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第29話
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「ルディ・クーランドの友人だと? ……く、ふ、ふはははっ! 人間界に逃げて何をしているのかと思えば、女の連れ合いを作り、お花畑でままごとでもしていたのか? 女々しいお前には似合いの遊びだな」
明らかな侮辱に、怒りと同時に強い疑問が浮かぶ。魔界の王子であるルディに対し、さっきからこの態度。ガレスはいったい、どういう立場の人なんだろう。
そんな思いが、ほとんどそのまま口から出た。
「もう一度だけ聞くわ。魔界の王子であるルディにそんな口をきくなんて、あなた、本当に何者なの?」
ガレスは私を見下ろし、不敵な笑みを浮かべる。
「随分と堂々とした口をきく女だ。ルディ・クーランドよ。この女の方が、貴様よりよっぽど度胸があるぞ。……その度胸に免じて答えてやる。俺はガレス・ゴールズ。魔界の名家ゴールズ家の次期当主であり、現魔王のヴァーゲン様が引退した暁には、その後を継ぎ、新たなる魔王になる男だ」
「ちょっと待って。それって変じゃない? ルディのお父さんである魔王ヴァーゲン様が引退したら、次の魔王になるのはルディでしょ?」
「違う。魔王ヴァーゲン様の長男であるルディ・クーランドが第一王位継承候補であることは間違いないが、俺も含めて、他にも何人か候補がいる。その中で、もっとも強き者が最終的に魔王になるのだ」
「そ、そうなんだ……」
そういえば、ルディは自分のことを『第一の王位継承候補』とは言ったけど、一度も『次期魔王』だなんて言ってなかった気がする。
「そして、その何人かの魔王候補のなかで最強なのがこの俺だ。魔界の伝統で、重要なことは決闘で決める。その決闘で、俺はすでに他の候補者をすべて叩き潰した。後はルディ・クーランドを倒せば、文句なしに俺が次期魔王になれるというのに、そこで縮こまっている腰抜けは、俺との決闘を恐れて人間界に逃げたというわけだ」
ルディはもう『別に逃げていたわけではない』とは言わなかった。……今のガレスの話で、色々な疑問が解消された。ルディが『魔界の者に補足されぬようひっそりと生きている』と言ったこと。そしてついさっき、自分を恥じるように『余はあまり気の強い方ではない』と言ったこと。その両方に納得がいった。
ただ、納得がいかない疑問もある。
その疑問を、私は素直にガレスにぶつけてみることにした。
「あの、次期魔王って、そんなに急いで決めなきゃ駄目なの?」
「どういう意味だ?」
そう聞き返しながらも、ガレスの表情が明らかに厳しくなったのを私は見逃さなかった。どうやら、あまり尋ねてほしくない質問らしい。これ以上追及すれば、ただでさえ気の短そうな彼の逆鱗に触れてしまう気もしたが、それでも、私は問い続けた。……その問いが、ルディを助けることになる気がして。
「だって、あなたもルディも、年代的にはまだ子供で、魔王様もまだ現役(ルディの親なら、今がちょうど気力体力共に充実している年齢のはず)なら、決闘みたいな危ないことをしてまで、慌てて後継者を決める必要なんてないんじゃない? 候補者のなかで、ルディみたいに決闘に乗り気じゃない人がいるなら、なおさら……」
私の理屈を遮るように、ガレスは鼻で笑う。
「ふん。貴様も魔界の老いぼれ大臣どもと同じようなことを言うのだな。確かに魔王様は健在だ。急いで後継者を決める必要はない。しかし、急いで後継者を決めてはいけない理由もないはずだ。だいたい、魔界の伝統である決闘に乗り気ではない臆病者など、候補者以前の問題だ。弱き者が魔王になれるわけないからな。違うか?」
明らかな侮辱に、怒りと同時に強い疑問が浮かぶ。魔界の王子であるルディに対し、さっきからこの態度。ガレスはいったい、どういう立場の人なんだろう。
そんな思いが、ほとんどそのまま口から出た。
「もう一度だけ聞くわ。魔界の王子であるルディにそんな口をきくなんて、あなた、本当に何者なの?」
ガレスは私を見下ろし、不敵な笑みを浮かべる。
「随分と堂々とした口をきく女だ。ルディ・クーランドよ。この女の方が、貴様よりよっぽど度胸があるぞ。……その度胸に免じて答えてやる。俺はガレス・ゴールズ。魔界の名家ゴールズ家の次期当主であり、現魔王のヴァーゲン様が引退した暁には、その後を継ぎ、新たなる魔王になる男だ」
「ちょっと待って。それって変じゃない? ルディのお父さんである魔王ヴァーゲン様が引退したら、次の魔王になるのはルディでしょ?」
「違う。魔王ヴァーゲン様の長男であるルディ・クーランドが第一王位継承候補であることは間違いないが、俺も含めて、他にも何人か候補がいる。その中で、もっとも強き者が最終的に魔王になるのだ」
「そ、そうなんだ……」
そういえば、ルディは自分のことを『第一の王位継承候補』とは言ったけど、一度も『次期魔王』だなんて言ってなかった気がする。
「そして、その何人かの魔王候補のなかで最強なのがこの俺だ。魔界の伝統で、重要なことは決闘で決める。その決闘で、俺はすでに他の候補者をすべて叩き潰した。後はルディ・クーランドを倒せば、文句なしに俺が次期魔王になれるというのに、そこで縮こまっている腰抜けは、俺との決闘を恐れて人間界に逃げたというわけだ」
ルディはもう『別に逃げていたわけではない』とは言わなかった。……今のガレスの話で、色々な疑問が解消された。ルディが『魔界の者に補足されぬようひっそりと生きている』と言ったこと。そしてついさっき、自分を恥じるように『余はあまり気の強い方ではない』と言ったこと。その両方に納得がいった。
ただ、納得がいかない疑問もある。
その疑問を、私は素直にガレスにぶつけてみることにした。
「あの、次期魔王って、そんなに急いで決めなきゃ駄目なの?」
「どういう意味だ?」
そう聞き返しながらも、ガレスの表情が明らかに厳しくなったのを私は見逃さなかった。どうやら、あまり尋ねてほしくない質問らしい。これ以上追及すれば、ただでさえ気の短そうな彼の逆鱗に触れてしまう気もしたが、それでも、私は問い続けた。……その問いが、ルディを助けることになる気がして。
「だって、あなたもルディも、年代的にはまだ子供で、魔王様もまだ現役(ルディの親なら、今がちょうど気力体力共に充実している年齢のはず)なら、決闘みたいな危ないことをしてまで、慌てて後継者を決める必要なんてないんじゃない? 候補者のなかで、ルディみたいに決闘に乗り気じゃない人がいるなら、なおさら……」
私の理屈を遮るように、ガレスは鼻で笑う。
「ふん。貴様も魔界の老いぼれ大臣どもと同じようなことを言うのだな。確かに魔王様は健在だ。急いで後継者を決める必要はない。しかし、急いで後継者を決めてはいけない理由もないはずだ。だいたい、魔界の伝統である決闘に乗り気ではない臆病者など、候補者以前の問題だ。弱き者が魔王になれるわけないからな。違うか?」
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