魔界プリンスとココロのヒミツ【完結】

小平ニコ

文字の大きさ
上 下
49 / 63

第49話

しおりを挟む
 私は、私を庇ってくれたルディに素直にお礼を言い、話をまとめる。

「擁護してくれてありがとう、ルディ。でもやっぱり、幼稚な承認欲求は私の『弱さ』なんだと思う。『私が一番凄い』『広瀬さんよりも凄い』『だから皆で私を褒めて』っていう感情が、絶対に演奏に混ざったはず。もっと無心で演奏していたなら、広瀬さんも、あれほど私を嫌ったりはしなかったと思うんだ」

「そういうのは、伝わるものか?」

「広瀬さんくらい本気で音楽をやってる人なら、絶対にわかるよ。私は、暴力的な演奏で広瀬さんを殴りつけておきながら、勝手に自己嫌悪に陥って、その後は広瀬さんを避けた。二重に最低だよ。……でも、もう逃げない。これからは、真正面から音楽と広瀬さんに向き合う。部活も、明日から参加しようと思ってる」

「そうか。それがこれからの、そなたの戦いなのだな。その覚悟と意思、確かに見届けたぞ。余も覚悟を決めて、余にとっての戦い――ガレスとの決闘に臨まねばな」

「ガレスなんかに負けないでよね。私、ああいう荒っぽくて雄々しい人って苦手。ルディみたいに、柔和で優しい人の方が好きだよ」

 言ってから、まるで愛の告白をしたみたいで顔が赤くなるが、ルディはどことなく不満げだった。

「その言い方だと、余が雄々しくないと言っているように聞こえるのだが……」

「雄々しくはないでしょ? 顔立ちだって、可愛い系だし」

「えっ」

「前にも言ったじゃない。最初に会ったとき、ルディが男の子か女の子か迷ったって」

「ぐ……。わかった、やっぱりヒゲを生やそう。なるべく猛々しいタイプの……」

「だから、それは駄目だって!」

 ……こうして、ルディと過ごす最後の時間は終わった。私たちは一度家に戻り、それから、ルディだけが再び中庭の扉から出て行った。もう自分以外誰もいない広い家に、一人取り残される私。たまらない孤独感が空っぽな胸に入り込んでくるが、涙は見せない。

 ここで泣かないのは、ただの意地で強がりだが、それは私の中にある確かな『強さ』だ。そう。私の中にあるのは『幼稚な承認欲求』『卑怯さ』『狡猾さ』といった『弱さ』だけじゃない。ただの意地でも、『自分自身の抱える問題と現実に向き合う』と、ルディに宣言したその日に泣かない『強さ』が、間違いなくあるのだ。

 ルディがいたのはたった四日のことだった。だけど私は、私に大きな変化をもたらしてくれたこの四日のことを一生忘れないだろう。

 そこで、ふと気がついた。ルディがあれだけ『魔界人にとって重要な礼儀』と言っていた『別離の挨拶』を、私にだけしていないことに。確か『これができないものは教養のない無礼者として、人々から後ろ指をさされてしまう』とも言ってたっけ。

 私は苦笑して、誰もいないリビングに向かって、ぼそりと言う。

「ルディの無礼者。今度会ったら、後ろ指さしてやるんだから」

 我ながら、無理をしておどけているような声だった。 

 しばらくの間、『別離の挨拶』を忘れていたルディが戻ってこないかと、自分の部屋から夜空を眺めていたが、どんなに夜更かししても、『すまん、そなたにだけ挨拶するのを忘れていた』という懐かしいルディの声が聞こえてくることはなかったので、私はいつの間にか眠りに落ちていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クール天狗の溺愛事情

緋村燐
児童書・童話
サトリの子孫である美紗都は 中学の入学を期にあやかしの里・北妖に戻って来た。 一歳から人間の街で暮らしていたからうまく馴染めるか不安があったけれど……。 でも、素敵な出会いが待っていた。 黒い髪と同じ色の翼をもったカラス天狗。 普段クールだという彼は美紗都だけには甘くて……。 *・゜゚・*:.。..。.:*☆*:.。. .。.:*・゜゚・* 「可愛いな……」 *滝柳 風雅* 守りの力を持つカラス天狗 。.:*☆*:.。 「お前今から俺の第一嫁候補な」 *日宮 煉* 最強の火鬼 。.:*☆*:.。 「風雅の邪魔はしたくないけど、簡単に諦めたくもないなぁ」 *山里 那岐* 神の使いの白狐 \\ドキドキワクワクなあやかし現代ファンタジー!// 野いちご様 ベリーズカフェ様 魔法のiらんど様 エブリスタ様 にも掲載しています。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

1000本の薔薇と闇の薬屋

八木愛里
児童書・童話
アルファポリス第1回きずな児童書大賞奨励賞を受賞しました! イーリスは父親の寿命が約一週間と言われ、運命を変えるべく、ちまたで噂の「なんでも願いをかなえる薬」が置いてある薬屋に行くことを決意する。 その薬屋には、意地悪な店長と優しい少年がいた。 父親の薬をもらおうとしたイーリスだったが、「なんでも願いをかなえる薬」を使うと、使った本人、つまりイーリスが死んでしまうという訳ありな薬だった。 訳ありな薬しか並んでいない薬屋、通称「闇の薬屋」。 薬の瓶を割ってしまったことで、少年スレーの秘密を知り、イーリスは店番を手伝うことになってしまう。 児童文学風ダークファンタジー 5万文字程度の中編 【登場人物の紹介】 ・イーリス……13才。ドジでいつも行動が裏目に出る。可憐に見えるが心は強い。B型。 ・シヴァン……16才。通称「闇の薬屋」の店長。手段を選ばず強引なところがある。A型。 ・スレー……見た目は12才くらい。薬屋のお手伝いの少年。柔らかい雰囲気で、どこか大人びている。O型。 ・ロマニオ……17才。甘いマスクでマダムに人気。AB型。 ・フクロウのクーちゃん……無表情が普通の看板マスコット。

拳法家 ウーミンリン

モモンとパパン
児童書・童話
この作品はフィクションです。 中国の誰も寄りつかない洞窟に、拳法家 ウーミンリンは一人 必殺拳の 習得にはげんでいました。 ミンリンには、絶対に倒さなければならない相手がいました。 その名は、ベイチェンホという男でした。 はたして、ミンリンはチェンホを倒すことができたのでしょうか?

ぼくの親友

辛已奈美(かのうみなみ)
児童書・童話
夕日がおちて、空がくらくなりはじめるころ、1ぴきの小さなねずみが、しずかに目をさました。かれの名前はリュウタ。リュウタは、町のかたすみにある、古びたそうこにすんでいた。そんなリュウタは、町で1けんの、古いパンやを見つけた。そこで・・・ 小学2年生までの漢字で作っています。

ヒョイラレ

如月芳美
児童書・童話
中学に入って関東デビューを果たした俺は、急いで帰宅しようとして階段で足を滑らせる。 階段から落下した俺が目を覚ますと、しましまのモフモフになっている! しかも生きて歩いてる『俺』を目の当たりにすることに。 その『俺』はとんでもなく困り果てていて……。 どうやら転生した奴が俺の体を使ってる!?

見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜

うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】 「……襲われてる! 助けなきゃ!」  錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。  人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。 「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」  少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。 「……この手紙、私宛てなの?」  少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。  ――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。  新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。 「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」  見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。 《この小説の見どころ》 ①可愛いらしい登場人物 見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎ ②ほのぼのほんわか世界観 可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。 ③時々スパイスきいてます! ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。 ④魅力ある錬成アイテム 錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。 ◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。 ◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。 ◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。 ◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。

処理中です...