61 / 63
第61話
しおりを挟む
ルディに言われ、ガレスは頷く。少し休んでいるうちに、その顔色は随分と良くなっていた。さすがに、普通の人間とは鍛え方が違うらしい。
「よし。魔界へのゲートを開くぞ。二人分だから、それなりに大きなゲートが必要になるな。まったく、疲れた体でこれをやるのは相当な重労働だ」
「無理するな、余も協力する。二人でやれば……」
「いい。俺にやらせろ。……恥知らずな要求をすべてのまれ、怪我の治療まですると言われたのだ。これくらいのことは俺一人でやらねば格好がつかん」
「そうか、ではまかせよう。実を言うと、余はゲートを開くのが苦手でな。魔法のエキスパートであるそなたがやってくれると助かる」
そして、ガレスが両手を組み、何かを念じるようにしていると、突然目の前に、縦170cm、横170cm程度の正方形が出現する。正方形の中はどこまでも続く暗黒で、時折、星のような光がまたたいている。これが『魔界へのゲート』なのだろう。
「ふぅ、これくらいのサイズでよかろう。ゲートを維持できるのは約20秒ほどだ。ルディ・クーランド。急いで入ってくれ」
そう言いながら、ガレスはゲートの中に入る。少し前までのガレスなら、『貴様が先に入らねば信用できん、また逃げ出す気だろう』とか言いそうなものだが、今のガレスは、ほんの少しの嫌味も言う気はなさそうだった。彼には色々と酷いことをされたけど、陰湿で攻撃的に見えた心の深部には、案外素直さがあるのかもしれない。
ガレスに言われた通り、急いでゲートの中に入るルディ。そして、じわじわと正方形が小さくなっていく。……これで、正真正銘のお別れだ。私はゲートの中を覗き込むようにしながら、手を振った。
「さよなら、ルディ。また、いつか……」
必ず会おうね――
そう告げたかったのだが、最後まで言葉を紡ぐことができなかった。……まるで、決して叶わない約束をするみたいで。口にしてしまったら、ルディと二度と会えなくなるような気がして。
この不安は、私の中にある『弱さ』だ。しかしルディは、そんな私の『弱さ』をも包み込むように、伝えたかった言葉の真意を悟って返事をしてくれた。
「うむ。またいつか会えるその時を、楽しみにしているぞ」
それから『一応』というのも変だけど、ガレスにも別れの言葉を言う。
「ガレスも、さよなら。粗暴な言動はなるべく慎んでね」
「俺の母上か貴様は」
その言葉を最後に、これまでじわじわと閉じていたゲートが、一瞬で縮まり、消滅する。……別れの余韻に切なさを感じていると、後ろで小さな呻き声。どうやら、広瀬さんが目を覚ましたらしい。
私は広瀬さんに駆け寄り、その上半身をそっと抱き起こす。
「広瀬さん、大丈夫……?」
「稲葉さん……? なんでここに……?」
「えっ? その、なんでって言われると……」
発端は、広瀬さんのフルートの音が聞こえたから、惹きつけられるように音楽室に来てしまったわけだが、今さらここに来た理由を聞かれるのは、なんとなく奇妙だった。ガレスが現れてから、あれだけ色々なことがあったのだから、普通なら、まず最初に『ガレスはもういなくなったのか』的なことを聞くはずだ。
もしかして広瀬さん、記憶が……。
私は、今思った通りのことを、そのまま広瀬さんに尋ねた。
「広瀬さん、さっきまでのこと、覚えてる?」
「よし。魔界へのゲートを開くぞ。二人分だから、それなりに大きなゲートが必要になるな。まったく、疲れた体でこれをやるのは相当な重労働だ」
「無理するな、余も協力する。二人でやれば……」
「いい。俺にやらせろ。……恥知らずな要求をすべてのまれ、怪我の治療まですると言われたのだ。これくらいのことは俺一人でやらねば格好がつかん」
「そうか、ではまかせよう。実を言うと、余はゲートを開くのが苦手でな。魔法のエキスパートであるそなたがやってくれると助かる」
そして、ガレスが両手を組み、何かを念じるようにしていると、突然目の前に、縦170cm、横170cm程度の正方形が出現する。正方形の中はどこまでも続く暗黒で、時折、星のような光がまたたいている。これが『魔界へのゲート』なのだろう。
「ふぅ、これくらいのサイズでよかろう。ゲートを維持できるのは約20秒ほどだ。ルディ・クーランド。急いで入ってくれ」
そう言いながら、ガレスはゲートの中に入る。少し前までのガレスなら、『貴様が先に入らねば信用できん、また逃げ出す気だろう』とか言いそうなものだが、今のガレスは、ほんの少しの嫌味も言う気はなさそうだった。彼には色々と酷いことをされたけど、陰湿で攻撃的に見えた心の深部には、案外素直さがあるのかもしれない。
ガレスに言われた通り、急いでゲートの中に入るルディ。そして、じわじわと正方形が小さくなっていく。……これで、正真正銘のお別れだ。私はゲートの中を覗き込むようにしながら、手を振った。
「さよなら、ルディ。また、いつか……」
必ず会おうね――
そう告げたかったのだが、最後まで言葉を紡ぐことができなかった。……まるで、決して叶わない約束をするみたいで。口にしてしまったら、ルディと二度と会えなくなるような気がして。
この不安は、私の中にある『弱さ』だ。しかしルディは、そんな私の『弱さ』をも包み込むように、伝えたかった言葉の真意を悟って返事をしてくれた。
「うむ。またいつか会えるその時を、楽しみにしているぞ」
それから『一応』というのも変だけど、ガレスにも別れの言葉を言う。
「ガレスも、さよなら。粗暴な言動はなるべく慎んでね」
「俺の母上か貴様は」
その言葉を最後に、これまでじわじわと閉じていたゲートが、一瞬で縮まり、消滅する。……別れの余韻に切なさを感じていると、後ろで小さな呻き声。どうやら、広瀬さんが目を覚ましたらしい。
私は広瀬さんに駆け寄り、その上半身をそっと抱き起こす。
「広瀬さん、大丈夫……?」
「稲葉さん……? なんでここに……?」
「えっ? その、なんでって言われると……」
発端は、広瀬さんのフルートの音が聞こえたから、惹きつけられるように音楽室に来てしまったわけだが、今さらここに来た理由を聞かれるのは、なんとなく奇妙だった。ガレスが現れてから、あれだけ色々なことがあったのだから、普通なら、まず最初に『ガレスはもういなくなったのか』的なことを聞くはずだ。
もしかして広瀬さん、記憶が……。
私は、今思った通りのことを、そのまま広瀬さんに尋ねた。
「広瀬さん、さっきまでのこと、覚えてる?」
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
クール天狗の溺愛事情
緋村燐
児童書・童話
サトリの子孫である美紗都は
中学の入学を期にあやかしの里・北妖に戻って来た。
一歳から人間の街で暮らしていたからうまく馴染めるか不安があったけれど……。
でも、素敵な出会いが待っていた。
黒い髪と同じ色の翼をもったカラス天狗。
普段クールだという彼は美紗都だけには甘くて……。
*・゜゚・*:.。..。.:*☆*:.。. .。.:*・゜゚・*
「可愛いな……」
*滝柳 風雅*
守りの力を持つカラス天狗
。.:*☆*:.。
「お前今から俺の第一嫁候補な」
*日宮 煉*
最強の火鬼
。.:*☆*:.。
「風雅の邪魔はしたくないけど、簡単に諦めたくもないなぁ」
*山里 那岐*
神の使いの白狐
\\ドキドキワクワクなあやかし現代ファンタジー!//
野いちご様
ベリーズカフェ様
魔法のiらんど様
エブリスタ様
にも掲載しています。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
1000本の薔薇と闇の薬屋
八木愛里
児童書・童話
アルファポリス第1回きずな児童書大賞奨励賞を受賞しました!
イーリスは父親の寿命が約一週間と言われ、運命を変えるべく、ちまたで噂の「なんでも願いをかなえる薬」が置いてある薬屋に行くことを決意する。
その薬屋には、意地悪な店長と優しい少年がいた。
父親の薬をもらおうとしたイーリスだったが、「なんでも願いをかなえる薬」を使うと、使った本人、つまりイーリスが死んでしまうという訳ありな薬だった。
訳ありな薬しか並んでいない薬屋、通称「闇の薬屋」。
薬の瓶を割ってしまったことで、少年スレーの秘密を知り、イーリスは店番を手伝うことになってしまう。
児童文学風ダークファンタジー
5万文字程度の中編
【登場人物の紹介】
・イーリス……13才。ドジでいつも行動が裏目に出る。可憐に見えるが心は強い。B型。
・シヴァン……16才。通称「闇の薬屋」の店長。手段を選ばず強引なところがある。A型。
・スレー……見た目は12才くらい。薬屋のお手伝いの少年。柔らかい雰囲気で、どこか大人びている。O型。
・ロマニオ……17才。甘いマスクでマダムに人気。AB型。
・フクロウのクーちゃん……無表情が普通の看板マスコット。

拳法家 ウーミンリン
モモンとパパン
児童書・童話
この作品はフィクションです。
中国の誰も寄りつかない洞窟に、拳法家 ウーミンリンは一人 必殺拳の
習得にはげんでいました。
ミンリンには、絶対に倒さなければならない相手がいました。
その名は、ベイチェンホという男でした。
はたして、ミンリンはチェンホを倒すことができたのでしょうか?

ぼくの親友
辛已奈美(かのうみなみ)
児童書・童話
夕日がおちて、空がくらくなりはじめるころ、1ぴきの小さなねずみが、しずかに目をさました。かれの名前はリュウタ。リュウタは、町のかたすみにある、古びたそうこにすんでいた。そんなリュウタは、町で1けんの、古いパンやを見つけた。そこで・・・
小学2年生までの漢字で作っています。
ヒョイラレ
如月芳美
児童書・童話
中学に入って関東デビューを果たした俺は、急いで帰宅しようとして階段で足を滑らせる。
階段から落下した俺が目を覚ますと、しましまのモフモフになっている!
しかも生きて歩いてる『俺』を目の当たりにすることに。
その『俺』はとんでもなく困り果てていて……。
どうやら転生した奴が俺の体を使ってる!?
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜
うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】
「……襲われてる! 助けなきゃ!」
錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。
人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。
「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」
少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。
「……この手紙、私宛てなの?」
少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。
――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。
新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。
「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。
《この小説の見どころ》
①可愛いらしい登場人物
見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎
②ほのぼのほんわか世界観
可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。
③時々スパイスきいてます!
ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。
④魅力ある錬成アイテム
錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。
◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。
◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。
◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる