魔界プリンスとココロのヒミツ【完結】

第３９話

　先程ガレスが発した光線の影響か、千佳ちゃんはどんな質問にも素直に答えるようになっているらしく、誰にも視線を合わせずに、まるでロボットの朗読を思わせるような無感情な口調で話し続けた。

「だって……こっちから積極的にコミュニケーションをとってかないと……ハブられるし……最悪の場合はいじめられる……私……チビで無口だったから……小学校の時……あと少しでいじめのターゲットになるとこだった……あんな怖い思い……もう嫌……だから……中学生になったのをきっかけに……自分を変えたの……でも……」

　千佳ちゃんの言葉は、相変わらず無感情だ。でも、その感情のない言葉の中に、隠し切れない悲しみがあるような気がして、私の目尻には涙が浮かんでいた。

「こんな……無理して明るく振る舞ってるのは……本当の私じゃない……疲れる……疲れる……誰と話すのも……本当に疲れる……でも……加奈ちゃんと話すのは楽……別に面白くはないけど……何を話しても『うん』『そうだね』って言ってくるだけだし……楽……だから私……学校での休憩所として……加奈ちゃんを利用してる……」

　小さな含み笑いが聞こえる。これはガレスのものだ。

「ぷっ、くっ、くふふっ！　休憩所か、それはいい！　くくくくっ！」

「なのに……クーランドくんと一緒にいるようになって、話しにくくなっちゃった……それに……美虎ちゃんや桂ちゃんと付き合いだして……困るよ……あの二人は……私と違って……根っからの陽キャだもん……疲れる……疲れる……加奈ちゃん……また一人に戻ってよ……私を休ませてよ……私の休憩所になってよ……つらいよ……」

「千佳ちゃん……」

「こんなこと……誰にも話せない……話したくない……ちっぽけで身勝手な自分が本当に嫌になる……私は皆が嫌い……でも……自分のことは……もっと嫌い……」

　私はガレスの方を向いて、これまでの人生で一度も発したことのないような怒声を張り上げた。

「もうやめて！　千佳ちゃんに、これ以上こんなことを話させないで！」

　ガレスは私の怒声に驚くこともひるむこともなく、駄々っ子を諫めるような笑みを浮かべる。その薄ら笑いの奥から、私に対するかすかな憐れみと嘲りを感じた。

「わかったわかった。そう怒鳴るな。くくく、貴様も『休憩所』とまで言われては、たまらぬよな。いやいや、恥をかかせてすまなかった。この馬鹿女は、すぐに黙らせてやる」

　千佳ちゃんを馬鹿よばわりされて、私の怒りはますます過熱する。誰かに対し、こんなに怒ったのは生まれて初めてだった。今の私はたぶん、吠えたてる犬のような顔をしていると思う。

「私のことなんてどうでもいい！　千佳ちゃんがずっと隠してた心の弱い部分を、こんなふうに聞き出して、ヘラヘラ笑って、私、あなたが許せない！」

　ガレスは心の底から不可解と言わんばかりに、二度も首をかしげた。

「わからんな。そんな奴のために、なぜ怒る？　そいつは、お前のことを便利な休憩所としか思ってなかったような奴だぞ。その意味が分かるか？　こいつにとって、お前は人間じゃない。鳥が羽を休めるために降り立つ木の枝のようなものだ。くくく、人間が木の枝扱いされる、これほどの侮辱があるか。俺なら耐えられぬな」