私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

第２７話

　最後の一言が、キャリーの自尊心を完膚なきまでに破壊したのか、キャリーは奇声を上げ、思ってもいなかった行動に出た。なんと、庭にあったブロックを掴み上げ、私に殴りかかろうとしてきたのだ。

　流石に、キャリーがこれほど荒っぽいことをしてくるとまでは思っていなかったので、私は驚き、体をこわばらせた。キャリーは痩せっぽちで、どう見ても腕力のあるタイプではないが、それでも硬いブロックで殴られたら、ただじゃすまないだろう。

　どうしよう。

　避けるか、防ぐかしないと。

　そんなことを思っているうちに、避けることも、防ぐこともしなくてよくなった。……いつの間にか現れていた執事のミッチェルさんが、キャリーの細い腕を掴み、ブロックを取り上げたからだ。

　ミッチェルさんは、これまで見た中で最も厳しい顔で、キャリーに言い放つ。

「お嬢さん、あなた、ここがどこかご存じないのですか？」

　突然現れたミッチェルさんに、キャリーはオロオロと慌てるばかりで、言葉を返すこともできない。やはりキャリーの強気は、私のみに限定されるようだ。

　黙ったままのキャリーに、ミッチェルさんはさらに厳しい言葉を発する。

「ここは、使用人たちが日々の疲れを癒すための庭ですが、アルベルト・ハーヴィン公爵閣下のお屋敷の一部です。そして、公爵閣下のお屋敷で暴力行為に及ぶことは、大変な罪です。レベッカさんが訴え出れば、裁判となり、あなたは禁錮刑になる。言い逃れはできません。私という証人がいますからね」

「そ、そ、そ、そんな……」

　赤かったキャリーの顔は、一気に真っ青になった。
　ミッチェルさんは、『さあ、どうしますか』と問うように、私の方を見る。

　ミッチェルさんのおかげで、暴力行為は未遂に終わったし、未成年の初犯だから、実際にはキャリーを禁錮刑にすることはできない……と思う。無学な私も、最近は色々なことを勉強しているので、その程度のことは知っている。

　そして、私でも知っていることを、ミッチェルさんが知らないはずがない。

　そうか。ミッチェルさんは、あえて強い言葉を使い、キャリーを脅かして、お灸をすえようとしているのね。その目論見通り、キャリーは白蝋のように顔を青くし、震えあがっている。