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第25話
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「い、いや、そんな……。でも、ちょっと言いすぎだったかも。結果的に、みんなの前で広瀬さんに恥をかかせるかたちになっちゃったし」
「全然そんなことないって。むしろ、ああいう子には、誰かがガツンと言ってやらなきゃ駄目なんだと思うよ。……そういえばさ、同じクラスになってもう二ヶ月たつのに、私たち、口きくの初めてじゃない?」
「そうかも。私、千佳ちゃん以外の子と全然しゃべらなかったから」
「私、富樫美虎(とがし みとら)! よろしくね! 凄い名前でしょ? 美しい虎だよ? 完全に名前負け! どんなつもりでこんな名前つけたのか、パパとママを小一時間問い詰めたいわ! で、こっちの眼鏡が平桂(たいら けい)。中国人みたいな名前だけど日本人だよ。戸籍見たわけじゃないから実際は分かんないけど」
「疑うな。こちとらバリバリの日本人じゃ。それより稲葉さん、私のこともよろしくね。いや~、しつこいようだけど、さっきは本当にスカッとしたわ~。こんなにスカッとしたの、ひさしぶり。漫画やドラマと違って、苦手な相手が実際にやり込められるところを見れるなんて、めったにないもんね~」
広瀬さんに対して相当フラストレーションがたまっていたのか、何度も『スカッとした』と繰り返す平さん。二人とも、めちゃくちゃに明るい。同じクラスに、こんなに明るくて楽しい人たちがいることに、私は今日までまったく気がついていなかった。それだけ、私の視野と世界が狭まっていたのだろう。
こうして新しい友達が二人でき、そして、自分で自分を閉じ込めていた殻を破り、新しい一歩を踏み出したような気持ちで、今日は学校での時間を過ごすことができた。
・
・
・
その後は、これといったトラブルもなく放課後になり、私は昨日と同じように、ルディと肩を並べて帰り道を歩いている。ルディは今日の体育の時間、軟式の野球でピッチャーをやり、それが気に入ったのか、時折ボールを投げるようなそぶりをしながら口を開く。
「美虎と桂は実に愉快な娘たちだったな。少し喋りすぎな気もするが」
ルディの言う通り、美虎ちゃんと桂ちゃんは本当に楽しい子たちだった。言うことやることすべてが面白くて、私は学校でこんなに笑ったことがないと思うほど笑い、とても愉快だった。
ただ、私が二人やルディと一緒にいると、千佳ちゃんがほとんど話しかけてくれないのが少し寂しかったが、気配りの達人の千佳ちゃんのことだから、私が新しい友達を作ろうとしているのを見て、変に間に入らない方がいいだろうと気を使ってくれたのかもしれない。と言うより、そうに違いない。さすが千佳ちゃんだ。
千佳ちゃんの優しい配慮を思い、一人で感心してうんうんと頷く私。そして、明日は自分から千佳ちゃんに話しかけてみようと決心し、今度は一度だけ、大きく頷いた。
そんな私に、ルディは小さく首をかしげて尋ねてくる。
「ところで、吹奏楽部の活動場所には行かなくていいのか? もう、あの広瀬に気後れすることもないだろうし、練習を再開するなら早い方がいいだろう?」
「全然そんなことないって。むしろ、ああいう子には、誰かがガツンと言ってやらなきゃ駄目なんだと思うよ。……そういえばさ、同じクラスになってもう二ヶ月たつのに、私たち、口きくの初めてじゃない?」
「そうかも。私、千佳ちゃん以外の子と全然しゃべらなかったから」
「私、富樫美虎(とがし みとら)! よろしくね! 凄い名前でしょ? 美しい虎だよ? 完全に名前負け! どんなつもりでこんな名前つけたのか、パパとママを小一時間問い詰めたいわ! で、こっちの眼鏡が平桂(たいら けい)。中国人みたいな名前だけど日本人だよ。戸籍見たわけじゃないから実際は分かんないけど」
「疑うな。こちとらバリバリの日本人じゃ。それより稲葉さん、私のこともよろしくね。いや~、しつこいようだけど、さっきは本当にスカッとしたわ~。こんなにスカッとしたの、ひさしぶり。漫画やドラマと違って、苦手な相手が実際にやり込められるところを見れるなんて、めったにないもんね~」
広瀬さんに対して相当フラストレーションがたまっていたのか、何度も『スカッとした』と繰り返す平さん。二人とも、めちゃくちゃに明るい。同じクラスに、こんなに明るくて楽しい人たちがいることに、私は今日までまったく気がついていなかった。それだけ、私の視野と世界が狭まっていたのだろう。
こうして新しい友達が二人でき、そして、自分で自分を閉じ込めていた殻を破り、新しい一歩を踏み出したような気持ちで、今日は学校での時間を過ごすことができた。
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その後は、これといったトラブルもなく放課後になり、私は昨日と同じように、ルディと肩を並べて帰り道を歩いている。ルディは今日の体育の時間、軟式の野球でピッチャーをやり、それが気に入ったのか、時折ボールを投げるようなそぶりをしながら口を開く。
「美虎と桂は実に愉快な娘たちだったな。少し喋りすぎな気もするが」
ルディの言う通り、美虎ちゃんと桂ちゃんは本当に楽しい子たちだった。言うことやることすべてが面白くて、私は学校でこんなに笑ったことがないと思うほど笑い、とても愉快だった。
ただ、私が二人やルディと一緒にいると、千佳ちゃんがほとんど話しかけてくれないのが少し寂しかったが、気配りの達人の千佳ちゃんのことだから、私が新しい友達を作ろうとしているのを見て、変に間に入らない方がいいだろうと気を使ってくれたのかもしれない。と言うより、そうに違いない。さすが千佳ちゃんだ。
千佳ちゃんの優しい配慮を思い、一人で感心してうんうんと頷く私。そして、明日は自分から千佳ちゃんに話しかけてみようと決心し、今度は一度だけ、大きく頷いた。
そんな私に、ルディは小さく首をかしげて尋ねてくる。
「ところで、吹奏楽部の活動場所には行かなくていいのか? もう、あの広瀬に気後れすることもないだろうし、練習を再開するなら早い方がいいだろう?」
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