魔界プリンスとココロのヒミツ【完結】

小平ニコ

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第50話

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 気がつけば、次の日。

 眠りにつくのが遅かったせいか、あんまりスッキリしない目覚めで、自然とあくびが出る。時刻は、朝の6時。私はこんなふうに『遅く寝たのに早く起きてしまう』ということがたまにあって、しかもこういう時は、二度寝しようとしても何故かなかなか寝られないのである。

 眠れもしないのに、だらだらとベッドの上で時間を潰す気にもなれず、起床する。顔を洗い、歯を磨き、制服に着替えると、玄関に行ってお母さんの靴があるかどうか確認した。もしもなかったら、昨日は会社に泊まり込みで、家には戻って来てないことになるので、お母さんの分の朝ご飯を用意する必要がなくなるからだ。

 ……靴はない。昨日、大慌てで呼び出されて、日が昇ってもまだ帰って来られないというのは、どれだけ大変なことなのだろうか。単に忙しいというだけではなく、会社でそれなりの地位についているお母さんには、大きな責任とプレッシャーがあり、心と体にのしかかる疲労は、そうとうなもののはず。

 それなのに、お母さんは私に向かって『疲れた』なんて弱音を一度だって漏らしたことがない。それがどれだけ『強い』ことなのか、まだ子供の私には想像もつかないが、せめて私も、お母さんのように強くありたいと思う。

 お母さんの靴を確認する際、玄関にルディの靴がないことで、もうルディがいないことを思いだして寂しくなるが、私は強くあるために、すぐにその寂しさを振り払った。

 自分一人なので簡単に朝食を済ませ、まだ登校には早いが、それでももう出発することにした。一人で家にいるのはなんとなく嫌だったからだ。

 外はどんよりとした曇り空で、もう二度と会えないかもしれない大切な友達と別れた次の日の朝としては、あまり気持ちの良くない雰囲気である。しかし、天気に文句を言っても仕方ないので、私は歩き方だけでも快活に、小走りで学校に向かった。





 やはりというか、まだ朝早いので、他に登校している生徒はいない。しかし、学校からは色々な音が聞こえてくる。体育館からは、ダンダンダンとボールを床に叩きつける音。これはきっと、バスケットボール部の朝練だろう。グラウンドからは、かけ声を上げてランニングをする野球部員が数名いる。

 知らなかった。うちのバスケットボール部と野球部はかなり強いとは聞いていたが、こんなに朝早くから練習しているなんて。やっぱり強い部には、強いなりの理由があるということか。

 その時、かすかなフルートの音が聞こえてくる。

 同じところを、何度も何度も繰り返し練習する、執念すら感じる演奏。

 誰が吹いてるんだろう?

 ……なんてことは思わなかった。

 誰が吹いているか、すぐにわかったからだ。

 フルートに限らず、楽器の演奏には人それぞれの個性が出る。だから一度聞いて、強く心に残った人の演奏なら、その個性を二度と忘れない。……この演奏は、広瀬さんだ。間違いない。

 そう確信すると、私は熱烈な演奏に引っ張られるように、吹奏楽部の活動場所である音楽室に向かっていた。広瀬さんに会ってどうするべきか? まず何を話すべきなのか? 具体的なことは何も決まらないまま、本当に、惹きつけられるように、足が自然と音楽室を目指していた。
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