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第31話
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その後なんとなく、すぐ帰宅する気にならず、私たちは近所の公園に行き、ベンチに並んで腰を下ろしている。まだまだ日は高いので、砂場の辺りで、小学校低学年と思しき子供たちが、大声ではしゃぎながら遊んでいた。
耳に突き刺さるような小さな子供の声を煩わしく感じる人もいると思うけど、さっきまで強烈な緊張状態にいた私にとっては、子供の声は平和な日常の象徴のような気がして、なんだかとても心が安らいだ。言葉には出さないけど、ルディも優しい目で子供たちを見つめているので、きっと私と同じ考えなのだと思う。
しばらくそのまま、何を見るでもなく、何を聞くでもなく、ただ穏やかに座ったままでいると、ルディがまるで、小石を落とすようにぽつりとつぶやいた。
「……そなたに怪我がなくてよかった」
私は、ゆっくりとルディの方を向く。
続けて、『ルディ、さっきは守ってくれてありがとう』と言おうとしたのだが、それより先にルディが言葉を続けようとしていたので、行き場を失った感謝の言葉を、ひとまず私は飲み込んだ。
「先程、ガレス・ゴールズが言ったことはすべて真実だ。奴が来る直前に、自分で話そうとしていたのだがな。なんとも間の悪いことだ」
「間の悪いことって、あるよね。大事な用事ほど、変な邪魔が入ったりするし」
「ふふっ、そうだな」
そこで一度会話が切れ、私とルディの耳に聞こえるのは、遠くの子供たちの声だけになる。十秒ほどして、再びルディが口を開いた。
「いずれ、ガレス・ゴールズと向き合わねばならないとは思っていた。しかし今日、実際に奴と対峙すると、それだけで身がすくんでしまった。そなたにあれだけ偉そうなことをほざいていたくせに、我ながら何というザマだと思うよ。……加奈よ。余が惰弱な臆病者だと知って、幻滅したか?」
私は首を左右に振り、言う。
「むしろ、嬉しかった……かな」
「嬉しい? 何故?」
「私、ルディがあのガレスみたいに、大声で人を脅して、カッとなって暴力を振るうような粗暴な人じゃなかったことが嬉しいの。ルディがおおらかで、戦いを好まない人なのが嬉しいの。だって、ルディがガレスの決闘を真正面から受けるような好戦的な性格だったら、きっと私、ルディと仲良くなれなかったと思うから……」
「加奈……」
「それに、ルディは臆病者なんかじゃないよ。私を助けるために、勇気を振り絞って立ち向かってくれたじゃない。ガレスのことが、怖くてたまらないのに。それって心の『強さ』の証明だよ」
そこで私は、ついさっき飲み込んだ感謝の言葉を、はっきり口にした。
「ルディ、さっきは守ってくれてありがとう」
まっすぐな感謝の言葉を受けて、ルディは照れて俯いてしまった。その反応で、なんだか私も急に恥ずかしくなり、照れくささをごまかすように、さっきルディが発した"聞きなれない言葉"の意味を尋ねる。
「と、ところで、さっきルディが言った『惰弱』ってどういう意味?」
「あ、ああ。『いくじがない』『弱々しい』といった意味だ」
「弱々しい、か……。うーん……」
「どうした?」
「あのさ。ルディって、本当にガレスより弱いの? さっき、腕を掴まれた時のガレスの反応は、むしろルディのことを怖がってるみたいに見えたんだけど」
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その後なんとなく、すぐ帰宅する気にならず、私たちは近所の公園に行き、ベンチに並んで腰を下ろしている。まだまだ日は高いので、砂場の辺りで、小学校低学年と思しき子供たちが、大声ではしゃぎながら遊んでいた。
耳に突き刺さるような小さな子供の声を煩わしく感じる人もいると思うけど、さっきまで強烈な緊張状態にいた私にとっては、子供の声は平和な日常の象徴のような気がして、なんだかとても心が安らいだ。言葉には出さないけど、ルディも優しい目で子供たちを見つめているので、きっと私と同じ考えなのだと思う。
しばらくそのまま、何を見るでもなく、何を聞くでもなく、ただ穏やかに座ったままでいると、ルディがまるで、小石を落とすようにぽつりとつぶやいた。
「……そなたに怪我がなくてよかった」
私は、ゆっくりとルディの方を向く。
続けて、『ルディ、さっきは守ってくれてありがとう』と言おうとしたのだが、それより先にルディが言葉を続けようとしていたので、行き場を失った感謝の言葉を、ひとまず私は飲み込んだ。
「先程、ガレス・ゴールズが言ったことはすべて真実だ。奴が来る直前に、自分で話そうとしていたのだがな。なんとも間の悪いことだ」
「間の悪いことって、あるよね。大事な用事ほど、変な邪魔が入ったりするし」
「ふふっ、そうだな」
そこで一度会話が切れ、私とルディの耳に聞こえるのは、遠くの子供たちの声だけになる。十秒ほどして、再びルディが口を開いた。
「いずれ、ガレス・ゴールズと向き合わねばならないとは思っていた。しかし今日、実際に奴と対峙すると、それだけで身がすくんでしまった。そなたにあれだけ偉そうなことをほざいていたくせに、我ながら何というザマだと思うよ。……加奈よ。余が惰弱な臆病者だと知って、幻滅したか?」
私は首を左右に振り、言う。
「むしろ、嬉しかった……かな」
「嬉しい? 何故?」
「私、ルディがあのガレスみたいに、大声で人を脅して、カッとなって暴力を振るうような粗暴な人じゃなかったことが嬉しいの。ルディがおおらかで、戦いを好まない人なのが嬉しいの。だって、ルディがガレスの決闘を真正面から受けるような好戦的な性格だったら、きっと私、ルディと仲良くなれなかったと思うから……」
「加奈……」
「それに、ルディは臆病者なんかじゃないよ。私を助けるために、勇気を振り絞って立ち向かってくれたじゃない。ガレスのことが、怖くてたまらないのに。それって心の『強さ』の証明だよ」
そこで私は、ついさっき飲み込んだ感謝の言葉を、はっきり口にした。
「ルディ、さっきは守ってくれてありがとう」
まっすぐな感謝の言葉を受けて、ルディは照れて俯いてしまった。その反応で、なんだか私も急に恥ずかしくなり、照れくささをごまかすように、さっきルディが発した"聞きなれない言葉"の意味を尋ねる。
「と、ところで、さっきルディが言った『惰弱』ってどういう意味?」
「あ、ああ。『いくじがない』『弱々しい』といった意味だ」
「弱々しい、か……。うーん……」
「どうした?」
「あのさ。ルディって、本当にガレスより弱いの? さっき、腕を掴まれた時のガレスの反応は、むしろルディのことを怖がってるみたいに見えたんだけど」
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