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第41話
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次の瞬間、ガレスは言葉の応酬をやめ、問答無用で私に殴りかかってきた。たぶん……というか、間違いなく、ガレスが一番言われたくないであろうことを私が言ってしまったからだろう。
やたらと自分の力を誇示したり、格付けにこだわるガレスにとって、『器が小さい』と言われることは、どんな悪口よりも許しがたい暴言に違いない。冷静さを失ったガレスのパンチが顔に当たれば、大怪我は確実。それどころか、命すら危ない。なのに私は、不思議と安心していた。だって……
「うっ、ぐっ、くそっ、はなせっ!」
明らかな苦痛の呻きを上げ、悲鳴にも似た声で命令するガレス。私の顔面まであと少しというところまで迫った彼の左腕が、ルディによってガッシリと掴まれていたからだ。ルディの細い指がペンチか何かのように深々とガレスの腕に食い込み、見ているだけで痛そうだった。
ルディの顔には、昨日とは違って怯えの色はなく、かといって威圧するでもなく、淡々と、諭すように言葉を紡いでいく。
「ガレス・ゴールズよ。現魔王の定めた『他種族への無意味な暴力を禁ずる』という法に、最大限の敬意と理解を持っているのではなかったのか?」
「やかましいっ! その女は次期魔王のこの俺を侮辱した! 無礼者を罰するのは無意味な暴力ではない! ぐぅっ、そ、それよりもルディ・クーランドっ! この力……昨日よりもさらに強い……! 貴様の細腕の、どこにこんな力が……っ! だいたい貴様は、争いが苦手な腰抜けのはず……っ!」
「余も驚いているよ。そなたが加奈に殴りかかる寸前までは、まだそなたのことが恐ろしかったのだがな。今はそれほどでもない。どういうわけか、加奈を守ろうとするとき、自分でも信じられぬほどの力と勇気が出る。何故だろうな? おっと、そんなことより加奈よ、怪我はないか? 怖くはなかったか?」
ルディに問われ、私は小さく笑った。
「全然。だって、ルディが助けてくれるってわかってたから」
「まったく、無茶をする。ガレス・ゴールズの剛腕で殴られたら、ただでは済まなかったぞ。想像するだけでゾッとする。……ん? ああ、なるほど。そういうことか。そなたを守ろうとするときに力と勇気が出る理由がやっとわかった。余は自分が傷つくより、そなたが傷つくことの方が恐ろしいのだ。だから……」
まだ話の途中だが、ガレスが何かの魔法を使ってルディの腕を振りほどく。
「人の腕を握りつぶしながら、いつまで喋っている! く、くそっ、今度は左腕か……! 昨日の右腕の負傷も、完全には癒えていないというのに……! これではさすがの俺でも、ルディ・クーランドを無理に魔界へ引っ張っていくことができぬではないか……! 俺の方が格上なのに、油断してこのザマとは……不覚……!」
どこまでも自信家というべきか、プライドの塊というべきか、ルディの凄まじい力を見せつけられても、あくまで自分が格上であることにこだわるガレス。
そんなガレスを、ルディは静かに諭す。
「ガレス・ゴールズ。心配しなくても、無理やり引っ張っていく必要などない。さっきも少し話題に出たが、余は明日には自分で魔界に戻る。必ずだ。約束する。ただその前に、人間界で世話になった者に別れを告げる時間をくれ。我々魔界人にとって『別離の挨拶』が重要であることはそなたも知っているだろう」
やたらと自分の力を誇示したり、格付けにこだわるガレスにとって、『器が小さい』と言われることは、どんな悪口よりも許しがたい暴言に違いない。冷静さを失ったガレスのパンチが顔に当たれば、大怪我は確実。それどころか、命すら危ない。なのに私は、不思議と安心していた。だって……
「うっ、ぐっ、くそっ、はなせっ!」
明らかな苦痛の呻きを上げ、悲鳴にも似た声で命令するガレス。私の顔面まであと少しというところまで迫った彼の左腕が、ルディによってガッシリと掴まれていたからだ。ルディの細い指がペンチか何かのように深々とガレスの腕に食い込み、見ているだけで痛そうだった。
ルディの顔には、昨日とは違って怯えの色はなく、かといって威圧するでもなく、淡々と、諭すように言葉を紡いでいく。
「ガレス・ゴールズよ。現魔王の定めた『他種族への無意味な暴力を禁ずる』という法に、最大限の敬意と理解を持っているのではなかったのか?」
「やかましいっ! その女は次期魔王のこの俺を侮辱した! 無礼者を罰するのは無意味な暴力ではない! ぐぅっ、そ、それよりもルディ・クーランドっ! この力……昨日よりもさらに強い……! 貴様の細腕の、どこにこんな力が……っ! だいたい貴様は、争いが苦手な腰抜けのはず……っ!」
「余も驚いているよ。そなたが加奈に殴りかかる寸前までは、まだそなたのことが恐ろしかったのだがな。今はそれほどでもない。どういうわけか、加奈を守ろうとするとき、自分でも信じられぬほどの力と勇気が出る。何故だろうな? おっと、そんなことより加奈よ、怪我はないか? 怖くはなかったか?」
ルディに問われ、私は小さく笑った。
「全然。だって、ルディが助けてくれるってわかってたから」
「まったく、無茶をする。ガレス・ゴールズの剛腕で殴られたら、ただでは済まなかったぞ。想像するだけでゾッとする。……ん? ああ、なるほど。そういうことか。そなたを守ろうとするときに力と勇気が出る理由がやっとわかった。余は自分が傷つくより、そなたが傷つくことの方が恐ろしいのだ。だから……」
まだ話の途中だが、ガレスが何かの魔法を使ってルディの腕を振りほどく。
「人の腕を握りつぶしながら、いつまで喋っている! く、くそっ、今度は左腕か……! 昨日の右腕の負傷も、完全には癒えていないというのに……! これではさすがの俺でも、ルディ・クーランドを無理に魔界へ引っ張っていくことができぬではないか……! 俺の方が格上なのに、油断してこのザマとは……不覚……!」
どこまでも自信家というべきか、プライドの塊というべきか、ルディの凄まじい力を見せつけられても、あくまで自分が格上であることにこだわるガレス。
そんなガレスを、ルディは静かに諭す。
「ガレス・ゴールズ。心配しなくても、無理やり引っ張っていく必要などない。さっきも少し話題に出たが、余は明日には自分で魔界に戻る。必ずだ。約束する。ただその前に、人間界で世話になった者に別れを告げる時間をくれ。我々魔界人にとって『別離の挨拶』が重要であることはそなたも知っているだろう」
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