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第37話
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「ルディ、『裏心の術』って?」
「人の心の裏にある。他者に対する気持ちを吐き出させる術だ。ガレス・ゴールズは、それに加えて、攻撃的かつ暴力的になるような効果を付加させているようだな。なんとも下品で悪趣味なことだ」
ルディに『下品で悪趣味』だと責められても、ガレスは少しも気にしてない様子で、むしろ誇らしげに言う。
「だが、こいつらが口にしたことは皆、心の奥でくすぶっている本心だ。ひとつとして嘘はない。くくくっ、笑えるだろう? 表面上は仲の良い友人同士を演じているが、誰も彼も、一皮むけばこんなものだ。これで、こいつらの人間関係は無茶苦茶になる。かわいそうにな。くくくくっ」
あまりにも陰湿な仕打ちに、私は叫んでいた。
「やめて! こんなことしなくても、ルディはあなたとの決闘に応じるため、明日にでも魔界に戻るつもりだったんだよ!?」
「なに? そうなのか?」
目を丸くしたガレスにそう問われ、ルディは頷く。
「その通りだ。だから、すぐに『裏心の術』を解除せよ。その後は、余と協力して、今起こったことの記憶を、皆から消し去るのだ。頼む。ここにいる皆は、そなたにとって何のかかわりもない者たちだ。いたずらに傷つけ、苦しめることに何の意味がある? 自分を次期魔王と言うなら、魔王らしい器の大きさを示してくれ」
「ふむ……」
恐らく『魔王らしい器の大きさを示してくれ』という言葉が心に響いたのか、しばらく考えた末に、ガレスは先程の二つに比べてずっと優しい光を体から発し、『裏心の術』を解除したようだった。そして、恩着せがましい様子で言う。
「よかろう。『次期魔王』として、寛大なところを見せてやる。それに、ルディ・クーランドの力など借りるまでもなく、こいつらの記憶から、今のことは消し去ってやる。俺の絶大な魔力をもってすれば、造作もないことだ」
その言葉に、ルディはホッとした様子で頭を下げる。
「そうか、感謝する。しかし、これはどういうことだ? 取っ組み合いや罵り合いは収まったが、皆、どこかぼぉっとして、ふらふらと周囲を歩き回っているが……」
「『裏心の術』を急に解除するとこうなる。攻撃性が無くなり、ただ本心を吐き出し続けるだけの、ゾンビのような状態になるのだ。心配しなくても、十分程度で元に戻る。……ん? そこの男、お前に何か言いたいようだぞ?」
ガレスの言う『そこの男』とは、サッカー部の勝木くんだった。勝木くんは、ふらふらとルディに近寄り、虚ろな瞳で、ボソボソと言葉を発していく。
「クーランド……お前がいなくなってくれて……本当に嬉しいよ……お前みたいなのがいたら……サッカー部の俺のメンツは丸つぶれだからな……あぁ良かった……これで明日から元通りだ……本当に……なんでこのクラスに来たんだよ……まったく……とんだ疫病神だよ……お前はさ……」
静かで。
落ち着いてて。
だからこそ、痛い言葉だった。
ルディは微動だにせず、勝木くんの『本心の言葉』を聞いていた。
ガレスが、面白くて仕方ないと言うように笑う。
「ふ、く、く、ふははははははっ! 聞いたか、今の言葉? この者は先程、貴様ともっとサッカーしたかったと言っていたのだぞ! その本心がこれか! まったく、この世界の人間はなんと矮小なのだ! 笑わせてくれる! ふはははははははははっ!」
勝木くんがさっき、『あいつともっとサッカーしたかったのにな』と言ったときには、まだガレスはいなかった。いったいいつから、このクラスでの会話を聞いていたんだろう。どうやらガレスは、姿を現すずっと前から、私たちの様子を伺っていたらしい。
「人の心の裏にある。他者に対する気持ちを吐き出させる術だ。ガレス・ゴールズは、それに加えて、攻撃的かつ暴力的になるような効果を付加させているようだな。なんとも下品で悪趣味なことだ」
ルディに『下品で悪趣味』だと責められても、ガレスは少しも気にしてない様子で、むしろ誇らしげに言う。
「だが、こいつらが口にしたことは皆、心の奥でくすぶっている本心だ。ひとつとして嘘はない。くくくっ、笑えるだろう? 表面上は仲の良い友人同士を演じているが、誰も彼も、一皮むけばこんなものだ。これで、こいつらの人間関係は無茶苦茶になる。かわいそうにな。くくくくっ」
あまりにも陰湿な仕打ちに、私は叫んでいた。
「やめて! こんなことしなくても、ルディはあなたとの決闘に応じるため、明日にでも魔界に戻るつもりだったんだよ!?」
「なに? そうなのか?」
目を丸くしたガレスにそう問われ、ルディは頷く。
「その通りだ。だから、すぐに『裏心の術』を解除せよ。その後は、余と協力して、今起こったことの記憶を、皆から消し去るのだ。頼む。ここにいる皆は、そなたにとって何のかかわりもない者たちだ。いたずらに傷つけ、苦しめることに何の意味がある? 自分を次期魔王と言うなら、魔王らしい器の大きさを示してくれ」
「ふむ……」
恐らく『魔王らしい器の大きさを示してくれ』という言葉が心に響いたのか、しばらく考えた末に、ガレスは先程の二つに比べてずっと優しい光を体から発し、『裏心の術』を解除したようだった。そして、恩着せがましい様子で言う。
「よかろう。『次期魔王』として、寛大なところを見せてやる。それに、ルディ・クーランドの力など借りるまでもなく、こいつらの記憶から、今のことは消し去ってやる。俺の絶大な魔力をもってすれば、造作もないことだ」
その言葉に、ルディはホッとした様子で頭を下げる。
「そうか、感謝する。しかし、これはどういうことだ? 取っ組み合いや罵り合いは収まったが、皆、どこかぼぉっとして、ふらふらと周囲を歩き回っているが……」
「『裏心の術』を急に解除するとこうなる。攻撃性が無くなり、ただ本心を吐き出し続けるだけの、ゾンビのような状態になるのだ。心配しなくても、十分程度で元に戻る。……ん? そこの男、お前に何か言いたいようだぞ?」
ガレスの言う『そこの男』とは、サッカー部の勝木くんだった。勝木くんは、ふらふらとルディに近寄り、虚ろな瞳で、ボソボソと言葉を発していく。
「クーランド……お前がいなくなってくれて……本当に嬉しいよ……お前みたいなのがいたら……サッカー部の俺のメンツは丸つぶれだからな……あぁ良かった……これで明日から元通りだ……本当に……なんでこのクラスに来たんだよ……まったく……とんだ疫病神だよ……お前はさ……」
静かで。
落ち着いてて。
だからこそ、痛い言葉だった。
ルディは微動だにせず、勝木くんの『本心の言葉』を聞いていた。
ガレスが、面白くて仕方ないと言うように笑う。
「ふ、く、く、ふははははははっ! 聞いたか、今の言葉? この者は先程、貴様ともっとサッカーしたかったと言っていたのだぞ! その本心がこれか! まったく、この世界の人間はなんと矮小なのだ! 笑わせてくれる! ふはははははははははっ!」
勝木くんがさっき、『あいつともっとサッカーしたかったのにな』と言ったときには、まだガレスはいなかった。いったいいつから、このクラスでの会話を聞いていたんだろう。どうやらガレスは、姿を現すずっと前から、私たちの様子を伺っていたらしい。
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