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第60話
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「うぐ……」
私が最後に言った『いさぎよくない』という言葉が特に堪えたのか、ガレスは短くうなり、後は黙り込んでしまった。そのションボリした姿を見てしまうと、これ以上責めたてるのもどうかという気持ちになり、私も黙る。そのまま数秒ほど無言の時間が続いた後、ルディがあっけらかんと沈黙を破った。
「わかった。今から魔界に戻ろう。そして、そなたの怪我も治療し、お互いにベストの状態で正式な決闘をするとしよう。ガレス・ゴールズよ。これでいいな?」
ガレスの図々しい要求を丸のみし、さらに怪我の治療というオマケまでつけたルディの提案に、私もガレスも絶句してしまう。私は思わず、ルディに問いかけていた。
「どうしてそこまで……」
「加奈よ、すまぬ。頬をぶたれたそなたからすれば、この場で奴を罰してほしいところかもしれぬが、そもそもガレス・ゴールズが人間界に来たのは、余が奴との決闘から逃げたからだ。ならば、一度くらいは奴の要求をのむのがスジというものだろう」
「そ、それはまあ……そうかもしれないけど……」
おおらかというか、器が大きいというか。最初はあれほど激怒していたルディだったが、激しく戦ううちに、逆に冷静になっていったようだ。結局のところ、私の怪我が大したことはなく、自らの治癒魔法で完璧に治すことができたから、過剰にガレスを憎む必要はないと思い直したのかもしれない。
ガレスはまさか、自らの要求がすべて通るとは思っていなかったのか、尊大な口をきくこともなく、黙ったままだ。そんなガレスに、ルディは諭すような口調で言う。
「ただ、魔界に戻る前に、ひとつやってもらいたいことがある。加奈への謝罪だ。何があろうと、無抵抗の相手に暴力はいかん。まさか、加奈の方からそなたに手を出したわけでもあるまい?」
もちろん私から手を出したわけではないが、考えようによっては、言葉でガレスを挑発したとも言えるので、あのガレスが素直に私に謝るとは思えなかった。
しかし……
「……わかった。稲葉加奈よ。殴って悪かった。すまん。この通りだ」
言葉だけではなく、ペコリと頭も下げるガレス。意外すぎて、驚きすぎて、なんて言葉を返していいか分からない。そんな私に、今度はルディが頭を下げ、拝むような姿勢を取りながら別れの言葉を述べる。
「正式な作法に比べると簡易的だが、こうして首を垂れ、両手を合わせることで『別離の挨拶』の完了とする。結局、史郎に挨拶することはできなかったが、こうなっては仕方あるまい。加奈よ、次に史郎と会った時、今余がした動作を真似て『まみえられぬ非礼を許されたし』と伝えてくれ。これで一応、最低限の礼となる」
「う、うん。必ずやるよ」
「頼む。では、ガレス・ゴールズよ、待たせたな。魔界に戻ろう」
私が最後に言った『いさぎよくない』という言葉が特に堪えたのか、ガレスは短くうなり、後は黙り込んでしまった。そのションボリした姿を見てしまうと、これ以上責めたてるのもどうかという気持ちになり、私も黙る。そのまま数秒ほど無言の時間が続いた後、ルディがあっけらかんと沈黙を破った。
「わかった。今から魔界に戻ろう。そして、そなたの怪我も治療し、お互いにベストの状態で正式な決闘をするとしよう。ガレス・ゴールズよ。これでいいな?」
ガレスの図々しい要求を丸のみし、さらに怪我の治療というオマケまでつけたルディの提案に、私もガレスも絶句してしまう。私は思わず、ルディに問いかけていた。
「どうしてそこまで……」
「加奈よ、すまぬ。頬をぶたれたそなたからすれば、この場で奴を罰してほしいところかもしれぬが、そもそもガレス・ゴールズが人間界に来たのは、余が奴との決闘から逃げたからだ。ならば、一度くらいは奴の要求をのむのがスジというものだろう」
「そ、それはまあ……そうかもしれないけど……」
おおらかというか、器が大きいというか。最初はあれほど激怒していたルディだったが、激しく戦ううちに、逆に冷静になっていったようだ。結局のところ、私の怪我が大したことはなく、自らの治癒魔法で完璧に治すことができたから、過剰にガレスを憎む必要はないと思い直したのかもしれない。
ガレスはまさか、自らの要求がすべて通るとは思っていなかったのか、尊大な口をきくこともなく、黙ったままだ。そんなガレスに、ルディは諭すような口調で言う。
「ただ、魔界に戻る前に、ひとつやってもらいたいことがある。加奈への謝罪だ。何があろうと、無抵抗の相手に暴力はいかん。まさか、加奈の方からそなたに手を出したわけでもあるまい?」
もちろん私から手を出したわけではないが、考えようによっては、言葉でガレスを挑発したとも言えるので、あのガレスが素直に私に謝るとは思えなかった。
しかし……
「……わかった。稲葉加奈よ。殴って悪かった。すまん。この通りだ」
言葉だけではなく、ペコリと頭も下げるガレス。意外すぎて、驚きすぎて、なんて言葉を返していいか分からない。そんな私に、今度はルディが頭を下げ、拝むような姿勢を取りながら別れの言葉を述べる。
「正式な作法に比べると簡易的だが、こうして首を垂れ、両手を合わせることで『別離の挨拶』の完了とする。結局、史郎に挨拶することはできなかったが、こうなっては仕方あるまい。加奈よ、次に史郎と会った時、今余がした動作を真似て『まみえられぬ非礼を許されたし』と伝えてくれ。これで一応、最低限の礼となる」
「う、うん。必ずやるよ」
「頼む。では、ガレス・ゴールズよ、待たせたな。魔界に戻ろう」
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