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第43話
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その時、不意に強い視線を感じて、私はその視線に顔を向けた。
千佳ちゃんだ。
いつものような、朗らかな笑顔じゃない。心配そうな、不安そうな、それでいて、暗く沈んだ顔で、目だけが強く私を見つめていた。……それで、直感的に確信した。千佳ちゃんだけは『裏心の術』で私に本心を打ち明けた記憶が消えていないと。
私は慌ててルディに相談し、ルディは少し考えてから答えた。
「……そうか。ガレス・ゴールズはあの娘に対してだけ、何か別の魔法を使っていたな。『心の声を引き出しやすくする』とかなんとか言って。二つの魔法が混ざり合ったせいで、記憶の消去が不完全になった可能性がある」
「そ、そんな……」
そこで、一限目の英語の先生が教室に入って来て、話はいったんストップした。そんな状態では、もちろん授業の内容に集中などできるはずもなく、私は悶々とした気持ちで終了のチャイムの音を待つことになったのだった。
・
・
・
「……加奈ちゃん、ちょっとつきあってくれる?」
一限目終了後の休み時間。そう言う千佳ちゃんに招かれるようにして、私と千佳ちゃんは屋上へ出るための階段の途中にある踊り場に向かった。ルディは教室でお留守番だ。
私は一瞬、ルディの魔法の力で、消しきれなかった千佳ちゃんの記憶を消してあげた方がいいのではないかと思ったが、千佳ちゃんが自分の意思で何かを話そうとしているのに、有無を言わさず記憶を消してしまっては、人の心をもてあそぶガレスと同じになってしまうと考え直し、とりあえずはやめることにした。
踊り場に到着すると、千佳ちゃんはいつも通りの笑みで言う。
「ここ、いいでしょ。私の秘密の場所。ほとんど誰も来ないから、たまにここで時間潰してるんだ。と言っても、たまに先生が屋上の点検に上がってきたりするから、そこまで安心できる場所ってわけでもないけどね」
私もいつも通りに、当たり障りのない返事をする。
「そうなんだ」
千佳ちゃんが『ほとんど誰も来ない』と言う通り、別に広くもない踊り場には、私たち二人だけ。千佳ちゃんがワッと喋り、私が抑揚のない声で相槌を打つ。ほんの少し前までの日常が戻ってきたようで懐かしく、それなのに、どこか寂しかった。
しばらくの沈黙の後、千佳ちゃんが、先程教室で見せたような暗く沈んだ顔でぼそりとつぶやいた。
「私のこと、嫌いになったでしょ?」
その不安げな問いで、千佳ちゃんが『裏心の術』の力によって、私に対する本心をさらけ出してしまったことを覚えているのだと、改めて確信する。
私はすぐに、首を左右に振ったが、千佳ちゃんはうつむきがちで、私の反応が見えているのかいないのか、さらに言葉を紡いでいく。
「最低だよね、私。ずっと友達ヅラして、加奈ちゃんのこと利用……」
その言葉を遮るように、私はもう一度首を左右に振り、大きな声で言った。
「最低なんかじゃないよ。たとえ千佳ちゃんが私を利用してたとしても、クラスで孤立してる私といつも一緒にいてくれたことで、私は救われたから。それに私も、広瀬さんに絡まれた時とかに、すぐかばってくれる千佳ちゃんを頼って、利用してたところもあるし、おあいこだよ」
「…………」
「あと、実を言うとね。私、ちょっと安心してるんだ」
千佳ちゃんだ。
いつものような、朗らかな笑顔じゃない。心配そうな、不安そうな、それでいて、暗く沈んだ顔で、目だけが強く私を見つめていた。……それで、直感的に確信した。千佳ちゃんだけは『裏心の術』で私に本心を打ち明けた記憶が消えていないと。
私は慌ててルディに相談し、ルディは少し考えてから答えた。
「……そうか。ガレス・ゴールズはあの娘に対してだけ、何か別の魔法を使っていたな。『心の声を引き出しやすくする』とかなんとか言って。二つの魔法が混ざり合ったせいで、記憶の消去が不完全になった可能性がある」
「そ、そんな……」
そこで、一限目の英語の先生が教室に入って来て、話はいったんストップした。そんな状態では、もちろん授業の内容に集中などできるはずもなく、私は悶々とした気持ちで終了のチャイムの音を待つことになったのだった。
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「……加奈ちゃん、ちょっとつきあってくれる?」
一限目終了後の休み時間。そう言う千佳ちゃんに招かれるようにして、私と千佳ちゃんは屋上へ出るための階段の途中にある踊り場に向かった。ルディは教室でお留守番だ。
私は一瞬、ルディの魔法の力で、消しきれなかった千佳ちゃんの記憶を消してあげた方がいいのではないかと思ったが、千佳ちゃんが自分の意思で何かを話そうとしているのに、有無を言わさず記憶を消してしまっては、人の心をもてあそぶガレスと同じになってしまうと考え直し、とりあえずはやめることにした。
踊り場に到着すると、千佳ちゃんはいつも通りの笑みで言う。
「ここ、いいでしょ。私の秘密の場所。ほとんど誰も来ないから、たまにここで時間潰してるんだ。と言っても、たまに先生が屋上の点検に上がってきたりするから、そこまで安心できる場所ってわけでもないけどね」
私もいつも通りに、当たり障りのない返事をする。
「そうなんだ」
千佳ちゃんが『ほとんど誰も来ない』と言う通り、別に広くもない踊り場には、私たち二人だけ。千佳ちゃんがワッと喋り、私が抑揚のない声で相槌を打つ。ほんの少し前までの日常が戻ってきたようで懐かしく、それなのに、どこか寂しかった。
しばらくの沈黙の後、千佳ちゃんが、先程教室で見せたような暗く沈んだ顔でぼそりとつぶやいた。
「私のこと、嫌いになったでしょ?」
その不安げな問いで、千佳ちゃんが『裏心の術』の力によって、私に対する本心をさらけ出してしまったことを覚えているのだと、改めて確信する。
私はすぐに、首を左右に振ったが、千佳ちゃんはうつむきがちで、私の反応が見えているのかいないのか、さらに言葉を紡いでいく。
「最低だよね、私。ずっと友達ヅラして、加奈ちゃんのこと利用……」
その言葉を遮るように、私はもう一度首を左右に振り、大きな声で言った。
「最低なんかじゃないよ。たとえ千佳ちゃんが私を利用してたとしても、クラスで孤立してる私といつも一緒にいてくれたことで、私は救われたから。それに私も、広瀬さんに絡まれた時とかに、すぐかばってくれる千佳ちゃんを頼って、利用してたところもあるし、おあいこだよ」
「…………」
「あと、実を言うとね。私、ちょっと安心してるんだ」
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