私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ

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第2話

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「ああっ、大事なお皿が……っ! まったく、この子はっ! 何やってるの!」

 お母様は金切り声を上げると、眉間にしわを寄せ、私をぶった。容赦のない平手打ちだったが、お母様はあまり力がないので、口の中が切れたりはしなかった。

 ……お母様にぶたれると、頬の痛み以上に、心が痛い。

 お母様は、お皿のことは心配しても、私のことを心配してくれたことなど、一度もない。

 どうしてお母様は、私を愛してくれないのだろう――

 自分の心にしみじみそう問いかけると、寂しさと悲しさで、涙が溢れそうになる。しかし、めそめそすると、お母様はより一層不機嫌になるので、私はぐっと涙をこらえ、「お皿を割ってしまい、すみませんでした」とだけ呟いた。

 お母様は大げさに舌打ちをし、それから、ため息を吐いた。

「本当に、最後の最後まで、グズでノロマな子だわ。奉公先で目いっぱい稼いで、ちゃんとこっちにお金を送るのよ。いいわね」

 割れたお皿を片付けるためにしゃがんでいた私は、その言葉を聞き、お母様を見上げた。……『最後の最後まで』って、どういうこと? 私は、思った通りのことを、ほとんどそのまま口に出す。

「お母様、『最後の最後まで』って、どういう意味ですか……? 私、奉公が終わったら、また、うちに帰って来てもいいんですよね?」

 そう問いかけながらも、私は薄々、わかっていた。
 奉公に出てしまったら、たぶんもう二度と、うちには帰って来られないことに。

 お母様は「ふん」と鼻を鳴らし、すがるような目で見上げている私を嘲笑った。

「驚いたわ、レベッカ。あなた、これまでずっと冷たくされてきたのに、まだこのうちにいたいと思ってるなんて、ちょっとおかしいんじゃないの?」

 そうかもしれない。

 でも私は、一度でいいから、この家で、お母様に優しい言葉をかけてもらいたかった。……お母様は、そんな私の願いを蹴り飛ばすかのように、さらに冷たい言葉を浴びせる。

「いい機会だから、言っておくわ。私、あなたのことが嫌いなのよ。本当に、大っ嫌いなの。だから、奉公ができる年齢になったら、この家から追い出してやろうと思ってたのよ。……どうして私があなたを嫌いなのか、わかる?」

 私は、首を左右に振った。
 そして、お母様の言葉を待った。

『何故お母様が私を嫌うのか』

 私はその理由を、ずっとずっと、知りたかった。
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