魔界プリンスとココロのヒミツ【完結】

小平ニコ

文字の大きさ
上 下
33 / 63

第33話

しおりを挟む
「いいの? 決闘が怖くないの?」

「怖いさ。でも、そなたが『別の生き方だってある』と言ってくれたおかげで、少し気が楽になった。負けても命まで取られることはないし、大怪我してもいずれ傷は癒える。そして、その後も人生は続くのだ。ならば、今回のことも人生においてのひとつの試練と受け止め、やれるだけやってみるよ」

 私はもう、何も言えなかった。いや、何も言う必要がなかった。ルディが自分で考えて、覚悟し、決断したのだ。これ以上、私が口を挟むことはない。あとはただ、その決意を応援するだけだ。それにしても、ちょっと前まであれほどガレスに怯えていたのに、驚くべき切り替えの早さである。

 そんなふうに思った私の気持ちが表情から伝わったのか、ルディは微笑して言う。

「少し前と言うことが180度変わって、驚いたか? 正直言って、余自身も驚いている。そなたに不安や恐怖を打ち明けているうちに、気持ちの整理がついたせいかな。……いや、それだけじゃないな。余は、勝てるはずなどないと弱気になっていたガレス・ゴールズとの決闘に、多少は勝算があると思い始めているのだ」

「勝算?」

「ああ。先ほど、ガレス・ゴールズの手からそなたを守ろうとしたとき、自分でも信じられぬほどの力が出た。あれで思ったのだ。惰弱な余の中にも、あるいはかすかな『強さ』が秘められているのかもしれないと。その『強さ』を十二分に発揮すれば、案外良い勝負になるのではないかと……まあ、都合よくもそう思っているのだ」

「それ、都合のいい思い込みなんかじゃないと思うよ。言いたい放題でやりたい放題だったガレスが逃げてったのがその証拠だよ。ルディが本気になれば、あんなの一発だよ。一発」

「そ、そこまでうまくはいかぬと思うが、頼もしい言葉だ。ありがたく受け取っておく。……それにしても、悩みを語り、励ましてもらえる同年代の友がいるというのは、良いものだな。そなたの父である史郎も良き友だが、年代が違うゆえ、やはり、そなたと話すのとは少し感覚が違う。単純な年齢は余の方が上なのだがな」

「魔界では、友達はいなかったの?」

「いるはずがない。余は魔王の子だぞ。同年代で対等な口がきける者などおらんよ。あのガレス・ゴールズですら、余が魔界から逃げ出すまでは、敬語で接してきたのだからな。今ではすっかり見下されて、ある意味では、奴ともこれで対等な関係になれたのかもしれん」

「そっか……。決闘を通して、ガレスとも仲良くなれたらいいのにね。こっちの世界の漫画とかだと、戦いの後に友情が芽生えたりするから」

「実際の戦いの後は、より遺恨が深まるものだがな」

「うーん、やっぱり、現実は甘くないかぁ」

 そして私たちは、うちに帰った。ルディが『数日のうちに魔界に戻る』と言ったので、残った時間を大切にするように、私たちは語らい、遊び、互いの絆をより深めたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クール天狗の溺愛事情

緋村燐
児童書・童話
サトリの子孫である美紗都は 中学の入学を期にあやかしの里・北妖に戻って来た。 一歳から人間の街で暮らしていたからうまく馴染めるか不安があったけれど……。 でも、素敵な出会いが待っていた。 黒い髪と同じ色の翼をもったカラス天狗。 普段クールだという彼は美紗都だけには甘くて……。 *・゜゚・*:.。..。.:*☆*:.。. .。.:*・゜゚・* 「可愛いな……」 *滝柳 風雅* 守りの力を持つカラス天狗 。.:*☆*:.。 「お前今から俺の第一嫁候補な」 *日宮 煉* 最強の火鬼 。.:*☆*:.。 「風雅の邪魔はしたくないけど、簡単に諦めたくもないなぁ」 *山里 那岐* 神の使いの白狐 \\ドキドキワクワクなあやかし現代ファンタジー!// 野いちご様 ベリーズカフェ様 魔法のiらんど様 エブリスタ様 にも掲載しています。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

1000本の薔薇と闇の薬屋

八木愛里
児童書・童話
アルファポリス第1回きずな児童書大賞奨励賞を受賞しました! イーリスは父親の寿命が約一週間と言われ、運命を変えるべく、ちまたで噂の「なんでも願いをかなえる薬」が置いてある薬屋に行くことを決意する。 その薬屋には、意地悪な店長と優しい少年がいた。 父親の薬をもらおうとしたイーリスだったが、「なんでも願いをかなえる薬」を使うと、使った本人、つまりイーリスが死んでしまうという訳ありな薬だった。 訳ありな薬しか並んでいない薬屋、通称「闇の薬屋」。 薬の瓶を割ってしまったことで、少年スレーの秘密を知り、イーリスは店番を手伝うことになってしまう。 児童文学風ダークファンタジー 5万文字程度の中編 【登場人物の紹介】 ・イーリス……13才。ドジでいつも行動が裏目に出る。可憐に見えるが心は強い。B型。 ・シヴァン……16才。通称「闇の薬屋」の店長。手段を選ばず強引なところがある。A型。 ・スレー……見た目は12才くらい。薬屋のお手伝いの少年。柔らかい雰囲気で、どこか大人びている。O型。 ・ロマニオ……17才。甘いマスクでマダムに人気。AB型。 ・フクロウのクーちゃん……無表情が普通の看板マスコット。

拳法家 ウーミンリン

モモンとパパン
児童書・童話
この作品はフィクションです。 中国の誰も寄りつかない洞窟に、拳法家 ウーミンリンは一人 必殺拳の 習得にはげんでいました。 ミンリンには、絶対に倒さなければならない相手がいました。 その名は、ベイチェンホという男でした。 はたして、ミンリンはチェンホを倒すことができたのでしょうか?

ぼくの親友

辛已奈美(かのうみなみ)
児童書・童話
夕日がおちて、空がくらくなりはじめるころ、1ぴきの小さなねずみが、しずかに目をさました。かれの名前はリュウタ。リュウタは、町のかたすみにある、古びたそうこにすんでいた。そんなリュウタは、町で1けんの、古いパンやを見つけた。そこで・・・ 小学2年生までの漢字で作っています。

ヒョイラレ

如月芳美
児童書・童話
中学に入って関東デビューを果たした俺は、急いで帰宅しようとして階段で足を滑らせる。 階段から落下した俺が目を覚ますと、しましまのモフモフになっている! しかも生きて歩いてる『俺』を目の当たりにすることに。 その『俺』はとんでもなく困り果てていて……。 どうやら転生した奴が俺の体を使ってる!?

処理中です...