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第33話

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「いいの? 決闘が怖くないの?」

「怖いさ。でも、そなたが『別の生き方だってある』と言ってくれたおかげで、少し気が楽になった。負けても命まで取られることはないし、大怪我してもいずれ傷は癒える。そして、その後も人生は続くのだ。ならば、今回のことも人生においてのひとつの試練と受け止め、やれるだけやってみるよ」

 私はもう、何も言えなかった。いや、何も言う必要がなかった。ルディが自分で考えて、覚悟し、決断したのだ。これ以上、私が口を挟むことはない。あとはただ、その決意を応援するだけだ。それにしても、ちょっと前まであれほどガレスに怯えていたのに、驚くべき切り替えの早さである。

 そんなふうに思った私の気持ちが表情から伝わったのか、ルディは微笑して言う。

「少し前と言うことが180度変わって、驚いたか? 正直言って、余自身も驚いている。そなたに不安や恐怖を打ち明けているうちに、気持ちの整理がついたせいかな。……いや、それだけじゃないな。余は、勝てるはずなどないと弱気になっていたガレス・ゴールズとの決闘に、多少は勝算があると思い始めているのだ」

「勝算?」

「ああ。先ほど、ガレス・ゴールズの手からそなたを守ろうとしたとき、自分でも信じられぬほどの力が出た。あれで思ったのだ。惰弱な余の中にも、あるいはかすかな『強さ』が秘められているのかもしれないと。その『強さ』を十二分に発揮すれば、案外良い勝負になるのではないかと……まあ、都合よくもそう思っているのだ」

「それ、都合のいい思い込みなんかじゃないと思うよ。言いたい放題でやりたい放題だったガレスが逃げてったのがその証拠だよ。ルディが本気になれば、あんなの一発だよ。一発」

「そ、そこまでうまくはいかぬと思うが、頼もしい言葉だ。ありがたく受け取っておく。……それにしても、悩みを語り、励ましてもらえる同年代の友がいるというのは、良いものだな。そなたの父である史郎も良き友だが、年代が違うゆえ、やはり、そなたと話すのとは少し感覚が違う。単純な年齢は余の方が上なのだがな」

「魔界では、友達はいなかったの?」

「いるはずがない。余は魔王の子だぞ。同年代で対等な口がきける者などおらんよ。あのガレス・ゴールズですら、余が魔界から逃げ出すまでは、敬語で接してきたのだからな。今ではすっかり見下されて、ある意味では、奴ともこれで対等な関係になれたのかもしれん」

「そっか……。決闘を通して、ガレスとも仲良くなれたらいいのにね。こっちの世界の漫画とかだと、戦いの後に友情が芽生えたりするから」

「実際の戦いの後は、より遺恨が深まるものだがな」

「うーん、やっぱり、現実は甘くないかぁ」

 そして私たちは、うちに帰った。ルディが『数日のうちに魔界に戻る』と言ったので、残った時間を大切にするように、私たちは語らい、遊び、互いの絆をより深めたのだった。
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