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第58話
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「ガレス・ゴールズ。けじめをつけてもらうぞ。さあ、構えろ。そなたとて、戦闘態勢も取らずにやられたくはないだろう」
その言葉がプライドを刺激したのか、今の今までルディの迫力に気圧されていたガレスだったが、強い怒りと共に地面を踏みしめ、戦う姿勢を取る。
「舐めるな! 決闘から逃げ、治癒魔法を好むような軟弱者の卑怯者が『やられたくはないだろう』だと? 真正面からやりあって、この俺に勝てるつもりか!? 長時間飛行し、魔力も体力も落ちているくせに!」
「そなたも本調子ではあるまい。両腕を負傷している上に、さっき余が激突した衝撃で、体の芯にダメージが残っているはずだ。余の疲労とそなたの負傷具合は、だいたい同じ。いい勝負になるとは思わんか? 力の落ちている者同士の戦いなら、この部屋を壊してしまうようなこともあるまい」
「……いいだろう。魔界の闘技場でおこなう決闘以外は正式な決闘とは認められないが、この戦いで力の違いを見せつけ、貴様の心を完全に折ってやる。この俺の真の強さに恐怖したお前は、もう二度と戦えなくなるだろう。そんな情けない奴が次期魔王に選ばれるはずがない! 結局、ここでの戦いですべてが決まるのだ!」
次第に闘争心が高まってきたのか、演説するように声を張り上げるガレス。そんなガレスに、ルディは冷ややかな視線と言葉を投げつけた。
「情けないのはそなただ、ガレス・ゴールズ。経緯は分からぬが、常人を遥かに超える腕力を持ちながら、加奈を――武器も持たぬ少女を殴りつけるような男が、次期魔王になどなれるはずがなかろう。魔王どころか、そなたは男として失格だ」
「黙れぇっ!」
そして、二人の戦いが始まった。私は、邪魔にならないように、倒れたままの広瀬さんを引っ張ってどこかに隠れるべきかと思ったが、それは余計な心配だった。
ルディとガレスの戦いは、スピードが速すぎて何をやっているのかほとんどわからなかったが、激しいのに、整然とした戦いだった。うちの音楽室は通常の教室よりかなり広いせいもあるが、ルディもガレスも、見事なほど何にもぶつからず、破壊することもなく、自分たちの体だけを狙って攻撃と回避を繰り返しているようだった。
さすがは、幼少期より徹底した戦いの英才教育を受けてきたルディとガレスだ。そして、最初は互角だった二人の死闘は、次第にルディの方に勢いが傾いていくのが、素人の私でもなんとなくわかった。だって、ガレスの呼吸がどんどん荒くなり、明らかに疲れているのが見て取れたから。
「はぁっ、はぁっ、く、くそっ、こんなはずでは……!」
「どうした? タフさが自慢のそなたが、こんなに早くスタミナ切れをおこすとはな。長時間飛行で疲れている余でも、まだもう少しは戦えるぞ」
「うるさいっ!」
「……そなた、もしや今日も、昨日のように卑劣な魔法を使って、人の心をもてあそんでいたのではあるまいな。さっきから気にはなっていたが、そこで横になっている広瀬から、若干だが魔法を使われた残り香のようなものを感じるぞ」
「それがどうしたと言うのだ! 貴様も稲葉加奈のように、俺に説教する気か!? 強者である俺には、弱者に魔法を振るう権利が……」
「そんなことを言っているのではない。そなたのスタミナ切れの原因を教えてやろうというのだ。他人の心に干渉する魔法は、恐ろしく魔力を消費する。自分一人で頑張っていればいい飛行魔法と違い、相手があることだからな。重要な秘め事を無理に聞き出そうとすればするほど、魔力消費は倍々に膨らんでいく。今のそなたは……」
「やかましい! 戦闘中にペラペラとっ! すぐ黙らせてやる!」
その言葉がプライドを刺激したのか、今の今までルディの迫力に気圧されていたガレスだったが、強い怒りと共に地面を踏みしめ、戦う姿勢を取る。
「舐めるな! 決闘から逃げ、治癒魔法を好むような軟弱者の卑怯者が『やられたくはないだろう』だと? 真正面からやりあって、この俺に勝てるつもりか!? 長時間飛行し、魔力も体力も落ちているくせに!」
「そなたも本調子ではあるまい。両腕を負傷している上に、さっき余が激突した衝撃で、体の芯にダメージが残っているはずだ。余の疲労とそなたの負傷具合は、だいたい同じ。いい勝負になるとは思わんか? 力の落ちている者同士の戦いなら、この部屋を壊してしまうようなこともあるまい」
「……いいだろう。魔界の闘技場でおこなう決闘以外は正式な決闘とは認められないが、この戦いで力の違いを見せつけ、貴様の心を完全に折ってやる。この俺の真の強さに恐怖したお前は、もう二度と戦えなくなるだろう。そんな情けない奴が次期魔王に選ばれるはずがない! 結局、ここでの戦いですべてが決まるのだ!」
次第に闘争心が高まってきたのか、演説するように声を張り上げるガレス。そんなガレスに、ルディは冷ややかな視線と言葉を投げつけた。
「情けないのはそなただ、ガレス・ゴールズ。経緯は分からぬが、常人を遥かに超える腕力を持ちながら、加奈を――武器も持たぬ少女を殴りつけるような男が、次期魔王になどなれるはずがなかろう。魔王どころか、そなたは男として失格だ」
「黙れぇっ!」
そして、二人の戦いが始まった。私は、邪魔にならないように、倒れたままの広瀬さんを引っ張ってどこかに隠れるべきかと思ったが、それは余計な心配だった。
ルディとガレスの戦いは、スピードが速すぎて何をやっているのかほとんどわからなかったが、激しいのに、整然とした戦いだった。うちの音楽室は通常の教室よりかなり広いせいもあるが、ルディもガレスも、見事なほど何にもぶつからず、破壊することもなく、自分たちの体だけを狙って攻撃と回避を繰り返しているようだった。
さすがは、幼少期より徹底した戦いの英才教育を受けてきたルディとガレスだ。そして、最初は互角だった二人の死闘は、次第にルディの方に勢いが傾いていくのが、素人の私でもなんとなくわかった。だって、ガレスの呼吸がどんどん荒くなり、明らかに疲れているのが見て取れたから。
「はぁっ、はぁっ、く、くそっ、こんなはずでは……!」
「どうした? タフさが自慢のそなたが、こんなに早くスタミナ切れをおこすとはな。長時間飛行で疲れている余でも、まだもう少しは戦えるぞ」
「うるさいっ!」
「……そなた、もしや今日も、昨日のように卑劣な魔法を使って、人の心をもてあそんでいたのではあるまいな。さっきから気にはなっていたが、そこで横になっている広瀬から、若干だが魔法を使われた残り香のようなものを感じるぞ」
「それがどうしたと言うのだ! 貴様も稲葉加奈のように、俺に説教する気か!? 強者である俺には、弱者に魔法を振るう権利が……」
「そんなことを言っているのではない。そなたのスタミナ切れの原因を教えてやろうというのだ。他人の心に干渉する魔法は、恐ろしく魔力を消費する。自分一人で頑張っていればいい飛行魔法と違い、相手があることだからな。重要な秘め事を無理に聞き出そうとすればするほど、魔力消費は倍々に膨らんでいく。今のそなたは……」
「やかましい! 戦闘中にペラペラとっ! すぐ黙らせてやる!」
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