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第62話
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広瀬さんは頭を軽く押さえ、俯きながら瞳を閉じた。
「さっきまでのことって言われても、私、朝の個人練習のために音楽室に来て……それからのこと、何も覚えてない……頭がぼんやりする……」
やっぱり。
そこで私は、ゲートが閉じる寸前に、ガレスが何かを指し示すような動きをしていたことを思い出した。今にして思えば、音楽室の隅で横になっている広瀬さんを指さしていたような気がする。
そっか……。
ガレスは、広瀬さんが内心を話してしまったことで、これ以上苦悩しないように、その記憶だけを消してくれたんだ。……あれだけ他者を馬鹿にしていたガレスが、どうしてそんなことをしたのか? その理由はきっと、ガレス本人にしかわからない。
単に、私と関係のある広瀬さんをこれ以上苦しめないことで、ルディに余計な借りを作りたくないというだけなのかもしれない。でも、なんとなく、それだけじゃないような気がする。
私がガレスに対し、『あなたが嘲笑った広瀬さんの心の声は、本人にとっては、何が何でも秘密にしておきたい、悩みや葛藤、そして、辛いコンプレックスだった』と言った時、ガレスの顔には、確かな罪悪感が浮かんだように思えたのだ。
他人の苦しみに鈍感なガレスだが、『重要な秘め事を無理に聞き出そうとすればするほど、魔力消費は倍々に膨らんでいく』という特性により、自らが疲労しきったことでやっと、強引に人の秘密を暴き立てることの罪の深さを悟ってくれたような気がする。少なくとも、私はそう信じたかった。
しかし、広瀬さん自身は心の内を話したことを忘れても、私は、彼女の切実な想いを全て聞いてしまった。このままじゃ、フェアじゃない。かといって、どこかに頭をぶつけて、都合よく記憶喪失になれるというものでもない。
だから私は、さっき決意した通り、広瀬さんに私の胸の内をすべて話すことに決めた。どこにも逃げず、だけども責めず、そして正直に、想いの全部を告白する。それだけのことで、私と広瀬さんの関係が簡単に改善するとは思わない。でも、まずはそこからだ。そうしないと、何も変わらないのだから。
私は、「もう大丈夫」と言って立ち上がった広瀬さんに続いて立ち上がると、真っすぐに彼女を見つめた。この前、広瀬さんを責めたときのような強い視線じゃない。"優しい視線"などと自分で言うつもりはないが、少なくとも、敵意は全く込めず、自然に見つめる。緊張も全くなく、自然に見つめる。
なんとなく、今なら分かる。敵意が敵意を呼び、緊張が緊張を呼ぶのだ。私のかたくなな態度が、広瀬さんをさらにかたくなにさせていたのだ。
ルディとガレスが激しく争い、恐れ、怒り、負の感情をぶつけ合った後、多少なりとも互いを認め合っていたように見えたから、そう感じるのだろうか。
私の視線を受け、広瀬さんは軽く首をかしげながらも、その表情は優しかった。こんな広瀬さんの顔を見るのは、初めてだった。私は一度だけ深く息を吸い、ゆっくりと吐いてから、話し始める。
「広瀬さん、あのね……」
「さっきまでのことって言われても、私、朝の個人練習のために音楽室に来て……それからのこと、何も覚えてない……頭がぼんやりする……」
やっぱり。
そこで私は、ゲートが閉じる寸前に、ガレスが何かを指し示すような動きをしていたことを思い出した。今にして思えば、音楽室の隅で横になっている広瀬さんを指さしていたような気がする。
そっか……。
ガレスは、広瀬さんが内心を話してしまったことで、これ以上苦悩しないように、その記憶だけを消してくれたんだ。……あれだけ他者を馬鹿にしていたガレスが、どうしてそんなことをしたのか? その理由はきっと、ガレス本人にしかわからない。
単に、私と関係のある広瀬さんをこれ以上苦しめないことで、ルディに余計な借りを作りたくないというだけなのかもしれない。でも、なんとなく、それだけじゃないような気がする。
私がガレスに対し、『あなたが嘲笑った広瀬さんの心の声は、本人にとっては、何が何でも秘密にしておきたい、悩みや葛藤、そして、辛いコンプレックスだった』と言った時、ガレスの顔には、確かな罪悪感が浮かんだように思えたのだ。
他人の苦しみに鈍感なガレスだが、『重要な秘め事を無理に聞き出そうとすればするほど、魔力消費は倍々に膨らんでいく』という特性により、自らが疲労しきったことでやっと、強引に人の秘密を暴き立てることの罪の深さを悟ってくれたような気がする。少なくとも、私はそう信じたかった。
しかし、広瀬さん自身は心の内を話したことを忘れても、私は、彼女の切実な想いを全て聞いてしまった。このままじゃ、フェアじゃない。かといって、どこかに頭をぶつけて、都合よく記憶喪失になれるというものでもない。
だから私は、さっき決意した通り、広瀬さんに私の胸の内をすべて話すことに決めた。どこにも逃げず、だけども責めず、そして正直に、想いの全部を告白する。それだけのことで、私と広瀬さんの関係が簡単に改善するとは思わない。でも、まずはそこからだ。そうしないと、何も変わらないのだから。
私は、「もう大丈夫」と言って立ち上がった広瀬さんに続いて立ち上がると、真っすぐに彼女を見つめた。この前、広瀬さんを責めたときのような強い視線じゃない。"優しい視線"などと自分で言うつもりはないが、少なくとも、敵意は全く込めず、自然に見つめる。緊張も全くなく、自然に見つめる。
なんとなく、今なら分かる。敵意が敵意を呼び、緊張が緊張を呼ぶのだ。私のかたくなな態度が、広瀬さんをさらにかたくなにさせていたのだ。
ルディとガレスが激しく争い、恐れ、怒り、負の感情をぶつけ合った後、多少なりとも互いを認め合っていたように見えたから、そう感じるのだろうか。
私の視線を受け、広瀬さんは軽く首をかしげながらも、その表情は優しかった。こんな広瀬さんの顔を見るのは、初めてだった。私は一度だけ深く息を吸い、ゆっくりと吐いてから、話し始める。
「広瀬さん、あのね……」
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