残さず、『さよなら』という書置きだけを残して、いなくなってしまったそうだ」

「そんな……」

「厳格で仕事一筋、完璧なる執事であったミッチェルも、これには相当なショックを受けたようでな、以降は、真面目ではあるものの、厳しさは影を潜め、すっかり穏やかな性格になったというわけだ。……レベッカ、お前もこの屋敷に来てもう一ヶ月だ。ならば、古株の使用人たちが、ミッチェルに対して、戦々恐々としているのを見たことがあるだろう?」

 私は、頷いた。

 ミッチェルさんに優しく声をかけられたのに、年配の使用人が、『はい!』と上ずった声をあげるのを見たのは、一回や二回ではなかった。
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