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第28話
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「それは……その……人間界を見て回り、見識を深めたいと思って……」
「そうか。では、決闘の後に好きなだけ見識を深めるといい。さあ、魔界に戻るぞ」
「いや……でも……急に言われても……こっちの都合もあるし……」
その言葉で、ただでさえ喧嘩腰だったガレスが激怒した。
「ふざけるな! 俺の都合を無視して決闘から逃げたくせに、何が『こっちの都合もある』だ!」
声自体は、それほど大きな声じゃない。しかし、もの凄い迫力だった。ガレスが喋るのとタイミングを合わせて、彼の体から火花のようなものがはじけ飛ぶ。話の内容から察するに、ガレスもルディと同じ魔界人のようだし、この火花は、魔法の力が溢れ出ている感じなのだろうか。
ガレスはさらに一歩距離を詰め、ルディを見下ろして言う。
「なんなら、ここで戦ってやってもいいんだぞ。魔界の闘技場でやらなければ正式な決闘とは認められないが、俺もイライラしているんでな。何の利益にもならない単なる喧嘩でも、こっちは一向にかまわない。まあ、魔王様に知られたら、後で面倒なことになるかもしれんが……」
そして、あと一歩距離を詰める。もうガレスが手を出せばルディの顔に届く距離だ。ルディは恐怖のあまり、もう言葉を発することもできない。正直、私も怖かったので、誰か大人に助けてほしかったが、都合の悪いことに近くには誰もいない(もっとも、大人がいても、このガレスを止められるかどうかはあやしいものだけど……)。
となれば、ルディは何も言えない状態なので、この状況をなんとかできるのはもう私しかいない。魔界の王子であるルディは人間に対しておおらかで好意的なので、このガレスも、いきなり暴力を振るってくるようなことはないと仮定して(魔界人が人間を襲ったなんてニュースも聞いたことないし)説得を試みる。
「あ、あの、すいません。ちょっといいですか?」
たぶん同年代だけど、初対面の相手に対する礼儀として敬語を使う。ガレスは、これまで黙りこくっていた私がいきなり話しかけてきたことで一瞬目を丸くするが、すぐに険しい視線をこちらに向けてきた。
「なんだ。今、取り込み中なのがわからんのか」
怖い。ものすごく怖い。威圧感が凄い。……でも、一応コミュニケーション可能な相手であることが分かり、そこはホッとする。『取り込み中だ』って怒られたけど、その前に『なんだ』とも言われてるし、こちらの意見を言っても大丈夫だろう。たぶん。
私は一度だけ深呼吸し、覚悟を決めてガレスに語りかける。
「私は稲葉加奈。こっちの世界の人間で、ルディの友達よ。あなた、いったい何者なの? 話を聞いていると、ルディと同じ魔界の人みたいだけど」
無意識のうちに、私は敬語を使うのをやめていた。威圧的なガレスに対し、丁寧な言葉を使っていたら、気持ちで負けてしまいそうだから、自然とこっちも挑戦的な言葉遣いになったのだと思う。
それにしても、『いったい何者』とは、まるで時代劇みたいな言い回しだ。初めてルディと出会った時を思い出し、こんな状況にもかかわらず、少しだけ気持ちがなごんだ。
「そうか。では、決闘の後に好きなだけ見識を深めるといい。さあ、魔界に戻るぞ」
「いや……でも……急に言われても……こっちの都合もあるし……」
その言葉で、ただでさえ喧嘩腰だったガレスが激怒した。
「ふざけるな! 俺の都合を無視して決闘から逃げたくせに、何が『こっちの都合もある』だ!」
声自体は、それほど大きな声じゃない。しかし、もの凄い迫力だった。ガレスが喋るのとタイミングを合わせて、彼の体から火花のようなものがはじけ飛ぶ。話の内容から察するに、ガレスもルディと同じ魔界人のようだし、この火花は、魔法の力が溢れ出ている感じなのだろうか。
ガレスはさらに一歩距離を詰め、ルディを見下ろして言う。
「なんなら、ここで戦ってやってもいいんだぞ。魔界の闘技場でやらなければ正式な決闘とは認められないが、俺もイライラしているんでな。何の利益にもならない単なる喧嘩でも、こっちは一向にかまわない。まあ、魔王様に知られたら、後で面倒なことになるかもしれんが……」
そして、あと一歩距離を詰める。もうガレスが手を出せばルディの顔に届く距離だ。ルディは恐怖のあまり、もう言葉を発することもできない。正直、私も怖かったので、誰か大人に助けてほしかったが、都合の悪いことに近くには誰もいない(もっとも、大人がいても、このガレスを止められるかどうかはあやしいものだけど……)。
となれば、ルディは何も言えない状態なので、この状況をなんとかできるのはもう私しかいない。魔界の王子であるルディは人間に対しておおらかで好意的なので、このガレスも、いきなり暴力を振るってくるようなことはないと仮定して(魔界人が人間を襲ったなんてニュースも聞いたことないし)説得を試みる。
「あ、あの、すいません。ちょっといいですか?」
たぶん同年代だけど、初対面の相手に対する礼儀として敬語を使う。ガレスは、これまで黙りこくっていた私がいきなり話しかけてきたことで一瞬目を丸くするが、すぐに険しい視線をこちらに向けてきた。
「なんだ。今、取り込み中なのがわからんのか」
怖い。ものすごく怖い。威圧感が凄い。……でも、一応コミュニケーション可能な相手であることが分かり、そこはホッとする。『取り込み中だ』って怒られたけど、その前に『なんだ』とも言われてるし、こちらの意見を言っても大丈夫だろう。たぶん。
私は一度だけ深呼吸し、覚悟を決めてガレスに語りかける。
「私は稲葉加奈。こっちの世界の人間で、ルディの友達よ。あなた、いったい何者なの? 話を聞いていると、ルディと同じ魔界の人みたいだけど」
無意識のうちに、私は敬語を使うのをやめていた。威圧的なガレスに対し、丁寧な言葉を使っていたら、気持ちで負けてしまいそうだから、自然とこっちも挑戦的な言葉遣いになったのだと思う。
それにしても、『いったい何者』とは、まるで時代劇みたいな言い回しだ。初めてルディと出会った時を思い出し、こんな状況にもかかわらず、少しだけ気持ちがなごんだ。
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