58 / 63
第58話
しおりを挟む
「ガレス・ゴールズ。けじめをつけてもらうぞ。さあ、構えろ。そなたとて、戦闘態勢も取らずにやられたくはないだろう」
その言葉がプライドを刺激したのか、今の今までルディの迫力に気圧されていたガレスだったが、強い怒りと共に地面を踏みしめ、戦う姿勢を取る。
「舐めるな! 決闘から逃げ、治癒魔法を好むような軟弱者の卑怯者が『やられたくはないだろう』だと? 真正面からやりあって、この俺に勝てるつもりか!? 長時間飛行し、魔力も体力も落ちているくせに!」
「そなたも本調子ではあるまい。両腕を負傷している上に、さっき余が激突した衝撃で、体の芯にダメージが残っているはずだ。余の疲労とそなたの負傷具合は、だいたい同じ。いい勝負になるとは思わんか? 力の落ちている者同士の戦いなら、この部屋を壊してしまうようなこともあるまい」
「……いいだろう。魔界の闘技場でおこなう決闘以外は正式な決闘とは認められないが、この戦いで力の違いを見せつけ、貴様の心を完全に折ってやる。この俺の真の強さに恐怖したお前は、もう二度と戦えなくなるだろう。そんな情けない奴が次期魔王に選ばれるはずがない! 結局、ここでの戦いですべてが決まるのだ!」
次第に闘争心が高まってきたのか、演説するように声を張り上げるガレス。そんなガレスに、ルディは冷ややかな視線と言葉を投げつけた。
「情けないのはそなただ、ガレス・ゴールズ。経緯は分からぬが、常人を遥かに超える腕力を持ちながら、加奈を――武器も持たぬ少女を殴りつけるような男が、次期魔王になどなれるはずがなかろう。魔王どころか、そなたは男として失格だ」
「黙れぇっ!」
そして、二人の戦いが始まった。私は、邪魔にならないように、倒れたままの広瀬さんを引っ張ってどこかに隠れるべきかと思ったが、それは余計な心配だった。
ルディとガレスの戦いは、スピードが速すぎて何をやっているのかほとんどわからなかったが、激しいのに、整然とした戦いだった。うちの音楽室は通常の教室よりかなり広いせいもあるが、ルディもガレスも、見事なほど何にもぶつからず、破壊することもなく、自分たちの体だけを狙って攻撃と回避を繰り返しているようだった。
さすがは、幼少期より徹底した戦いの英才教育を受けてきたルディとガレスだ。そして、最初は互角だった二人の死闘は、次第にルディの方に勢いが傾いていくのが、素人の私でもなんとなくわかった。だって、ガレスの呼吸がどんどん荒くなり、明らかに疲れているのが見て取れたから。
「はぁっ、はぁっ、く、くそっ、こんなはずでは……!」
「どうした? タフさが自慢のそなたが、こんなに早くスタミナ切れをおこすとはな。長時間飛行で疲れている余でも、まだもう少しは戦えるぞ」
「うるさいっ!」
「……そなた、もしや今日も、昨日のように卑劣な魔法を使って、人の心をもてあそんでいたのではあるまいな。さっきから気にはなっていたが、そこで横になっている広瀬から、若干だが魔法を使われた残り香のようなものを感じるぞ」
「それがどうしたと言うのだ! 貴様も稲葉加奈のように、俺に説教する気か!? 強者である俺には、弱者に魔法を振るう権利が……」
「そんなことを言っているのではない。そなたのスタミナ切れの原因を教えてやろうというのだ。他人の心に干渉する魔法は、恐ろしく魔力を消費する。自分一人で頑張っていればいい飛行魔法と違い、相手があることだからな。重要な秘め事を無理に聞き出そうとすればするほど、魔力消費は倍々に膨らんでいく。今のそなたは……」
「やかましい! 戦闘中にペラペラとっ! すぐ黙らせてやる!」
その言葉がプライドを刺激したのか、今の今までルディの迫力に気圧されていたガレスだったが、強い怒りと共に地面を踏みしめ、戦う姿勢を取る。
「舐めるな! 決闘から逃げ、治癒魔法を好むような軟弱者の卑怯者が『やられたくはないだろう』だと? 真正面からやりあって、この俺に勝てるつもりか!? 長時間飛行し、魔力も体力も落ちているくせに!」
「そなたも本調子ではあるまい。両腕を負傷している上に、さっき余が激突した衝撃で、体の芯にダメージが残っているはずだ。余の疲労とそなたの負傷具合は、だいたい同じ。いい勝負になるとは思わんか? 力の落ちている者同士の戦いなら、この部屋を壊してしまうようなこともあるまい」
「……いいだろう。魔界の闘技場でおこなう決闘以外は正式な決闘とは認められないが、この戦いで力の違いを見せつけ、貴様の心を完全に折ってやる。この俺の真の強さに恐怖したお前は、もう二度と戦えなくなるだろう。そんな情けない奴が次期魔王に選ばれるはずがない! 結局、ここでの戦いですべてが決まるのだ!」
次第に闘争心が高まってきたのか、演説するように声を張り上げるガレス。そんなガレスに、ルディは冷ややかな視線と言葉を投げつけた。
「情けないのはそなただ、ガレス・ゴールズ。経緯は分からぬが、常人を遥かに超える腕力を持ちながら、加奈を――武器も持たぬ少女を殴りつけるような男が、次期魔王になどなれるはずがなかろう。魔王どころか、そなたは男として失格だ」
「黙れぇっ!」
そして、二人の戦いが始まった。私は、邪魔にならないように、倒れたままの広瀬さんを引っ張ってどこかに隠れるべきかと思ったが、それは余計な心配だった。
ルディとガレスの戦いは、スピードが速すぎて何をやっているのかほとんどわからなかったが、激しいのに、整然とした戦いだった。うちの音楽室は通常の教室よりかなり広いせいもあるが、ルディもガレスも、見事なほど何にもぶつからず、破壊することもなく、自分たちの体だけを狙って攻撃と回避を繰り返しているようだった。
さすがは、幼少期より徹底した戦いの英才教育を受けてきたルディとガレスだ。そして、最初は互角だった二人の死闘は、次第にルディの方に勢いが傾いていくのが、素人の私でもなんとなくわかった。だって、ガレスの呼吸がどんどん荒くなり、明らかに疲れているのが見て取れたから。
「はぁっ、はぁっ、く、くそっ、こんなはずでは……!」
「どうした? タフさが自慢のそなたが、こんなに早くスタミナ切れをおこすとはな。長時間飛行で疲れている余でも、まだもう少しは戦えるぞ」
「うるさいっ!」
「……そなた、もしや今日も、昨日のように卑劣な魔法を使って、人の心をもてあそんでいたのではあるまいな。さっきから気にはなっていたが、そこで横になっている広瀬から、若干だが魔法を使われた残り香のようなものを感じるぞ」
「それがどうしたと言うのだ! 貴様も稲葉加奈のように、俺に説教する気か!? 強者である俺には、弱者に魔法を振るう権利が……」
「そんなことを言っているのではない。そなたのスタミナ切れの原因を教えてやろうというのだ。他人の心に干渉する魔法は、恐ろしく魔力を消費する。自分一人で頑張っていればいい飛行魔法と違い、相手があることだからな。重要な秘め事を無理に聞き出そうとすればするほど、魔力消費は倍々に膨らんでいく。今のそなたは……」
「やかましい! 戦闘中にペラペラとっ! すぐ黙らせてやる!」
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~
橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち!
友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。
第2回きずな児童書大賞参加作です。
その付喪神、鑑定します!
陽炎氷柱
児童書・童話
『彼女の”みる目”に間違いはない』
七瀬雪乃は、骨董品が大好きな女の子。でも、生まれたときから”物”に宿る付喪神の存在を見ることができたせいで、小学校ではいじめられていた。付喪神は大好きだけど、普通の友達も欲しい雪乃は遠い私立中学校に入ることに。
今度こそ普通に生活をしようと決めたのに、入学目前でトラブルに巻き込まれて”力”を使ってしまった。しかもよりによって助けた男の子たちが御曹司で学校の有名人!
普通の生活を送りたい雪乃はこれ以上関わりたくなかったのに、彼らに学校で呼び出されてしまう。
「俺たちが信頼できるのは君しかいない」って、私の”力”で大切な物を探すの!?
【完結】知られてはいけない
ひなこ
児童書・童話
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。
他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。
登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。
勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。
一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか?
心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。
<第2回きずな児童書大賞にて奨励賞を受賞しました>
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
霊能者、はじめます!
島崎 紗都子
児童書・童話
小学六年生の神埜菜月(こうのなつき)は、ひょんなことから同じクラスで学校一のイケメン鴻巣翔流(こうのすかける)が、霊が視えて祓えて成仏させることができる霊能者だと知る。
最初は冷たい性格の翔流を嫌う菜月であったが、少しずつ翔流の優しさを知り次第に親しくなっていく。だが、翔流と親しくなった途端、菜月の周りで不可思議なことが起こるように。さらに翔流の能力の影響を受け菜月も視える体質に…!
化け猫ミッケと黒い天使
ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。
そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。
彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。
次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。
そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。
【完結】てのひらは君のため
星名柚花
児童書・童話
あまりの暑さで熱中症になりかけていた深森真白に、美少年が声をかけてきた。
彼は同じ中学に通う一つ年下の男子、成瀬漣里。
無口、無表情、無愛想。
三拍子そろった彼は入学早々、上級生を殴った不良として有名だった。
てっきり怖い人かと思いきや、不良を殴ったのはイジメを止めるためだったらしい。
話してみると、本当の彼は照れ屋で可愛かった。
交流を深めていくうちに、真白はどんどん漣里に惹かれていく。
でも、周囲に不良と誤解されている彼との恋は前途多難な様子で…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる