46 / 63
第46話
しおりを挟む
「行きたくても無理だ。『ひこうき』とやらには一度乗って見たかったのだが、以前『くうこう』に行って受付の人間に聞いたところ、『保護者の同意』がどうとか、『ぱすぽーと』がどうとか、やたらと面倒なことをいくつも確認され、挙句の果てには家出少年と勘違いされ、強引に保護されそうになり逃げた。正直つらい思い出だ」
しっちゃかめっちゃかな空港の状況が簡単に想像でき、思わず笑ってしまう。しかし、飛行機でなければ、どうやって遠く離れたイギリスに行くというのか。普通に考えるなら、残された手段は船しかないが、どんな超高速船を使っても、海路では一日でイギリスに到着することは不可能だろう。
そこに突然、軽快なドラムの音が鳴り響く。これはお母さんのスマホの着信音だ。それまでリラックスしていたお母さんだが、急に凛々しい顔でスマホの向こうにいる人と難しい話をし、3分ほどで通話を終えると、『急ぎの仕事が入った』的なことを言い、改めてルディに別れの言葉を伝えてから、大急ぎで家を飛び出していった。
その風のごとき俊敏さに、ルディは感心した様子で言う。
「なんという素早い判断と行動だ。それにしても、人間界で生きる者は、家でくつろいでいても突然『すまほ』で呼び出されるゆえ、気が休まる時がないな」
「人間界で生きる者っていうか、現代人の宿命だね。それよりも、飛行機がダメならどうやってイギリスまで行くの?」
「どうもこうも、普通に飛んでいくだけだ。こうやってな」
事も無げにそう言うと、ルディは自分自身の足元を指さした。私は「あっ」と小さな驚きの声を漏らす。ルディの足が、床から5cmほど浮いていたからだ。
「ルディって、空が飛べるんだ。まあ、よく考えたら、魔法が使えるんだから、空くらい飛べても別に不思議じゃないか。でも、イギリスまで飛んでいくとなったら、相当な長旅だよね。到着まで何時間くらいかかりそう?」
「休憩なしで飛び続ければ、約8時間というところだな」
「すごっ……飛行機より速いんだ。でも、8時間で到着するなら……いや、ごめん、なんでもない」
「なんだ? 言いかけたことを途中でやめるでない。気になる」
「いや、その……」
私が言いかけて飲み込んだのは『8時間で到着するなら、こんなに早く出ていかなくても、明日の朝に出発すればいいんじゃない?』という未練がましい言葉だ。正直な気持ちを言えば、ギリギリまでルディと一緒にいたいけど、ルディの出発の決意を邪魔することは、やっぱりしたくなかった。
しかし、言いよどむ私の姿から、なんとなく私の言おうとしていたことを悟ったのだろう。ルディは困ったような笑みを浮かべ、優しく私に言い聞かせる。
「すまんな、急な出発で。だが、夜のうちに移動すると、目立たなくていいんだ。明るい時間だと、姿を隠しながら飛ぶことになるゆえ、倍は時間がかかる。朝に言っただろう? 『今から出発しても、今日じゅうにイギリスに到着することは難しい』と。あれはそういうことだ。いやぁ、各国の軍隊等に捕捉されると、色々厄介でな」
「うん……。ごめんね、なんか、旅立ちに水を差すようなことを言いかけて」
ルディは首を左右に振る。
「そなたが余との別れを惜しんでくれることは、素直に嬉しい。余も、そなたと別れるのは寂しいよ。……そうだ。明るい時刻に出発を延ばすことはできぬが、まだ多少は時間に余裕がある。せっかくだ、良いものを見せてやろう」
しっちゃかめっちゃかな空港の状況が簡単に想像でき、思わず笑ってしまう。しかし、飛行機でなければ、どうやって遠く離れたイギリスに行くというのか。普通に考えるなら、残された手段は船しかないが、どんな超高速船を使っても、海路では一日でイギリスに到着することは不可能だろう。
そこに突然、軽快なドラムの音が鳴り響く。これはお母さんのスマホの着信音だ。それまでリラックスしていたお母さんだが、急に凛々しい顔でスマホの向こうにいる人と難しい話をし、3分ほどで通話を終えると、『急ぎの仕事が入った』的なことを言い、改めてルディに別れの言葉を伝えてから、大急ぎで家を飛び出していった。
その風のごとき俊敏さに、ルディは感心した様子で言う。
「なんという素早い判断と行動だ。それにしても、人間界で生きる者は、家でくつろいでいても突然『すまほ』で呼び出されるゆえ、気が休まる時がないな」
「人間界で生きる者っていうか、現代人の宿命だね。それよりも、飛行機がダメならどうやってイギリスまで行くの?」
「どうもこうも、普通に飛んでいくだけだ。こうやってな」
事も無げにそう言うと、ルディは自分自身の足元を指さした。私は「あっ」と小さな驚きの声を漏らす。ルディの足が、床から5cmほど浮いていたからだ。
「ルディって、空が飛べるんだ。まあ、よく考えたら、魔法が使えるんだから、空くらい飛べても別に不思議じゃないか。でも、イギリスまで飛んでいくとなったら、相当な長旅だよね。到着まで何時間くらいかかりそう?」
「休憩なしで飛び続ければ、約8時間というところだな」
「すごっ……飛行機より速いんだ。でも、8時間で到着するなら……いや、ごめん、なんでもない」
「なんだ? 言いかけたことを途中でやめるでない。気になる」
「いや、その……」
私が言いかけて飲み込んだのは『8時間で到着するなら、こんなに早く出ていかなくても、明日の朝に出発すればいいんじゃない?』という未練がましい言葉だ。正直な気持ちを言えば、ギリギリまでルディと一緒にいたいけど、ルディの出発の決意を邪魔することは、やっぱりしたくなかった。
しかし、言いよどむ私の姿から、なんとなく私の言おうとしていたことを悟ったのだろう。ルディは困ったような笑みを浮かべ、優しく私に言い聞かせる。
「すまんな、急な出発で。だが、夜のうちに移動すると、目立たなくていいんだ。明るい時間だと、姿を隠しながら飛ぶことになるゆえ、倍は時間がかかる。朝に言っただろう? 『今から出発しても、今日じゅうにイギリスに到着することは難しい』と。あれはそういうことだ。いやぁ、各国の軍隊等に捕捉されると、色々厄介でな」
「うん……。ごめんね、なんか、旅立ちに水を差すようなことを言いかけて」
ルディは首を左右に振る。
「そなたが余との別れを惜しんでくれることは、素直に嬉しい。余も、そなたと別れるのは寂しいよ。……そうだ。明るい時刻に出発を延ばすことはできぬが、まだ多少は時間に余裕がある。せっかくだ、良いものを見せてやろう」
10
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
クール天狗の溺愛事情
緋村燐
児童書・童話
サトリの子孫である美紗都は
中学の入学を期にあやかしの里・北妖に戻って来た。
一歳から人間の街で暮らしていたからうまく馴染めるか不安があったけれど……。
でも、素敵な出会いが待っていた。
黒い髪と同じ色の翼をもったカラス天狗。
普段クールだという彼は美紗都だけには甘くて……。
*・゜゚・*:.。..。.:*☆*:.。. .。.:*・゜゚・*
「可愛いな……」
*滝柳 風雅*
守りの力を持つカラス天狗
。.:*☆*:.。
「お前今から俺の第一嫁候補な」
*日宮 煉*
最強の火鬼
。.:*☆*:.。
「風雅の邪魔はしたくないけど、簡単に諦めたくもないなぁ」
*山里 那岐*
神の使いの白狐
\\ドキドキワクワクなあやかし現代ファンタジー!//
野いちご様
ベリーズカフェ様
魔法のiらんど様
エブリスタ様
にも掲載しています。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
1000本の薔薇と闇の薬屋
八木愛里
児童書・童話
アルファポリス第1回きずな児童書大賞奨励賞を受賞しました!
イーリスは父親の寿命が約一週間と言われ、運命を変えるべく、ちまたで噂の「なんでも願いをかなえる薬」が置いてある薬屋に行くことを決意する。
その薬屋には、意地悪な店長と優しい少年がいた。
父親の薬をもらおうとしたイーリスだったが、「なんでも願いをかなえる薬」を使うと、使った本人、つまりイーリスが死んでしまうという訳ありな薬だった。
訳ありな薬しか並んでいない薬屋、通称「闇の薬屋」。
薬の瓶を割ってしまったことで、少年スレーの秘密を知り、イーリスは店番を手伝うことになってしまう。
児童文学風ダークファンタジー
5万文字程度の中編
【登場人物の紹介】
・イーリス……13才。ドジでいつも行動が裏目に出る。可憐に見えるが心は強い。B型。
・シヴァン……16才。通称「闇の薬屋」の店長。手段を選ばず強引なところがある。A型。
・スレー……見た目は12才くらい。薬屋のお手伝いの少年。柔らかい雰囲気で、どこか大人びている。O型。
・ロマニオ……17才。甘いマスクでマダムに人気。AB型。
・フクロウのクーちゃん……無表情が普通の看板マスコット。

拳法家 ウーミンリン
モモンとパパン
児童書・童話
この作品はフィクションです。
中国の誰も寄りつかない洞窟に、拳法家 ウーミンリンは一人 必殺拳の
習得にはげんでいました。
ミンリンには、絶対に倒さなければならない相手がいました。
その名は、ベイチェンホという男でした。
はたして、ミンリンはチェンホを倒すことができたのでしょうか?

ぼくの親友
辛已奈美(かのうみなみ)
児童書・童話
夕日がおちて、空がくらくなりはじめるころ、1ぴきの小さなねずみが、しずかに目をさました。かれの名前はリュウタ。リュウタは、町のかたすみにある、古びたそうこにすんでいた。そんなリュウタは、町で1けんの、古いパンやを見つけた。そこで・・・
小学2年生までの漢字で作っています。
ヒョイラレ
如月芳美
児童書・童話
中学に入って関東デビューを果たした俺は、急いで帰宅しようとして階段で足を滑らせる。
階段から落下した俺が目を覚ますと、しましまのモフモフになっている!
しかも生きて歩いてる『俺』を目の当たりにすることに。
その『俺』はとんでもなく困り果てていて……。
どうやら転生した奴が俺の体を使ってる!?
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜
うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】
「……襲われてる! 助けなきゃ!」
錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。
人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。
「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」
少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。
「……この手紙、私宛てなの?」
少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。
――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。
新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。
「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。
《この小説の見どころ》
①可愛いらしい登場人物
見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎
②ほのぼのほんわか世界観
可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。
③時々スパイスきいてます!
ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。
④魅力ある錬成アイテム
錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。
◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。
◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。
◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる