上 下
53 / 63

第53話

しおりを挟む
 勝手な理屈を言った後、ガレスは両手を使い、まさに操り人形を操るような動きをした。それに合わせて、虚ろな瞳の広瀬さんが、バンザイしたりお辞儀したり、体を横に倒したり回転したり、時には異様な動きを繰り返している。

 こんなことをされたら、体が痛むんじゃないだろうか?

 私は大声でガレスに食ってかかった。

「やめて! 私を人質にするって言うなら、好きにしたらいい! 広瀬さんは関係ないんだから、これ以上おもちゃみたいに操るのはやめなさい! 無理な動きのせいで、怪我をしたらどうするの!?」

 その言葉で、激しかった動きは若干スローになったものの、相変わらず広瀬さんを操りながら、ガレスはニヤニヤと言う。

「近くで喚くな。俺は自分がうるさくするのは好きだが、他人にうるさくされるのは嫌いだ。……しかし、その必死な様子。こいつはどうやら、昨日の奴とは違い、お前にとっての真の友らしいな」

 ……まったく、こっちの気持ちも知らずに好き勝手言ってくれるんだから。私は小さくため息を漏らし、首を左右に振りながら言う。

「……違う。必死なのは、こんなことで広瀬さんに怪我をしてほしくないから。彼女は『真の友』どころか、まだまともに言葉も交わせてない子だよ。広瀬さんは、私のことなんて大嫌いだし」

 私の言葉に、ガレスは首をかしげる。

「そうでもないぞ。少なくともこいつは、貴様のことを嫌ってはいない」

「えっ?」

「この『操身の術』を使っていると、操作対象の心情がある程度わかる。こいつはどうやら、貴様のことを強く意識しているようだ。よし、少しサービスしてやるか。昨日のように、こいつの心の声を貴様に聞かせてやろう」

 千佳ちゃんにしたようなことを広瀬さんにもする気か。何がサービスだ。こいつは、人の心をあまりにも軽く見ている。爆発的な怒りと共に私は叫んだ。

「駄目! そんなこと許さない! 心の秘密を他人が勝手に話させるなんて、そんなこと、誰にも許されるはずない!」

 だが、その叫びも虚しく、広瀬さんは話し始める。昨日千佳ちゃんがそうだったように、ロボットの朗読を思わせる抑揚のない口調で。

「私……私は……稲葉さんに……」

 私は自分の耳を塞いだ。広瀬さんが、本当は私をどう思っているのか聞くのが怖かったからじゃない。……正直に言えば、他の何よりも興味がある。でも、ガレスの魔法で、無理やり内心を吐露させられている広瀬さんの気持ちを思うと、絶対に聞いてはいけないと思ったからだ。

 だが、これも魔法の効果なのか、どんなに強く耳を塞いでも、自分で大声を出して音が聞こえないようにしても、広瀬さんの心の声は、私の心に直接響いてきた。この様子では、音楽室から逃げても音は消えそうにない。

「私は……稲葉さんに……憧れてる……」

 聞いてはいけない。聞いてはいけない。そう思って抵抗しながらも、考えてもいなかった言葉が広瀬さんから出てきたことに、私は驚きを隠せなかった。

「最初に稲葉さんの演奏を聞いた時は……本当に驚いた……同い年で……私より遥かに上手い子がいるなんて……圧倒的な実力の違いを見せつけられて……ショックだった……」

 聞いてはいけない。聞いてはいけない。私はまだ、抵抗していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

霊能者、はじめます!

島崎 紗都子
児童書・童話
小学六年生の神埜菜月(こうのなつき)は、ひょんなことから同じクラスで学校一のイケメン鴻巣翔流(こうのすかける)が、霊が視えて祓えて成仏させることができる霊能者だと知る。 最初は冷たい性格の翔流を嫌う菜月であったが、少しずつ翔流の優しさを知り次第に親しくなっていく。だが、翔流と親しくなった途端、菜月の周りで不可思議なことが起こるように。さらに翔流の能力の影響を受け菜月も視える体質に…!

平安学園〜春の寮〜 お兄ちゃん奮闘記

葉月百合
児童書・童話
 小学上級、中学から。十二歳まで離れて育った双子の兄妹、光(ひかる)と桃代(ももよ)。  舞台は未来の日本。最先端の科学の中で、科学より自然なくらしが身近だった古い時代たちひとつひとつのよいところを大切にしている平安学園。そんな全寮制の寄宿学校へ入学することになった二人。  兄の光が学校になれたころ、妹の桃代がいじめにあって・・・。  相部屋の先輩に振り回されちゃう妹思いのお兄ちゃんが奮闘する、ハートフル×美味しいものが織りなすグルメファンタジー和風学園寮物語。  小学上級、中学から。

宝石店の魔法使い~吸血鬼と赤い石~

橘花やよい
児童書・童話
宝石店の娘・ルリは、赤い瞳の少年が持っていた赤い宝石を、間違えてお客様に売ってしまった。 しかも、その少年は吸血鬼。石がないと人を襲う「吸血衝動」を抑えられないらしく、「石を返せ」と迫られる。お仕事史上、最大の大ピンチ! だけどレオは、なにかを隠しているようで……? そのうえ、宝石が盗まれたり、襲われたりと、騒動に巻き込まれていく。 魔法ファンタジー×ときめき×お仕事小説! 「第1回きずな児童書大賞」特別賞をいただきました。

GREATEST BOONS+

丹斗大巴
児童書・童話
 幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。  異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)を生みだし、規格外のインベントリ&ものづくりスキルを使いこなす! ユニークスキルのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅する、ほのぼの異世界珍道中。  便利な「しおり」機能、「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です!

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

わたしの師匠になってください! ―お師匠さまは落ちこぼれ魔道士?―

島崎 紗都子
児童書・童話
「師匠になってください!」 落ちこぼれ無能魔道士イェンの元に、突如、ツェツイーリアと名乗る少女が魔術を教えて欲しいと言って現れた。ツェツイーリアの真剣さに負け、しぶしぶ彼女を弟子にするのだが……。次第にイェンに惹かれていくツェツイーリア。彼女の真っ直ぐな思いに戸惑うイェン。何より、二人の間には十二歳という歳の差があった。そして、落ちこぼれと皆から言われてきたイェンには、隠された秘密があって──。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

転校生はおんみょうじ!

咲間 咲良
児童書・童話
森崎花菜(もりさきはな)は、ちょっぴり人見知りで怖がりな小学五年生。 ある日、親友の友美とともに向かった公園で木の根に食べられそうになってしまう。助けてくれたのは見知らぬ少年、黒住アキト。 花菜のクラスの転校生だったアキトは赤茶色の猫・赤ニャンを従える「おんみょうじ」だという。 なりゆきでアキトとともに「鬼退治」をすることになる花菜だったが──。

処理中です...