29 / 63
第29話
しおりを挟む
「ルディ・クーランドの友人だと? ……く、ふ、ふはははっ! 人間界に逃げて何をしているのかと思えば、女の連れ合いを作り、お花畑でままごとでもしていたのか? 女々しいお前には似合いの遊びだな」
明らかな侮辱に、怒りと同時に強い疑問が浮かぶ。魔界の王子であるルディに対し、さっきからこの態度。ガレスはいったい、どういう立場の人なんだろう。
そんな思いが、ほとんどそのまま口から出た。
「もう一度だけ聞くわ。魔界の王子であるルディにそんな口をきくなんて、あなた、本当に何者なの?」
ガレスは私を見下ろし、不敵な笑みを浮かべる。
「随分と堂々とした口をきく女だ。ルディ・クーランドよ。この女の方が、貴様よりよっぽど度胸があるぞ。……その度胸に免じて答えてやる。俺はガレス・ゴールズ。魔界の名家ゴールズ家の次期当主であり、現魔王のヴァーゲン様が引退した暁には、その後を継ぎ、新たなる魔王になる男だ」
「ちょっと待って。それって変じゃない? ルディのお父さんである魔王ヴァーゲン様が引退したら、次の魔王になるのはルディでしょ?」
「違う。魔王ヴァーゲン様の長男であるルディ・クーランドが第一王位継承候補であることは間違いないが、俺も含めて、他にも何人か候補がいる。その中で、もっとも強き者が最終的に魔王になるのだ」
「そ、そうなんだ……」
そういえば、ルディは自分のことを『第一の王位継承候補』とは言ったけど、一度も『次期魔王』だなんて言ってなかった気がする。
「そして、その何人かの魔王候補のなかで最強なのがこの俺だ。魔界の伝統で、重要なことは決闘で決める。その決闘で、俺はすでに他の候補者をすべて叩き潰した。後はルディ・クーランドを倒せば、文句なしに俺が次期魔王になれるというのに、そこで縮こまっている腰抜けは、俺との決闘を恐れて人間界に逃げたというわけだ」
ルディはもう『別に逃げていたわけではない』とは言わなかった。……今のガレスの話で、色々な疑問が解消された。ルディが『魔界の者に補足されぬようひっそりと生きている』と言ったこと。そしてついさっき、自分を恥じるように『余はあまり気の強い方ではない』と言ったこと。その両方に納得がいった。
ただ、納得がいかない疑問もある。
その疑問を、私は素直にガレスにぶつけてみることにした。
「あの、次期魔王って、そんなに急いで決めなきゃ駄目なの?」
「どういう意味だ?」
そう聞き返しながらも、ガレスの表情が明らかに厳しくなったのを私は見逃さなかった。どうやら、あまり尋ねてほしくない質問らしい。これ以上追及すれば、ただでさえ気の短そうな彼の逆鱗に触れてしまう気もしたが、それでも、私は問い続けた。……その問いが、ルディを助けることになる気がして。
「だって、あなたもルディも、年代的にはまだ子供で、魔王様もまだ現役(ルディの親なら、今がちょうど気力体力共に充実している年齢のはず)なら、決闘みたいな危ないことをしてまで、慌てて後継者を決める必要なんてないんじゃない? 候補者のなかで、ルディみたいに決闘に乗り気じゃない人がいるなら、なおさら……」
私の理屈を遮るように、ガレスは鼻で笑う。
「ふん。貴様も魔界の老いぼれ大臣どもと同じようなことを言うのだな。確かに魔王様は健在だ。急いで後継者を決める必要はない。しかし、急いで後継者を決めてはいけない理由もないはずだ。だいたい、魔界の伝統である決闘に乗り気ではない臆病者など、候補者以前の問題だ。弱き者が魔王になれるわけないからな。違うか?」
明らかな侮辱に、怒りと同時に強い疑問が浮かぶ。魔界の王子であるルディに対し、さっきからこの態度。ガレスはいったい、どういう立場の人なんだろう。
そんな思いが、ほとんどそのまま口から出た。
「もう一度だけ聞くわ。魔界の王子であるルディにそんな口をきくなんて、あなた、本当に何者なの?」
ガレスは私を見下ろし、不敵な笑みを浮かべる。
「随分と堂々とした口をきく女だ。ルディ・クーランドよ。この女の方が、貴様よりよっぽど度胸があるぞ。……その度胸に免じて答えてやる。俺はガレス・ゴールズ。魔界の名家ゴールズ家の次期当主であり、現魔王のヴァーゲン様が引退した暁には、その後を継ぎ、新たなる魔王になる男だ」
「ちょっと待って。それって変じゃない? ルディのお父さんである魔王ヴァーゲン様が引退したら、次の魔王になるのはルディでしょ?」
「違う。魔王ヴァーゲン様の長男であるルディ・クーランドが第一王位継承候補であることは間違いないが、俺も含めて、他にも何人か候補がいる。その中で、もっとも強き者が最終的に魔王になるのだ」
「そ、そうなんだ……」
そういえば、ルディは自分のことを『第一の王位継承候補』とは言ったけど、一度も『次期魔王』だなんて言ってなかった気がする。
「そして、その何人かの魔王候補のなかで最強なのがこの俺だ。魔界の伝統で、重要なことは決闘で決める。その決闘で、俺はすでに他の候補者をすべて叩き潰した。後はルディ・クーランドを倒せば、文句なしに俺が次期魔王になれるというのに、そこで縮こまっている腰抜けは、俺との決闘を恐れて人間界に逃げたというわけだ」
ルディはもう『別に逃げていたわけではない』とは言わなかった。……今のガレスの話で、色々な疑問が解消された。ルディが『魔界の者に補足されぬようひっそりと生きている』と言ったこと。そしてついさっき、自分を恥じるように『余はあまり気の強い方ではない』と言ったこと。その両方に納得がいった。
ただ、納得がいかない疑問もある。
その疑問を、私は素直にガレスにぶつけてみることにした。
「あの、次期魔王って、そんなに急いで決めなきゃ駄目なの?」
「どういう意味だ?」
そう聞き返しながらも、ガレスの表情が明らかに厳しくなったのを私は見逃さなかった。どうやら、あまり尋ねてほしくない質問らしい。これ以上追及すれば、ただでさえ気の短そうな彼の逆鱗に触れてしまう気もしたが、それでも、私は問い続けた。……その問いが、ルディを助けることになる気がして。
「だって、あなたもルディも、年代的にはまだ子供で、魔王様もまだ現役(ルディの親なら、今がちょうど気力体力共に充実している年齢のはず)なら、決闘みたいな危ないことをしてまで、慌てて後継者を決める必要なんてないんじゃない? 候補者のなかで、ルディみたいに決闘に乗り気じゃない人がいるなら、なおさら……」
私の理屈を遮るように、ガレスは鼻で笑う。
「ふん。貴様も魔界の老いぼれ大臣どもと同じようなことを言うのだな。確かに魔王様は健在だ。急いで後継者を決める必要はない。しかし、急いで後継者を決めてはいけない理由もないはずだ。だいたい、魔界の伝統である決闘に乗り気ではない臆病者など、候補者以前の問題だ。弱き者が魔王になれるわけないからな。違うか?」
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
霊能者、はじめます!
島崎 紗都子
児童書・童話
小学六年生の神埜菜月(こうのなつき)は、ひょんなことから同じクラスで学校一のイケメン鴻巣翔流(こうのすかける)が、霊が視えて祓えて成仏させることができる霊能者だと知る。
最初は冷たい性格の翔流を嫌う菜月であったが、少しずつ翔流の優しさを知り次第に親しくなっていく。だが、翔流と親しくなった途端、菜月の周りで不可思議なことが起こるように。さらに翔流の能力の影響を受け菜月も視える体質に…!
平安学園〜春の寮〜 お兄ちゃん奮闘記
葉月百合
児童書・童話
小学上級、中学から。十二歳まで離れて育った双子の兄妹、光(ひかる)と桃代(ももよ)。
舞台は未来の日本。最先端の科学の中で、科学より自然なくらしが身近だった古い時代たちひとつひとつのよいところを大切にしている平安学園。そんな全寮制の寄宿学校へ入学することになった二人。
兄の光が学校になれたころ、妹の桃代がいじめにあって・・・。
相部屋の先輩に振り回されちゃう妹思いのお兄ちゃんが奮闘する、ハートフル×美味しいものが織りなすグルメファンタジー和風学園寮物語。
小学上級、中学から。
宝石店の魔法使い~吸血鬼と赤い石~
橘花やよい
児童書・童話
宝石店の娘・ルリは、赤い瞳の少年が持っていた赤い宝石を、間違えてお客様に売ってしまった。
しかも、その少年は吸血鬼。石がないと人を襲う「吸血衝動」を抑えられないらしく、「石を返せ」と迫られる。お仕事史上、最大の大ピンチ!
だけどレオは、なにかを隠しているようで……?
そのうえ、宝石が盗まれたり、襲われたりと、騒動に巻き込まれていく。
魔法ファンタジー×ときめき×お仕事小説!
「第1回きずな児童書大賞」特別賞をいただきました。
GREATEST BOONS+
丹斗大巴
児童書・童話
幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。
異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)を生みだし、規格外のインベントリ&ものづくりスキルを使いこなす! ユニークスキルのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅する、ほのぼの異世界珍道中。
便利な「しおり」機能、「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です!
村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。
わたしの師匠になってください! ―お師匠さまは落ちこぼれ魔道士?―
島崎 紗都子
児童書・童話
「師匠になってください!」
落ちこぼれ無能魔道士イェンの元に、突如、ツェツイーリアと名乗る少女が魔術を教えて欲しいと言って現れた。ツェツイーリアの真剣さに負け、しぶしぶ彼女を弟子にするのだが……。次第にイェンに惹かれていくツェツイーリア。彼女の真っ直ぐな思いに戸惑うイェン。何より、二人の間には十二歳という歳の差があった。そして、落ちこぼれと皆から言われてきたイェンには、隠された秘密があって──。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
転校生はおんみょうじ!
咲間 咲良
児童書・童話
森崎花菜(もりさきはな)は、ちょっぴり人見知りで怖がりな小学五年生。
ある日、親友の友美とともに向かった公園で木の根に食べられそうになってしまう。助けてくれたのは見知らぬ少年、黒住アキト。
花菜のクラスの転校生だったアキトは赤茶色の猫・赤ニャンを従える「おんみょうじ」だという。
なりゆきでアキトとともに「鬼退治」をすることになる花菜だったが──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる