魔界プリンスとココロのヒミツ【完結】

小平ニコ

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第61話

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 ルディに言われ、ガレスは頷く。少し休んでいるうちに、その顔色は随分と良くなっていた。さすがに、普通の人間とは鍛え方が違うらしい。

「よし。魔界へのゲートを開くぞ。二人分だから、それなりに大きなゲートが必要になるな。まったく、疲れた体でこれをやるのは相当な重労働だ」

「無理するな、余も協力する。二人でやれば……」

「いい。俺にやらせろ。……恥知らずな要求をすべてのまれ、怪我の治療まですると言われたのだ。これくらいのことは俺一人でやらねば格好がつかん」

「そうか、ではまかせよう。実を言うと、余はゲートを開くのが苦手でな。魔法のエキスパートであるそなたがやってくれると助かる」

 そして、ガレスが両手を組み、何かを念じるようにしていると、突然目の前に、縦170cm、横170cm程度の正方形が出現する。正方形の中はどこまでも続く暗黒で、時折、星のような光がまたたいている。これが『魔界へのゲート』なのだろう。

「ふぅ、これくらいのサイズでよかろう。ゲートを維持できるのは約20秒ほどだ。ルディ・クーランド。急いで入ってくれ」

 そう言いながら、ガレスはゲートの中に入る。少し前までのガレスなら、『貴様が先に入らねば信用できん、また逃げ出す気だろう』とか言いそうなものだが、今のガレスは、ほんの少しの嫌味も言う気はなさそうだった。彼には色々と酷いことをされたけど、陰湿で攻撃的に見えた心の深部には、案外素直さがあるのかもしれない。

 ガレスに言われた通り、急いでゲートの中に入るルディ。そして、じわじわと正方形が小さくなっていく。……これで、正真正銘のお別れだ。私はゲートの中を覗き込むようにしながら、手を振った。

「さよなら、ルディ。また、いつか……」

 必ず会おうね――

 そう告げたかったのだが、最後まで言葉を紡ぐことができなかった。……まるで、決して叶わない約束をするみたいで。口にしてしまったら、ルディと二度と会えなくなるような気がして。

 この不安は、私の中にある『弱さ』だ。しかしルディは、そんな私の『弱さ』をも包み込むように、伝えたかった言葉の真意を悟って返事をしてくれた。

「うむ。またいつか会えるその時を、楽しみにしているぞ」

 それから『一応』というのも変だけど、ガレスにも別れの言葉を言う。

「ガレスも、さよなら。粗暴な言動はなるべく慎んでね」

「俺の母上か貴様は」

 その言葉を最後に、これまでじわじわと閉じていたゲートが、一瞬で縮まり、消滅する。……別れの余韻に切なさを感じていると、後ろで小さな呻き声。どうやら、広瀬さんが目を覚ましたらしい。

 私は広瀬さんに駆け寄り、その上半身をそっと抱き起こす。

「広瀬さん、大丈夫……?」

「稲葉さん……? なんでここに……?」

「えっ? その、なんでって言われると……」

 発端は、広瀬さんのフルートの音が聞こえたから、惹きつけられるように音楽室に来てしまったわけだが、今さらここに来た理由を聞かれるのは、なんとなく奇妙だった。ガレスが現れてから、あれだけ色々なことがあったのだから、普通なら、まず最初に『ガレスはもういなくなったのか』的なことを聞くはずだ。

 もしかして広瀬さん、記憶が……。

 私は、今思った通りのことを、そのまま広瀬さんに尋ねた。

「広瀬さん、さっきまでのこと、覚えてる?」
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