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第1話

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「レベッカ、掃除はすんだの? まだでしょう? 早くしなさい」

 お母様は、私に冷たい。
 とてつもなく、冷たい。

 お母様が私にかけてくれる言葉は、たったの三種類だけ。

『掃除はすんだの?』
『早く食事の支度をしなさい』
『いつまで起きてるの。もう寝なさい』 

 ……お母様のその日の気分で、多少ニュアンスが変わったりするが、基本的に、この三つだけだ。少なくとも数年間は、私はお母様と、ちゃんとした会話を交わした記憶がない。

 お母様は、おしゃべりが苦手……というわけでもなく、お姉様や妹たちとは、よく話をして、笑っている。……そう、私だけが、お母様に嫌われているのだ。

 どうして私は、お母様に嫌われているのだろう?

 どれだけ自問自答しても、その答えは分からなかった。

 私は、お姉様や妹たちと違って、一度だってお母様に口答えなどしたことがないし、お母様に命じられたことは、すべてこなしてきた。

 12歳の頃から、家の掃除も、食事の準備も、私の『役目』だ。

 その、私に与えられた『役目』を、今日まで四年間。一日も休まずに、私は努めてきた。正直に言えば、休みたい日もあったが、一言の文句も、言ったことがない。……だって、一生懸命頑張っていれば、いつかはお母様も、私を認め、そして、母親としての愛情を注いでくれる日が来るかもしれないと、思っていたから。

 しかし、16歳の誕生日。

 私は思い知った。
 お母様が私を愛してくれる日など、決して訪れないということを。

 他の姉妹と違い、簡素なバースデーケーキすらも用意してもらえなかった夕食が終わり、私が食器の後片付けをしていた時、お母様が珍しく私のそばに来て、こう、声をかけたのだ。

「レベッカ。お前には、明日から奉公に出てもらいます。今日のうちに、身支度を整えておきなさい」

 私の意思を確認する気などない、冷たく、事務的な言い方だった。

 奉公……

 お姉様や妹たちと違って、家の雑務をこなすことに忙しい私は、あまり学校に通うことができなかったが、そんな学のない私でも、『奉公』という言葉の意味くらい知っている。偉い人のところで使用人になり、住み込みで働くことだ。

 つまりそれは、『この家を出て行け』と言われているのに等しい。

 突然のことに驚き、私は磨いていたお皿を落としてしまう。
 お皿は乾いた音を立て、砕けた。

 ……運の悪いことに、それは偶然、お母様が一番気に入っている、アンティークのお皿だった。
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