11 / 197
第11話
しおりを挟む
完璧にお役目を果たそうとする気持ちが空回りして、出しゃばり過ぎた――
こういう場合、単に『失礼します』とだけ言って、黙々とお茶をお出しして、後は静かに部屋の隅で控えているべきだったのに。私は、お茶をいれながらも、お叱りの言葉を覚悟し、震えあがっていた。
しかし公爵様は、特に何を言うこともなく、私の出したお茶を受け取ると、一口飲み、それから再び、書き物に戻った。
それでひとまず、私はホッとした。
どうやら、公爵様のご機嫌を、損ねずに済んだようである。
私は足音を立てずに壁際まで行き、待機の姿勢を取った。あとは、公爵様に『下がれ』と言われるまでこの場に控えていれば、お役目は完了である。
・
・
・
三分ほど経過しただろうか。忙しそうだった公爵様が、手を止め、椅子の背もたれにゆったりと寄りかかると、再びお茶に口をつけた。
公爵様は、壁際にいる私に向かって、言う。
「今日の茶は、少し濃いな」
お役目はほとんど完了したと思い、少々気が緩んでいた私は、その言葉で一気に緊張状態に引き戻された。
し、しまった……
公爵様は、濃く淹れたお茶より、やや薄めのほうが好みだと、事前にミッチェルさんから聞かされていたのに……。これは、単純にして、致命的なミスだ。今度こそ、お叱りを受けるに違いない。
謝って許されることではないが、それでも謝らないよりはいい。
私は、勢い良く体を折り曲げ、謝罪の言葉を述べようとした。
だが、その前に、公爵様はことも無げに、言う。
「まあ、たまには濃い茶もいいか。眠気も取れるしな」
……公爵様は、少しも怒っていないようだ。
しかし、ミスはミスであるので、私はやはり、謝罪することにした。
「も、申し訳ございません、公爵様。私、公爵様のお茶の好みを存じておりながら、間違って、濃く淹れてしまいました……どんな罰でもお受けしますので……どうか、どうか、お許しを……」
そんな私に対し、公爵様はやや呆れたように言う。
「茶の淹れ方を間違えたくらいで、罰など与えるはずがないだろう。レベッカ、お前、随分と緊張しているようだが、そんなに気を張る必要はない。今日はもう、下がっていいぞ」
こういう場合、単に『失礼します』とだけ言って、黙々とお茶をお出しして、後は静かに部屋の隅で控えているべきだったのに。私は、お茶をいれながらも、お叱りの言葉を覚悟し、震えあがっていた。
しかし公爵様は、特に何を言うこともなく、私の出したお茶を受け取ると、一口飲み、それから再び、書き物に戻った。
それでひとまず、私はホッとした。
どうやら、公爵様のご機嫌を、損ねずに済んだようである。
私は足音を立てずに壁際まで行き、待機の姿勢を取った。あとは、公爵様に『下がれ』と言われるまでこの場に控えていれば、お役目は完了である。
・
・
・
三分ほど経過しただろうか。忙しそうだった公爵様が、手を止め、椅子の背もたれにゆったりと寄りかかると、再びお茶に口をつけた。
公爵様は、壁際にいる私に向かって、言う。
「今日の茶は、少し濃いな」
お役目はほとんど完了したと思い、少々気が緩んでいた私は、その言葉で一気に緊張状態に引き戻された。
し、しまった……
公爵様は、濃く淹れたお茶より、やや薄めのほうが好みだと、事前にミッチェルさんから聞かされていたのに……。これは、単純にして、致命的なミスだ。今度こそ、お叱りを受けるに違いない。
謝って許されることではないが、それでも謝らないよりはいい。
私は、勢い良く体を折り曲げ、謝罪の言葉を述べようとした。
だが、その前に、公爵様はことも無げに、言う。
「まあ、たまには濃い茶もいいか。眠気も取れるしな」
……公爵様は、少しも怒っていないようだ。
しかし、ミスはミスであるので、私はやはり、謝罪することにした。
「も、申し訳ございません、公爵様。私、公爵様のお茶の好みを存じておりながら、間違って、濃く淹れてしまいました……どんな罰でもお受けしますので……どうか、どうか、お許しを……」
そんな私に対し、公爵様はやや呆れたように言う。
「茶の淹れ方を間違えたくらいで、罰など与えるはずがないだろう。レベッカ、お前、随分と緊張しているようだが、そんなに気を張る必要はない。今日はもう、下がっていいぞ」
98
お気に入りに追加
5,974
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~
Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。
そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。
「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」
※ご都合主義、ふんわり設定です
※小説家になろう様にも掲載しています

「君の作った料理は愛情がこもってない」と言われたのでもう何も作りません
今川幸乃
恋愛
貧乏貴族の娘、エレンは幼いころから自分で家事をして育ったため、料理が得意だった。
そのため婚約者のウィルにも手づから料理を作るのだが、彼は「おいしいけど心が籠ってない」と言い、挙句妹のシエラが作った料理を「おいしい」と好んで食べている。
それでも我慢してウィルの好みの料理を作ろうとするエレンだったがある日「料理どころか君からも愛情を感じない」と言われてしまい、もう彼の気を惹こうとするのをやめることを決意する。
ウィルはそれでもシエラがいるからと気にしなかったが、やがてシエラの料理作りをもエレンが手伝っていたからこそうまくいっていたということが分かってしまう。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

困った時だけ泣き付いてくるのは、やめていただけますか?
柚木ゆず
恋愛
「アン! お前の礼儀がなっていないから夜会で恥をかいたじゃないか! そんな女となんて一緒に居られない! この婚約は破棄する!!」
「アン君、婚約の際にわが家が借りた金は全て返す。速やかにこの屋敷から出ていってくれ」
新興貴族である我がフェリルーザ男爵家は『地位』を求め、多額の借金を抱えるハーニエル伯爵家は『財』を目当てとして、各当主の命により長女であるわたしアンと嫡男であるイブライム様は婚約を交わす。そうしてわたしは両家当主の打算により、婚約後すぐハーニエル邸で暮らすようになりました。
わたしの待遇を良くしていれば、フェリルーザ家は喜んでより好条件で支援をしてくれるかもしれない。
こんな理由でわたしは手厚く迎えられましたが、そんな日常はハーニエル家が投資の成功により大金を手にしたことで一変してしまいます。
イブライム様は男爵令嬢如きと婚約したくはなく、当主様は格下貴族と深い関係を築きたくはなかった。それらの理由で様々な暴言や冷遇を受けることとなり、最終的には根も葉もない非を理由として婚約を破棄されることになってしまったのでした。
ですが――。
やがて不意に、とても不思議なことが起きるのでした。
「アンっ、今まで酷いことをしてごめんっ。心から反省しています! これからは仲良く一緒に暮らしていこうねっ!」
わたしをゴミのように扱っていたイブライム様が、涙ながらに謝罪をしてきたのです。
…………あのような真似を平然する人が、突然反省をするはずはありません。
なにか、裏がありますね。

完結 穀潰しと言われたので家を出ます
音爽(ネソウ)
恋愛
ファーレン子爵家は姉が必死で守って来た。だが父親が他界すると家から追い出された。
「お姉様は出て行って!この穀潰し!私にはわかっているのよ遺産をいいように使おうだなんて」
遺産などほとんど残っていないのにそのような事を言う。
こうして腹黒な妹は母を騙して家を乗っ取ったのだ。
その後、収入のない妹夫婦は母の財を喰い物にするばかりで……
本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~
なか
恋愛
私は本日、貴方と離婚します。
愛するのは、終わりだ。
◇◇◇
アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。
初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。
しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。
それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。
この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。
レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。
全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。
彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……
この物語は、彼女の決意から三年が経ち。
離婚する日から始まっていく
戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。
◇◇◇
設定は甘めです。
読んでくださると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる